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第百六三話 ラーゲリ(3)

「イジィ!イジィ!イジィ!」

 ※ロシア語で 行け!行け!行け! の意


 濃緑のデジタル迷彩服に身を包んだロシア兵が突入していく。既に看守達は戦意を失っており、次々に投降してきた。


 ロシア兵は投降してきた看守を手際よく床に伏せさせ、両手と足をナイロン製の“結束バンド”で縛り上げていく。


 そして、収容されている者達の部屋の鍵を開けて解放していった。


「収容者は一列になって表に出て下さい。体調の悪い人は居ませんか?」


「子供が熱を出してるの。お願い。助けて・・」


「この人、二日前からもう動けないんだ。なんとか助けて欲しい・・」


 けが人や病人の申告がされ、ロシア兵はその対応に追われる。ラーゲリに於いて動けなくなると言うことは“死ぬ”と言うことだった。病人は放置され、ただ死ぬことを待つだけだ。そして、死ねば裸にされて裏庭に埋められる。


 動けなくなった収容者が何人かいたが、皆、すでに死臭を放っていた。生きながらに腐っていっているような、そんな状態だったのだ。


 ――――


 ヴコールは外に出て、作業小屋の近くに立っていた。数メートル先を収容者達が歩いて行き、ロシア兵の指示に従って整列をしていく。


 収容所から出てくる人たちを見ていたヴコールは、ある男を見つけた。イグナートだ。


 イグナートは、解放された喜びを噛みしめるように笑顔で歩いている。なんとかこの地獄のような収容所の生活を生き抜くことができた。これで普通の生活に戻れる。そして、収容者を虐待していた看守を告発し、自分たちにこんな惨いことをした連中を罰してやると思っていた。


 ヴコールは傍らにあったスコップを持ち、つかつかと歩いてイグナートに近づいた。イグナートはヴコールが近づいてくることに全く気づかず、自分の世界に浸っているようだった。


「キャーーーー!」


 血しぶきを浴びた女性収容者が悲鳴を上げる。皆、何が起こったのかとその方向を見た。


 ヴコールはそのスコップを、イグナートの顔面に向けてフルスイングしたのだ。男は無言のまま後ろに倒れ、顔面の傷口からは赤い血がピューと吹き出している。


「ウオオオォォォォーーー!」


 ヴコールはスコップを振り上げ、イグナートの顔をめがけて何度も振り下ろした。その度に、血と肉片と骨が辺りに飛び散る。周りの人間は、その光景に何も出来ず無言で惨劇を見守っていた。


「何をしている!やめろ!やめないかっ!」


 ロシア兵が駆け寄ってきて、ヴコールを後ろから羽交い締めにした。


「止めるな!止めないでくれ!この男は、オレの家族を売ったんだ!密告したんだ!マリーヤとノンナを・・・・返してくれよぉぉ・・・・・・おお・・・返してくれ・・・おおおおぉぉぉ・・・」


 ヴコールはスコップを落とし、両手で顔を覆って泣き始めた。ロシア兵も状況を理解する。


 家族を奪われた憎しみを、密告した男にぶつけたのだ。


「落ち着け。気持ちはわかる。だが、我々は獣ではない。罪は法律によってのみ罰せられなければならないんだ。お前がしたことは犯罪だ」


 そう言ってロシア兵はヴコールの腕を結束バンドで縛り上げ、看守と同じグループに入れた。


 ――――


「イグナートはなんとか命を取り留めたよ。だが、完全に失明して左半身も不随らしい。まあ、人並みの生活はもう送れないな。どうだ?これで気が済んだか?」


 ロシア検察の一室で、ヴコールは取り調べを受けていた。


「あの男は、マリーヤとノンナを殺したんです。この手で、とどめを刺してやりたかった・・・」


「気持ちはわからないでもない。しかし、ロシア帝国は法治国家だ。私刑は認められないな。それはそれとして、収容者を虐待していた看守の情報を話して欲しい。連中には法の裁きを下してやらないとな」


 ――――


「わ、私は党の方針に従っただけなんです。収容されている方々を、殴ったのは命令なんです・・・・」


「そうか?この証言よると、同僚と二人で巡回しているときにも殴っているそうじゃ無いか?そこに上官は居なかったんだろ?上官の命令というのはおかしくないか?」


 東シベリアのラーゲリで逮捕された看守達は、こうして裁判が行われ、収容者を不当に殺害した者には死刑が適用され、暴行をした者には懲役刑が言い渡された。


 そしてヴコールにも、殺人未遂の罪で懲役7年が言い渡されることになる。


 ――――


 1939年9月24日朝


「弾薬の補給を急げ!あとペルビチンも服用しろ!」

 ※ペルビチンとは、メタンフェタミン(日本ではヒロポンが有名)という覚醒剤


 ドイツ軍将校の怒声が響く。


 スダンからシャルルビル・メジエールまでのフランス軍を駆逐したドイツ軍は、全軍でランスを目指した。英仏軍がランスに防御拠点を築く前に、なんとしてもランスを落とし、パリ包囲網の足がかりを作らなければならない。


 昨日の早朝にベルギーに侵攻を開始して24時間が既に経過している。歩兵はトラックに揺られながら仮眠を取り、戦車兵は運転を交代しながら戦車の中で睡眠をとった。


 ドイツ軍はまとまった休息を取ることなく、不眠不休で進軍する。スダンからランスまでの街道は良く整備されており、トラックなら70km/hで走行できた。戦車も、35km/hの速度で巡航できる。道のりにして100kmほどなので、戦車の履帯も十分に保つ距離だ。


 英仏連合軍にドイツ軍を止める手段は全くなかった。スダンからランスまでの街道には、ほとんど軍は配備されておらず、希に駐留部隊がいたとしても、それは少数であり、ドイツ軍に瞬殺されてしまった。


第百六三話を読んで頂いてありがとうございます。

作者の私が共産主義とソ連が大嫌いなのでソ連ネタが多いのですが、なろうの小説でこの時期のソ連を扱った作品って他に無いですかね?


もし、あれば、感想とかで教えてもらえると嬉しいです!


完結に向けて頑張って執筆していきますので、「面白い!」「続きを読みたい!」と思って頂けたら、ブックマークや評価をして頂けるとうれしいです!


また、ご感想を頂けると、執筆の参考になります!


「テンポが遅い」「意味がよくわからない」「二番煎じ」とかの批判も大歓迎です!

歴史に詳しくない方でも、楽しんでいただけているのかちょっと不安です。その辺りの感想もいただけるとうれしいです!


モチベーションががあがると、寝る間も惜しんで執筆してしまいます。


これからも、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言]  ソ連の話。『悪役令嬢の十五年戦争』がOKならこれらはいかがでしょうか? 『八八艦隊育成計画』 シリーズ(著:扶桑かつみ)とかは、小説と言うより考察ですんで現状が良く整理されてます。  …
[一言] ソ連の事描いたなろう作品という事で 砲弾と缶詰、胃に収め。 https://ncode.syosetu.com/n2215bp/ ソ連側戦車兵視点の話です 第三帝国に転生したが転生先は某…
[一言] 私の読んでるなろうの範囲では、扶桑かつみさんの『悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~』が同じぐらいの時代ですので当然ソ連や…
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