第二八六話 バルバロッサ作戦(1)
1940年8月5日
イギリス・フィンランド・ギリシャ・イタリアの各国に、大型機の運用できる滑走路が整備され、続々と九八式重爆撃機が到着していた。
※九八式重爆撃機 日本陸軍と宇宙軍とで共同開発された戦略爆撃機。5,000馬力のターボプロップ4発機で、最大搭載量17,000kg、最大航続距離11,000km(フェリー時)の高性能を誇る。1938年の製造開始からの累計生産機数は700機に達しており、現在も増産が続けられている。
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宇宙軍本部
「ドイツの機甲師団が東部に集結しつつありますね。どう思います?連中、対ソ戦を決意したと言うことでしょうか?」
「カスピ海西岸の油田地帯を押さえたいのかもな。バクー油田だと距離がありすぎて戦闘機の護衛が出来ない。バクー油田なら我々から爆撃されないと思っている可能性はあるな」
高城蒼龍、森川中佐、白次中佐がヨーロッパの地図を前に会議を行っている。
「開戦から一年でドイツの航空戦力にはかなり損害を与えているが、その間も戦車の増産は進んでいる。この資料だと、75mmもしくは88mm砲搭載の駆逐戦車が4,000両、75mm砲搭載のⅣ号V号戦車が5,000両もあるのか。Ⅲ号やⅡ号戦戦車も1,000両程度確認されているから、合計10,000両の大機甲部隊だな」
「ああ、この戦力をもって一気にモスクワを落とすつもりだろうな。ソ連の戦力がシベリア方面に集中している今なら、簡単に落とせると思っているんだろう」
※史実でも、バトル・オブ・ブリテンで2,000機もの航空機を失いながら、ヒトラーは1941年6月にバルバロッサ作戦を開始して、ソ連領に侵攻している。西部方面ではドーバー海峡を挟んで膠着状態だったとは言え、北アフリカではドイツの機甲師団はイギリス軍と激しい戦闘を行っており、合理的な判断だとはヒトラー以外誰も思ってはいなかった。
「日英軍のヨーロッパ再上陸まで、あと1年近くかかるだろうという判断だろうな。それまでに、ソ連を解体して石油の確保と、東部方面で日本との停戦を考えているのかも知れん」
「しかし、とてもではないが合理的な判断とは思えないな。だいたい、バクー油田を手に入れてもどうやって輸送するんだ?ベルリンと直線距離で3,000kmもあるんだぞ。その間の鉄道網が攻撃されないとでも思ってるのか?」
森川中佐がため息交じりに言葉を紡ぐ。
1940年当時に於いて、輸送や補給路の確保といったことは、とにかく軽視されがちであった。史実の日本に於いても、石油資源を手に入れるためにオランダ領インドネシアを占領したが、その石油を安全に日本まで運ぶ方法については、1943年末ごろまで真剣に検討されてはいない。しかし、その後も海上護衛は十分とは言えず、太平洋戦争開戦時に合計600万トンあった輸送船は、最終的に30万トンになるまで撃沈されてしまったのだ。
「しかし、ドイツの工業地帯への爆撃が出来ていればもっと戦力を削れていたんだがな」
「まあ、仕方が無いよ。九八式重爆撃や九七式戦闘攻撃機の増産もこの1年でやっと軌道に乗ったんだし。それに、主な戦力はシベリア方面に配置していたからね」
戦争開始前から、リチャード・インベストメントの資本を使って製造設備や工場の準備はしていた。しかし、実際に戦争も始まっていないのに重爆撃機などの大量生産は出来なかったのだ。
「対ソ戦を開始するとしたら、あとどれくらいだ?」
「機甲師団の移動と補給物資の集積の具合から見て、早くて10日後くらいでしょうね。戦力の逐次投入は行わないと思いますので、ある程度集結してからでしょう」
「いずれにしても、ドイツのソ連領への侵攻は阻止する。この作戦はイギリスにも極秘だ。チャーチルは独ソを戦わせて両方とも疲弊させればいいと思っているからな」
「しかし、極秘に実行して、イギリスから抗議されたらどう説明する?」
「それは簡単だよ。スターリンが支配しているとはいえ、あそこは本来ロシア帝国の国土だからね。ロシア帝国の神聖な国土を侵そうとする者は何人たりともゆるさないってことだよ。“アナスタシア皇帝陛下はドイツにお怒りだ”って言えば反論できないんじゃないかな」
高城蒼龍がドヤ顔で言い放つ。
「ああ、確かに。そう説明すればイギリスも納得しないわけにはいかないか」
「じゃあ、ポーランド、ルーマニア、スロバキアに集結しているドイツ軍機甲師団に対して爆撃を加えると言うことで決定だな。九八式重爆撃機は400機がヨーロッパ方面に展開している。イギリスからだと遠いから、フィンランド、イタリア、ギリシャからの攻撃か。ここからなら、九七式戦闘攻撃機と零式戦闘攻撃機も護衛につけることができる」
すぐさま作戦が立案され、統合幕僚本部に送られた。
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バルバロッサ作戦が始まりそうですね。
土日は休載です。
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