第百話 模擬空中戦(4)
「源田大尉殿。お加減はいかがですか?」
「ああ、だいぶ痛みは引いてきたよ。まあ、足がくっつくまであと一ヶ月は入院だそうだがな」
陸軍の加藤中尉が、横須賀海軍病院に入院している源田大尉を見舞った。
源田実は射出座席での脱出の際、頸椎の捻挫(いわゆるむち打ち)と左足脛骨と中足骨3本の骨折をして入院している。射出の際、左足をコンソールに強打したようだった。
先日の天覧試合(模擬空中戦)は、正式に非公開扱いとなった。陸海軍は“こんな高性能な練習機の情報が漏れてはまずい”という主張だったが、実際は、両軍のエースが惨敗したことを隠したかったのだ。
「これくらいの怪我ですんで良かったよ。射出座席がなければ、今頃殉職していたからな。しかも、女に負けて死亡したなど、海軍の恥だからもみ消されるかもしれないな。ははは」
源田は自虐的に笑う。
「あれから、宇宙軍の訓練施設を体験させていただきました。巨大なメリーゴーラウンドの様な機械があり、それで、10Gまでの訓練が行えるそうです。実際に乗ってみたのですが、7Gの手前で視界が真っ暗になりました」
「7G近くまで耐えることができたのか。それはすごいな」
「はい、加速度に耐える特殊な訓練も教えてもらったので。L-1動作とM-1動作というものです。さらに脚力を鍛えれば、もっと加速度に耐えられるとのことで、その為の鍛錬もしてきました。蹲踞の姿勢から背筋を伸ばしたまま立ち上がります。お恥ずかしながら、私は一度もちゃんと出来なかったのですが、彼女らは何回でも出来ていました。さらに“耐Gスーツ”なるものが開発されつつあり、訓練を積んでそれを使用すれば、9G近くまで体がもつらしいのです」
「すごいな・・。彼女らは、我々とは次元の違う領域にいるのだな。どうやら私は、天狗になっていたようだ」
「源田大尉殿。それは私も同じです。陸海軍では練度を上げるためにも、九十一式高等練習機の導入ができないか宇宙軍と交渉中とのことです。射出座席の技術については、既に提供の許可が出ているようです」
「そうか。うまくいくといいな。それはそうと、宇宙軍では大型飛行艇や練習機の開発をしているが、戦闘機の開発はしていないのか?あれだけの技術力があれば、高性能な戦闘機の開発も出来ると思うのだがな」
「そうですね。確かに私もそう思います。宇宙軍は規模が小さいので、開発人員が限られているのかも知れませんね」
「もしそうだとすれば、共同開発が出来ないものかな?海軍では今、七試艦上戦闘機の飛行試験が行われているが、宇宙軍の協力があれば、もっと良い物が出来ると思うのだが」
「陸軍も新型戦闘機の開発が始まりますが、なんとか宇宙軍の協力を得たい物です」
宇宙軍に於いて、開発人員が足りていないと言うことは事実であった。機密を保持しながら開発をするのも容易ではない。
高城蒼龍のタイムスケジュールとしては、予測される次期大戦までに、超音速の出せるマルチロール機(航空宇宙自衛隊F-2戦闘機相当)を200機は揃えたかった。1933年のこの時点においてF135-PW-100エンジンの再現が出来ており、現在地上での最終試験中だ。このエンジンは、艦船のエンジンとしても使われる予定になっている。平行して、機体とアビオニクスも仕上がってきており、初飛行は1934年の予定だ。そして、1936年からの量産を目指している。パイロットの育成も考慮すると、これがギリギリのスケジュールだ。遅延は許されない。
一方高性能プロペラ戦闘機は、1936年ごろからの開発開始予定だ。1939年までに完成すれば、生産は宇宙軍からの技術協力によって、中島飛行機や三菱航空機に量産を任せることができる。量産型は、陸軍と海軍に提供予定だ。
これは、ジェットマルチロール機は早く完成させなければ量産が間に合わないが、プロペラ機は開発が遅くなっても、量産は中島や三菱に任せることができるという判断だ。
また、九十二式大型飛行艇をベースにした対潜哨戒機も開発中だ。
そして、エンジンをターボプロップに換装して、20トンのペイロードと最大速度660km/h(最大離陸重量時)の完全陸上機型の開発も進行中だ。こちらは、1935年の完成を目指している。そして、この機体をベースに空中給油機、早期警戒管制機も開発予定だ。
軍隊は最新の兵器だけでは運用できない。それを支える兵站等のサポートが必要なのだ。
量産技術についても、宇宙軍の関連工場ではかなりのレベルに達していた。現在は、主にバイクや農業機械・建築機械の製造をしているのだが、その生産設備や技術は、1960年代後半レベルに達している。
エンジンのクランクケースなどの加工では、同時に10カ所までのボルト穴開け加工とねじ切り加工が出来る、半自動フライス盤も普及した。プレス技術やスポット溶接の技術もずいぶんと向上した。これらの工場は、いざというときに即座に軍需物資の大量生産が出来るように育成しているのだ。
さらに、昨年からパンチカード制御の同時7軸制御マシニングセンターの導入も進んでいる。しかし、その事を中島や三菱といった大企業はまだ知らない。
第百話を読んで頂いてありがとうございます。
とうとう100話を達成しました!
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モチベーションががあがると、寝る間も惜しんで執筆してしまいます。
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