91 反省だけならサルでもできる
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今回はどこで切ろうか悩んでいますが、『Ⅳ』はここで一区切りです。ただ、少し個人環境を整理をしたいので、閑話という形で少しエピソードを入れてそれから『Ⅴ』に入ります。
本当はあと2部くらいで終わるつもりだったのですが、もう少し続きそうです。登場人物も名前が出てくる人物はほぼ出揃っています。
細かい世界観や国の情勢、人物の詳細も詰めるのが好きなのですが、そうすると全然話が進まなくなるし、メインが目立たなくなるので上辺の設定で収めています。きっともっと派閥やいろんな勢力や関係性があるのですが…。アンドロイドのいる世界なのでアンタレスなどのマニアやネット勢力も書きたいし…。全部カットしています(泣)
いつもの如く、修正を繰り返しても暫く経つまで文章がめちゃくちゃですが、よろしくお願いいたします(礼)
議長タイイーが戻って来た北メンカル最南ガーナイトは、自分たちをどこの位置に持っていくのか、多く議論が交わされていた。
現状維持か、独立するか、南につくか、一旦北メンカルの連合加盟国自治体と銘打つか。
しばらくはユラス合同西アジア軍が入っているので、北が好き勝手はできないであろう。南北メンカルはギュグニーの動きによっては西アジアに軍事援助を要請できるため、今回西アジアはメンカルに入る口実を得ることができたのだ。
そう、北メンカルは西アジアとユラスとの条約があるのに、ギュグニーとも繋がったという信頼が地に落ちる何ともいい加減な事をしたのだ。
今更ではあるが、それを利用して西アジアも北メンカルに入った。そう、彼らは自由民主勢力であるアジアはそんな強硬手段はしないと高を括っていたのだ。北メンカルの非難も無視。さすがに彼らも、内地に入ってしまったアジアとユラスを一気に敵に回せるほど自分たちは強くないことを知っていた。
北メンカルは森林戦に強いが、ユラスの工作部隊は似た環境のサウスリューシアや中央リューシア、ティティターナの森林戦で過去に何度か勝利していた。
西アジアへ擦り寄る作戦もあるが、現在は西アジア保守系が入っているためそれも難しい。
あれからワズンもすぐに西アジアのテレスコピィ経由でガーナイトに戻り、カストルたちと合流。サダルも一度来て、アジア、メンカル、ユラスの内密な会談も行う予定である。
***
「ねえ、兄さん。
俺がユラスにいた時、助けてくれた『麒麟』は兄さん?」
「…兄さんてなんだ。気持ち悪い。名前でいい。」
自室で特大サイズの写真集を広げながら、シェダルはファクトにつぶやく。
「え?ずっとそう言ってたし、俺のこと弟って言ってたから。兄さんがいいかなと。」
「…いちいち周りに兄弟と思われる言い方をするなと言われた。」
「……そうだね。じゃあ太郎君で。」
「それに『麒麟』は響だ。あれは俺だけど……そういうこともある。練習用だ。」
「…なんで心理層で俺の位置が分かるの?なんで来れたの?何も言ってないのに。」
「響がお前を見付けて来いって、偉そうに俺に指図した。一致すればすぐに飛べる。」
「……そうなんだ……すごいね……。」
「言う事を聞いてやったんだぞ。どっか沈みそうだったのに。」
「迷惑かけてごめん。…ありがとう…。」
「………。」
ファクトはユラスから戻って来たチコに説教を受け、2時間も軍の反省室に入れられた。そんな場所があったとは。
たった2時間なのに10時間ぐらい入っていた気分であったが、そこでも瞑想や逆立ちしたりしてみた。でも、その時はどこにも飛べなかった、チクり魔カーフは絞られることもなく、戦略の話に加わるためガーナイトに向かったらしい。なんだあいつは、政治家か。
「………最近、響は何をしてるんだ?」
「…医大に編入したし、後はずっと病院だよ。俺も会ってない…。会いたい?」
「……。」
フイっと顔を逸らす。
「……あのさ、他からも散々聞いてると思うけどさ、暴力もだけど……女性に……響さんに手出したらダメだよ。」
暴力や女性の話をしてキレられたらどうしようかと、一応身構えながら話す。
「手?」
自分の義手をパタパタする。分かっているのか、分かっていないのか。
「結婚って分かる?」
「俺をバカにしてんのか?」
結婚は知っているらしい。
「……兄さんのいた国や世界ではどうだったか知らないけどさ、結婚とか男女のそういうのはお互いの合意があって、できれば親にきちんと話して、周りの祝福があってできることだからね。蛍惑生まれは信仰心も孝行心も貞操感も強いから、あんまり響さんにくっつかないでね。結婚まで身を守る人がほとんどだから。しかも、響さんはあれでも一応名家のお嬢様だからね。」
「……。」
言っている意味が伝わっているのか心配になる。
チコの弟、シェダルは非常に扱いの困る人間だった。
したこと自体は犯罪であるが、彼自身の立場を明確にできず、まだ何も手付かずである。
チコは事件化したくないが、サダル側は許さないと言っている。それにチコは国家公人だ。基本示談対象にはならない。
シェダルは戸籍も国籍も国もない。
兵士や軍人なのかと聞けば、「メンテナンスを条件に、言われるとおりに生きてきただけだ。」と言う。言われれば人も殺した。でも、士官などでもないし身勝手に行動した訳ではない。身勝手という言葉を当てれば、身勝手にチコに情けをかけたともいえる。暗殺や拉致命令があった時にそれをしなかったのだ。
ギュグニー生まれらしいが様々渡り歩いて、自分がいる地名を意識したのはいつなのか。産まれも人から聞いて知っただけだ。
そして、明らかに『違法なニューロス化施術』を受けさせられている。
そうなると国際法、権利条約で国籍の有無にかかわらず保護対象にもなる。
未成年、成長期の強化ニューロス施術は認められていない。本来どんな人間であっても『治療』の名目でしかメカニック施術、ニューロス化は受けられないのだ。それに、ニューロス化のために問題のなかった手足を強制的に奪われ脅されてきた。しかも、子供の時に突然銃で足を蜂の巣にされると言う形で。
これまでの経歴はひどいが、だからと言ってそのまま許すわけにはいかない。
でも、それを追求すると…、そう、またチコにまで話しが行ってしまうのだ。
チコも未成年の段階で強化施術を受けている。治療という名目ではあるが、限りなくグレーだ。
いや、グレーという形に無理に落とし込んだ―――
シェダルは教育も中途半端にしか受けておらず、弁が立つわりに情緒が幼いところがある。見た目も少し幼いのは元からか、それとも食事をきちんと取っていなかったのか。普通の子供時代ではなかったからか。
SR社で受けた膨大な質問で、そう思わせる返答がいくつかあった。
そして、あまりに世の枠組みに当てはめると、世界が把握していない無登録の完成型ニューロスサイボーグが存在したことを、少なくとも一部世界に公表することにもなってしまう。
もし、逃亡者ミクライ博士たちが関わっていれば………
おそらく関わっているのだが、彼らを逃した責任はSR社やアジアにもあるし、今、掘り出されたくない話が次々出てくるだろう。
結局、機密関係の国際弁護人を付けて、殺人未遂、暴行、傷害、国家転覆、外患罪、幇助罪…何に該当して何をどうするべきなのか、国や研究機関としてはどうしたいのか、どうすべきなのかを話し合っている。
もう1つ困ったのは、ここに既に、1つの確信的予想が立っている話である。
シェダルを動かしていたバックに、アジア自体が間接的に関与しているかもしれないと言う事だ。罪に問えばいいだけだが、相手も手放しでそんなことをしたわけでもあるまい。
シェダルを壇上に立たせてしまうと、それだけでたくさんの押し込めておきたい紐が引っ張り出される。
そして、響が認める無自覚の高度DPサイコスターだったのだ。
ただ今は、非常に模範的に過ごしていて、行動把握、監視を条件に外出もしている。
「俺、なんか拘禁刑らしい。」
「こいきん刑?」
「義体に問題がなかったらいくつか罪状が付いて、取り敢えず特殊な刑務所に2か月入って、いろいろ教育をさせられるらしい。」
「…それめっちゃ犯罪者じゃん。」
正に犯罪者である。
「…問題起こさないでね。アジアは人を罵る、叩く蹴る、物を壊す、勝手に持っていくだけで犯罪者だから。」
「そんなことぐらい分かる。」
ソファーにふんぞり返って、全然本質が分かっていなさそうだ。
「俺でも言うこと聞かなかったってことで、2時間も独房に入れられたからね。しかも民間人なのに軍のだよ?すごくない?」
反省室に放り込まれたファクト。
「今度何かしたら、2カ月とかでは済まないよ。下手したら一生とかだから。」
「はっ。俺はアジアや連合国家群の法律下にいないから、そんなもの適用されないんだよ。」
「…でもここはアジアだし、そういう人間を扱う法もきちんとあるんだよ。多分。」
ファクトは詳しくはよく分からないが、そのぐらいのことは法整備されているだろう。
「しかもイレギュラーだからあいつら困ってやがる。」
「………ここの人間じゃないのに、ここの飯食って部屋までもらって、保護もされて治療もしてもらってんじゃん。」
「まあ、安心しろ。別に生きる目標も理由もないんだ。いちいち楯突く理由もない。大人しくしている。今は力もないし多分お前より弱い。反省していればいいんだろ?」
「太郎君が問題を起こすと、みんなの立場が悪くなるから絶対に悪い事しないでね。」
反省だけならサルでもできるのに、何だこの兄は。と思うファクトであった。




