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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第三十三章 出発

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96 高性能であればあるほど



フォーラム会場のコンコースでファクトと幼馴染のリゲルは、ラムダにも会って一緒にカフェをしていた。


「大房の学校じゃ、あんな話しないから楽しいよね。」

大房はとにかく反対教育で、あらゆることを反対して、反対することがなくなっても理由を探して反対し、そして祖父母、親たちと反対に、3世代目は他人に無関心で冷めた青少年たちが多くなった地域である。なお、親や家族にも関心が薄い。サルガス世代である。



霊性学や神学の基礎がないので、この一年半、何を聞いても新鮮なラムダである。


「それにしても、サダル議長は信愛に満ちあふれた素晴らしい人だね!チコさんもあんな方と結婚出来てよかったよ!!」

「………。」

超ご機嫌なラムダに、この兄さんマジで言ってんの?という顔のリゲル。


リゲルは人を殺せそうな顔のわりに、基本思考は一般人である。そんなリゲルでさえ気が付く、あの随所に散りばめられた嫌味のオンパレードなサダルのスピーチ。サダルの普段のぼやきを知っているからかもしれないが、宇宙、科学云々の以前の話をしたのだ。


「ラムダ兄さんバカなの?あんな皮肉たっぷりの演説。」

「えー!何言ってるの!!素晴らしい愛にあふれた話だよ。ねえ、ファクト!」

「え?俺も心が汚れているから……中二な反抗心を感じたよ。自分が中坊だったら、自分で言っておいて、議長の中にそんな愛なんてないだろ?とか反抗しちゃいそうだよ。それどころか、愛なんて言葉……って、鼻で笑っちゃいそう。」

「ファクト!議長になんてことを言うんだ!!厨二病だったらむしろ好きだよ。あの辛辣議長!」

先まで素晴らしい人とか言っていたのに、辛辣とかラムダもけっこうひどい。


「まあ、俺も好きだけどね。なんだかんだ言ってあの辛辣系。癖になる。」

ファクトは嫌いではないのだ。自分に振りかかってさえこなければ。



2人と話しながら、ファクトは時々デバイスを見る。


そう、もう1人の幼馴染、ラスを待っていたのだ。このフォーラムはニューロスメカニック関係者もたくさん参加している。ラスもいるのではと思ったのだ。リゲルも、気になるのかデバイスをチラチラ見ている。なんだかんだ言って、ラスはファクトやリゲルの番号を着信拒否にもしてない。自分たちの今いる場所を送信しているので、こっちに来てくれないかと待っていた。





……待っていたのに、実際に見ると信じられない。


「……え?ラス?」


ゲジゲジ眉毛で、眼鏡をはめた男子、ラス。

幼馴染のラス・ラティックスが友人たちと歩きながらこっちを見ていたのだ。


「ラス!」

ファクトの呼びかけで向こうは動揺する。

「…っ」

「ラス!!」

「……」


「ラス!元気だったか?」

「ああ…。」

「一度ベガスに来てほしくて。今、SR社も少しベガスに関わっているんだ。ニューロス施設に関してだけど。」

久々に会ったばかりでもあまりにこれまで機会がなくて、ファクトは思わず自分の要望だけ言ってしまう。


「なんだ?ラスが戸惑ってるだろ?」

向こうの親友が疑う感じでファクトを見た。


「……ベガスがイヤだったら今度、父さんと食事に行こうよ。父さん帰って来てるんだ。」

「…博士が?」

「母さんが少し調子が悪くて、落ち着くまで一緒にいた方がいいから…。」

「…ファクトが急に出ていくから、おばさんだって心配で体調を崩したんじゃないのか?」


そう言えなくはないだろう。ただ、いずれにしても重度の過労ではあった。


「それに…SR社でなくて、今やリーミンやベージンから誘いを受けているんだ。」

ラスの言葉にファクトは驚く。どちらも業界トップ5に入る会社だ。けれどファクトは焦った。

「…SR社でなくでもいい。でもベージンは………ベージンだけはやめた方がいい。」

おそらくギュグニーが後ろにいると、知らない友人の前では言えない。ベージンの後ろは北メンカル、そしてギュグニーだ。



「君もSR社に入社希望なのか?」

ラスの連れがファクトに対し怪訝な顔をした。

「SR社は独占的で、業界を囲い過ぎているし、保守傾向が強すぎる。他の会社も技術は追随しているし、これからは引けを取らなくなる。時間の問題だよ。シリウスの盲信者なのか?」

盲信者……というか、シリウスに付きまとわれている側である。


「でも、それには理由があるんだよ。」

ファクトはチコや父ポラリスの言葉を思い出す。



『何があっても母さんを、父を信じるんだ』と言うその言葉。


ファクトだって闇雲に父や母のすることを見ていたわけではない。



ラスの友人が、会話に出てくる言葉1つ1つに嫌そうな顔をする。

「何がだよ。それに先、ベガスって言ってただろ?移民が何をするんだ?」

「移民って言っても半数は西アジアからだし、今はヴェネレ人も来て、アンタレスの有名校や企業からもたくさん参入している。」

ただ、トップの大学や高校よりは少し下の学校だ。個々人やゼミ単位で協力や参加に来る学生や先生はいても、まだトップの動きは鈍い。

「それにSR社は身内びいきの研究所だろ?」

「は?」



「シリウスもあそこの身内に甘いらしいし。」

友人の言葉に、それはファクトのことかと、ファクトとリゲルは顔を見合わせる。


それは確かにそうかもしれない。ラスが何か話したのか。けれど、そんなのSR社だけではない。親族関係のきずなが強い西アジアのベージンなんてもっと顕著であろう。


ただ、シリウスのモデルになっているのはおそらく………

チコ………もその一人であるし、研究者や被験者たちに似た性質を受け継いだのだろう。周囲の人間は、システムそのもののであり、シリウス自身の根本なのだ。



シリウスが身内の人間に傾向するのは、SR社も意図した訳ではない。むしろファクトとは距離を置きたかったし、ミザルゆえに周りもファクトを巻き込まないことで合意していたのだ。


リゲルは思う。ファクトは人たらしだ。一見害のなさそうな性格なので基本的には好かれる。それが鼻につくし身勝手にのうのうと生きているので嫌われもするが、どこの輪にも入って行けるし、だいたいみんなの中間にいる感じだ。シリウスだけがファクトを構っているわけではない。



そして、SR社の作った高性能アンドロイドは()()()()()()()を備えている。



……つまりアンドロイドも高性能になればなるほど、


『人が好きなものが好き』なのだ。




単純に考えれば女性型なら好き嫌いに『人間の女性の好き嫌い』も表れる。


人間に近いのだから。



もちろん、根にあるモデルの精神性基準が高いので、ただ、世の中の下世話な男女の好き嫌いが反映されるわけではない。シリウスの思考傾向は、聖典に基づいて精査されていくからだ。

ファクトの場合は、男としてモテると言うよりマブダチ感覚な人間が多いのだが、それでも何かしらシリウスのツボにはまるものがあったのだろう。



そして身内びいきでもあるのかもしれないが…

………それは身内を犠牲にしてニューロス開発をしてきたから…………


そのことはラスもある程度は知っているはずだ………




「…もういい。やめろ。」

リゲルが遮る。

「何を不貞腐れしてんのか知らないけど、話を聞く気もないんだろ。ファクト、無駄だよ。」


「は?何を話すんだ。ラス、こいつら何なんだ?」

「同級生。」


「あのさ、みんな大丈夫?」

間に入れなかったラムダが思い切って声を掛けた。

「こんなところで立ち話も何だし、なんか飲む?」


「いいよ。行こう、ラス。」

ラスは友達と去って行った。




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