第二十一話 尼港事件(5)
日本軍は、ある程度の損害を出しながらも、なんとかニコラエフスクの防衛に成功した。心配された中国軍艦船からの砲撃は無く、彼らは最後まで中立を保った。
有馬少将は、捕縛したヤーコフらを白軍に引き渡す。
「日本軍の協力に感謝いたします。これで、しばらくはニコラエフスクも安全でしょう」
「しかし、メドべーデフ大佐。我々は、アムール川の氷がとければ、居留民を連れて本国に帰還いたします。その後は、どうされるおつもりですか?ウラジオストクも、赤軍に降伏したとの情報があります。我が日本軍は、貴国の内戦には不干渉という立場を取っておりますので、なかなか支援は難しいかと思います」
有馬少将は、日本軍が撤収した後のニコラエフスクの防衛について心配する。
「そうですな。次に赤軍の襲撃があったら、おそらく持ちこたえることは出来ないでしょう。補給も無いですしね。また、街の労働者の中には、赤軍の到着を待っている者たちもいると聞きます。コルチャーク司令官も赤軍に捕縛されましたし、そろそろ潮時かと思います。暖かくなったら、我々もどこかに逃げるとしましょうか」
「そうですか。それと、偵察部隊が収拾した、赤軍の連中が近隣の村で行った略奪や虐殺の証拠をお渡ししておきます。一応、敵兵といえども、裁判を行わずに処刑することには懸念を表明しておきます」
「有馬少将。ご配慮に感謝します」
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「ヤーコフ、これらの証拠に反論はあるか?」
街の集会所で軍事裁判が開かれる。もちろん形式だけの裁判だ。弁護人もいない。
「けっ、どうせ何を言っても死刑にするつもりなんだろ。俺たちが到着した村では、みんな俺たちを歓迎してたぜ。お前ら白軍が食料を全部持って行って困ってるってな。それでよ、あいつら、何て言ったと思う?“喰う物が無いから食料をくれ”だと。抵抗もしないでお前ら白軍に食料を出しておいて、俺たちに恵んでくれだとよ。だから、判決を言ってやったんだ。白軍に協力したから死刑だってな。この裁判と同じだよ!茶番だな」
「言いたいことはそれだけか?」
「それによ、日本軍の連中が何をしてたか知ってるのか?あっちこっちの村を焼き討ちして、皆殺しにしてるんだぞ。そんな連中とよくもまあ、仲良く出来るな」
当時の日本は、革命軍の捕虜になっている友好国将兵と現地日本人居留民の保護を目的として、シベリアに37,000人の兵力を派兵していた。しかし、現地派遣軍は連合国との協約を無視して占領地を広げ、赤軍との衝突を起こしていた。参謀本部では、赤軍との衝突は避け自重するようにとの訓電(福田参謀次長発など)を発信していたが、現地ではそれを黙殺する部隊もあり、赤軍と、それに協力的な村落への攻撃を行っていた。その反面、シベリアの収容所に残されていたポーランド人(子供を含む)を救出し、祖国への送還を実現している。
「だからどうした?どうせ赤軍シンパの村だろ?だったら、そいつらとまとめて判決を言ってやろう。全員死刑だ」
捕縛された赤軍パルチザン221名全員に死刑が宣告され、即日執行された。
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「軍医殿、件の老人の様子はどうですか?」
有馬中尉は、赤軍に撃たれた「ルバノフ」という老人の様子を伺いに来ていた。
「なんとか息はしていますが、正直、難しいと思います」
「そうですか、全力を尽くしていただいてありがとうございます。それと、少女の方はどうでしょう?」
「少女の方はたいしたことはないですな。消毒をして包帯を巻いています。その傷とは別に、左腕に銃創がありました。1年から2年以内に出来た傷ですな。ちゃんとした治療がされた痕が無いので、病院にも行けなかったのでしょう。それはそうと、あの老人の持ち物ですが、こんな物が出てきました。私はロシア語が読めないのでわからないのですが・・」
それは、封蝋のある便箋だった。封は開いており、中に手紙が入っている。
『こ、これは!』
その封蝋には、双頭の鷲の印が押されている。当時のロシアで双頭の鷲を使うことが出来るのは、唯一人だけだった。それは、ロシア皇帝ニコライ二世。
有馬中尉は、おそるおそる中の手紙を出して広げてみる。その手は緊張で震えていた。
『!!』
「軍医殿、この手紙のことは誰かに言われましたか?」
「いえ、有馬中尉が初めてです」
「そうですか。この手紙は有馬少将に渡して判断を仰ぎます。非常に重要なことが書かれているので、決して他言しないようにお願いします。それと、少女が逃げないように、監視を付けさせていただきます」
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手紙には何が!?
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