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第三十二話 ロシア帝国正統政府樹立(2)

1921年2月11日


 戴冠式は、日本領である樺太の豊原で行われた。2月の厳寒期に、北樺太まで来賓を案内するのは不可能という判断からだ。


 アナスタシアの戴冠式には、全世界から多くの政府特使が派遣された。ロシア皇帝の戴冠式とあれば、本来は、元首級か王室の誰かが参加するのだが、実際、ロシア帝国の亡命政府が赤軍を駆逐できるなど、誰も思ってはいなかったので、とりあえず、そこそこの高官を派遣したという所だろう。


 新聞記者も、渡航費用をロシアが負担すると発表し、出来るだけ多くの国から来てもらっている。


 もちろん、赤軍から来ているのは、外交官ではなく非難声明だ。


 ロシア正教の司祭が、王冠をゆっくりとアナスタシアの頭にかぶせる。聖ワシリイ大聖堂には遠く及ばないが、日本の協力によって急遽改築された聖堂にて、厳かに執り行われた。


「美しい・・・」


 王冠をかぶり、白と赤を基調としたローブ、そして、ロッドを携えてアナスタシアは皆の前に立つ。その凜々しく、そして美しいアナスタシアの姿に、会場に居た全ての人たちが、こころを奪われる。


 ローブは、日本産の絹糸を使用し、西陣織の技法で仕上げた特一級品だ。


 戴冠式の後、各国からの来賓一人一人に挨拶をしていく。ロシア皇帝が、王族でもない外交官の来賓一人一人に挨拶をするのは、異例中の異例だ。それだけ、アナスタシアがこの戴冠式を外交の場と考えている証左である。


 そして、すぐに憲法の公布と即日施行が宣言される。議会の審議を経ていない欽定憲法だが、当時としては特におかしな事ではなかった。そして、皆、その憲法の民主的な内容に驚く。


 1.基本的人権の尊重

 2.表現の自由

 3.三権の分立

 4.法の下の平等(性別や門地や人種によって差別されない。貴族制は残すが、名誉称号であり特権は無い)

 5.兵役・労働・納税・教育を受けさせる義務

 6.皇帝の権限は、内閣の補弼によって行使されることを明記

 7.憲法の改正には、議会定員の60%以上と、国民投票にて有効投票の半数以上の同意が必要


 大日本帝国憲法ではなく、日本国憲法を参考にした内容だ。だが、戦力の不保持などは、当然入れていない。


 憲法の策定に当たって、貴族たちの抵抗が多少あったが、日本の後ろ盾が無いと、どちらにしても、貴族は復権できないどころか、最悪、赤軍に逮捕されて銃殺の憂き目に遭うことを説明し、個人資産の没収などは行わないことを条件に同意させた。


 そして、さらに驚くべき発表がされる。


「アナスタシア皇帝陛下は、日本国侯爵、有馬勝巳を皇配とすることにされた。有馬侯爵は、村上天皇の血統を継ぐ由緒正しき家柄であり、これにより、ロシア皇帝と大日本帝国天皇は、永遠の共存共栄を約束された」


 ※有馬家は本来子爵だが、アナスタシアとの結婚のため、勝巳を独立させ侯爵位に陞爵させた。


 そして、有馬勝巳が登壇する。有馬は身長が170cmあり、当時の西洋人と比較しても見劣りはしなかったが、ここはあえて、7cmのシークレットブーツでさらに底上げしている。


 そして、司祭から祝福され、二人の結婚が世界中に発信された。


「ロシア革命によって赤軍に逮捕され、虜囚として辛い日々を送っていました。でも、三人の姉やアレクセイ、そして、皇帝皇后と一緒に居るだけで幸せでした。しかし、赤軍は、秘密裏に私たちを処刑しようとしたのです。私以外の家族は、無残にもエカテリンブルクにおいて、赤軍によって射殺されました。すんでのところで白軍に救助された私は、侍従のルバノフと二人で、ニコラエフスクまで逃げてきたのです」


 アナスタシアは、大粒の涙を止めどなく流す。しかし、その決意に満ちた顔は凜々しく前を向き、外交官や新聞記者たちをまっすぐに見ている。


「そして、赤軍の追っ手はニコラエフスクにまで迫りました。ルバノフは赤軍との銃撃戦の末、そこで命を落としてしまいます。赤軍は私に銃を突きつけ、今まさに引き金を引こうとしたところに、有馬侯爵が助けに来てくれたのです。今、私の命があるのは、有馬侯爵のおかげです。前皇帝のニコライ二世は、名君とは言い難かったと思います。しかし、今赤軍がしていることは、さらに悲惨なことを民衆に強いています。逃亡している間、様々な場所で、赤軍による略奪や虐殺、そしておびただしい餓死者を目撃しました。ロシア国民を救うには、皆さんの、世界の助けが必要です。どうか、お力を貸してください」


 そう言って、アナスタシアは深々と頭を下げる。


 会場からは、「パチパチ」と少しずつ拍手が始まり、そして、会場全てを包むオベーションになった。


 涙を流しながら世界の協力を訴える、アナスタシアの凜々しく美しい顔のアップ写真が、「悲劇の公女」として世界中の新聞に載り、そして、殺害された公女たちの愛らしい写真も掲載された。


 また、ロシア革命で逮捕されてから、本日の戴冠式までの出来事が「アナスタシアの日記」として出版される。もちろん、かなり脚色されている。


 世界の世論は、赤軍に対して強い怒りの声を上げるのだった。



第三十二話を読んで頂いてありがとうございます。

さあ、赤軍への反撃はいつ始まるのか?

まだまだ先になりそうな感じですが・・・・


完結に向けて頑張って執筆していきますので、「面白い!」「続きを読みたい!」と思って頂けたら、ブックマークや評価をして頂けるとうれしいです!


おもしろくない!と思ったら「★☆☆☆☆」でも結構です!改善していきます!


また、ご感想を頂けると、執筆の参考になります!


「テンポが遅い」「意味がよくわからない」「二番煎じ」とかの批判も大歓迎です!

歴史に詳しくない方でも、楽しんでいただけているのかちょっと不安です。その辺りの感想もいただけるとうれしいです!


モチベーションががあがると、寝る間も惜しんで執筆してしまいます。


これからも、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 千年前の分家ってほぼ他人やんと思ったけど、言い換えればそれだけ由緒正しく遡れるになるのですね。
[気になる点]  進歩史観 [一言]  共産主義や全体主義や無政府主義を進歩と見なす勢力がある時代に、アナスタシアが無条件にアメリカ流自由主義を「進んだ体制」とみなすのはなぜでしょうねって事です。
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