第百十三話 スーパーキャリア(3)
儀仗隊と軍楽隊による栄誉礼が終わり、天皇から空母への命名がなされた。
「第一空母を“大鳳”、そして第二空母を“龍鳳”と名付ける」
史実では、大鳳は1944年に竣工した正規空母、龍鳳は1942年に改装された小型空母の名前だ。今回の命名により、スーパーキャリアには“鳳”の一文字を使うことが命名規則とされた。“鳳”の名を持つ空母は、すでに鳳翔が存在しているが、こちらは全長179mの小型空母であり、一線からは退く予定になっている。
式典が終わり、甲板上で空母の説明が始まる。
しかし、広い。ヘリは既に格納されており、視界を遮る物はなにもない。
「エレベーターは全て舷側エレベーターとなっており、左舷に一カ所、右舷に三カ所あります。蒸気カタパルトを艦首に二基と左舷滑走路に二基設置しています。着艦用甲板と発艦用甲板を斜めにずらすことによって、離着艦を同時に行うことができます」
「同時に離着艦を行うことができるのか?それは、艦隊運用の幅がずいぶん広がるな」
山本五十六は、すぐに艦隊運用のシミュレーションを頭の中で行った。この空母の大きさなら200機ほど搭載できるはずだ。離着艦を同時にできるのであれば、その200機による反復攻撃を絶え間なく行うことができる。これはすさまじい戦力になると想像できた。
「質問をよろしいか?貨物船を改装したとのことだが、防水区画や装甲はどうなっているのですか?それと速力はどの程度でるのでしょう?」
「はい。防水区画は一から設計をやり直して、32の大区画に区切っており、さらに中区画小区画と分けております。また、注水機構の実装と、艦底も二重底に改装しています。装甲についてですが、舷側と艦底は20mmから30mm厚の鋼板なので、残念ながら魚雷に対する防御力は無いに等しいですね。甲板に関しては、60mmから20mm厚鋼板の4重構造になっています。甲板上での事故による爆発でも、重要区画まで被害が及ばないようにしています。速力は、設計で30ノットの予定です。まだ全力公試はしておりません」
防水区画は十分に区切っているようだが、舷側と艦底の厚みが最大30mmでは、魚雷に対する防御は無いに等しい。速力は30ノットと、この時期の大型空母としては標準的な性能だが、10万トンの船体を30ノットの速力まで出すことのできる機関はいったい何馬力必要なのだろうと思う。
「その装甲では魚雷攻撃を受けたらひとたまりも無いのではないか?」
「はい、ご心配はもっともだと思います。ある程度は防水区画と注水で対処できますが、何発も被弾すると沈没する可能性はあります。その為に、“空母打撃群(CSG)”という構成を計画しております。これは、空母一隻に駆逐艦もしくは軽巡を八隻から十隻と輸送艦一隻を最小単位とした戦闘群です。駆逐艦は空母の護衛に徹することになります」
この1935年時点においても、山本五十六は第一航空戦隊(一航戦)の司令を務めており、空母を中心とした機動部隊は存在していた。しかし、この時の一航戦の編成は空母二隻に駆逐艦四隻という編成であり、防空面や対潜防御に十分とは言えない。
「しかし、潜水艦に待ち伏せをされる可能性がある。潜水艦に潜まれていたら発見は困難だろう」
「はい、その件については後ほど駆逐艦の説明でさせて頂きますが、水上レーダーによって半径20km以内の潜望鏡を確実に発見できます。また、新型ソナーによって100km以内の潜水艦を探知できます」
「えっ?」
一同絶句する。もう何度目の絶句かも忘れてしまった。
欧州大戦でのドイツUボートの活躍は有名だ。海中に潜まれて音を出さなければ探知は困難で、多くの潜水艦攻撃による被害を出した。
それが、100km以内の潜水艦を探知できるというのはどういうことだ?それではもう潜水艦の活躍する場所が無くなってしまう。
「それでは、もう潜水艦は脅威では無いということか。しかも、空母と駆逐艦だけで艦隊が出来るのであれば、もう戦艦や重巡は不要と言うことか?」
「そうですね。潜水艦に関しては、海底に着底した状態で待ち伏せをされた場合には接近を許す可能性はあります。ただ、魚雷発射のために潜望鏡深度に浮上しないといけませんし、魚雷発射管に注水を行えばすぐに発見できるので、警戒を怠らなければ大丈夫です。また、空母を護衛するには駆逐艦や軽巡が適切なので、戦艦や重巡はその活躍の場所が限られるようになります。この辺りは、後ほど陛下を交えて艦隊構想の会議をさせて頂ければと思っております」
山本五十六は1935年に“戦艦は金持ちの床の間の置物”と訓示を述べている。これは、置物なのでそれほど役には立たないが、置いているだけで周りの国は畏怖してくれるという意味だ。
先進的な考えを持っている山本五十六にしてみても、この“空母打撃群”という発想は驚かされるが、反面“我が意を得たり”とも思った。
「それでは、この大鳳の戦闘指揮所にご案内します」
一同、艦橋にある扉から艦内に入る。
戦闘指揮所と言うからには、みな艦橋のことだろうと思う。しかし、案内されたのは窓の無い薄暗い部屋だった。
キュオーーーーーン
皆が入室すると、部屋にある機材の電源が入り、インバーターが唸るような音を上げながらディスプレイが次々と光り始める。
第百十三話を読んで頂いてありがとうございます。
護衛艦いずもには乗ったことがあるのですが、やはりアメリカ空母にも乗ってみたいですね。
完結に向けて頑張って執筆していきますので、「面白い!」「続きを読みたい!」と思って頂けたら、ブックマークや評価をして頂けるとうれしいです!
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