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第百三三話 平和の終わり(1)

<1938年12月>


宮城(皇居)の一室


「あと数日で昭和14年(1939年)になるな」


天皇は椅子に深く腰をかけ、ゆっくりとティーカップを口に寄せ、少し熱めのダージリンティーを飲んだ。


「はい、陛下。もうすぐ昭和14年になります。ここまでは、残念ながらドイツの膨張を抑えることに失敗しております。また、ソ連も東ヨーロッパへの影響力強化を狙っています。このままでは、早ければ半年ほどで、ドイツはポーランドに侵攻するでしょう」


「ドイツが再軍備を始めてから、英仏は妥協に妥協を重ねてヒトラーの要求を呑み続けている。先の欧州大戦のような惨劇を再度起こしたくないという気持ちはわかるが、その為に、オーストリアとチェコスロバキアのズデーテン地方を割譲させてドイツにくれてやるとは・・」


「はい、陛下。強盗団から自分の家族を守るために、隣家の娘を差し出したようなものです。日本も国連常任理事国として強く反対しましたが、英仏は国連を通さずにミュンヘン会議において決めてしまいました。欧州のことは欧州で決着を付けるという気持ちが強いのでしょう」


「隣家の娘を差し出すようなものか・・・・。世界はやはり高城の言うとおりになってしまったな・・」


「はい、陛下。それでも、アメリカとはなんとか大きな懸案事項も無く、今のところ表だって対立するようなことはありません。ルーズベルト大統領に代わってから、多少対日感情の悪化はあり心配しておりますが、対アメリカだけでも、このまま波風が立たなければ良いのですが」


<1935年3月>


ドイツはベルサイユ条約に反して再軍備を始めた。これに対してイギリス・フランス・イタリアは“ストレーザ戦線”と称した連携を作り、ドイツに対してベルサイユ条約とロカルノ条約の遵守を求めた。


しかし、その裏でイギリスはドイツの再軍備を制限付きで認める交渉を、ドイツと単独で行っていたのだ。いわゆる“宥和政策”だが、このイギリスの二枚舌外交は、ドイツの増長を許してしまう。


イギリスは、ベルサイユ条約違反を追及せずドイツの再軍備を条件付きで認めてやれば、ヒトラーも国内向けの宣伝になって満足するだろうという考えがあった。弱体化しているドイツがいくら頑張っても、イギリス・フランスと全面的に対峙するなど、この時は考えられなかったのだ。


しかし、約束(条約)を一度破った者は、その心理的ハードルが下がり次々と破っていく。


イギリスも、何度も軍事的圧力を加えて、弱小国に対して有利な条約を結んだり、条約を改定したりしてきた。他国から見れば、イギリスは条約を守る気が無いと受け取られるようなことでも、イギリスからしてみれば“たとえ銃で脅したとは言え、条約に合意した以上は(相手国は)守るべき”という考えだ。そういった事を繰り返していたにもかかわらず、なぜか、この時は“ドイツは今後条約を守るだろう”と考えてしまう。


<1936年7月>


スペイン内戦


ドイツは反乱軍のフランコ将軍に、ソ連は左派の政権側に、義勇軍として兵と武器を供与する。この内戦に対して、アメリカの世論は左派のスペイン政権側を応援した。ソ連のプロパガンダにのせられたのだ。アーネスト・ヘミングウェイやパブロ・ピカソなどの著名な作家や芸術家も左派の政権側を応援した。


この内戦では、反乱軍のフランコ将軍が勝利し実権を握っている。


<1938年3月>


ドイツはオーストリア併合を実施した。


この併合に先立って、ナチスはオーストリア各地に“オーストリア・ナチ党”を結成し、 ドイツ・オーストリア民族統合の機運を高めていた。欧州大戦で敗北し、世界の列強から東欧の弱小国に没落していたオーストリアの市民は、ドイツと一緒になってもう一度、列強にのし上がることを夢見たのだ。


そして、オーストリアを併合するために進駐したドイツ軍は、各地で熱狂的な歓迎を受けて、その為予定の進軍が出来ないほどだった。


<1938年9月>


ミュンヘン会談が行われ、チェコスロバキアのズデーテン地方を、ドイツへ割譲することが決定された。


日本政府は国連常任理事国として反対と非常に強い懸念を示したが、ドイツの暴発を防ぎたいイギリス・フランスは、当事者のチェコスロバキアを排除した会議に於いて、ズデーテン地方をドイツに割譲することを決定してしまったのだ。


そして、この時にドイツは“これ以上の領土要求は行わない”と各国に約束をした。


<1938年10月>


ポーランドがチェコスロバキアのチェスキー・チェシーン市に侵攻し併合した。


この後、チェコスロバキアはドイツ、ハンガリーなどに分割占領され、事実上世界から消えてしまう。


<1938年12月6日>


仏独友好協定締結


これにより、フランスはヒトラーの東方への拡張計画に同意する。チェコやオーストリア、ハンガリーをドイツにくれてやることによって、フランスは自国を防衛したかったのだ。


これらの地域は、欧州大戦が終わるまではオーストリア・ハンガリー帝国の一部だったため、ヒトラーの東方への拡張を認めたとしても、それは20年前に戻っただけという考えがあった。


――――


「これが万が一の時の、戦争計画になります」


高城蒼龍はテーブルに資料を広げ、天皇に説明を始めた。


それは、ヨーロッパの多くの人を救う為の、そして、多くの日本兵に犠牲を強いる計画であった。



第百三三話を読んで頂いてありがとうございます。

もうすぐ最終章突入です。この世界はどうなっていくのか?


完結に向けて頑張って執筆していきますので、「面白い!」「続きを読みたい!」と思って頂けたら、ブックマークや評価をして頂けるとうれしいです!


また、ご感想を頂けると、執筆の参考になります!


「テンポが遅い」「意味がよくわからない」「二番煎じ」とかの批判も大歓迎です!

歴史に詳しくない方でも、楽しんでいただけているのかちょっと不安です。その辺りの感想もいただけるとうれしいです!


モチベーションががあがると、寝る間も惜しんで執筆してしまいます。


これからも、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公の最大の目的が、如何にWW2の死亡者を減らすかに過ぎないんだから、日本が大陸に関わらず、ドイツに「ソ連を挟撃することはありえない」と宣言して独ソ戦を躊躇させれば、それで事足りるんじゃな…
[良い点] ここまでは、そうなってしまいましたか。 高城さんの戦略がどうなるのか楽しみです。
[良い点] どの様な戦略を持っているのか気になりますが。
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