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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第三十二章 変わるベクトル

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90 困るカウス



ザーと、アーケードや道路の方からの雨音が強くなり、傘をさすのも下手なのか小走りで来たからか、響の肩から後ろ側に雨が掛かっていることに気が付く。


「このまま夜勤行くの?濡れてるけど…。」

「大丈夫です。このジャケット水を弾くし……

………一度帰ります。」


「あ、あと、ルオイ言うには、夕食も響さん持ちだったみたいで。昨日の手間や色々含めてお金出すか奢ろうか?」

「え?えっと、いいです。いいんです……それは。大房では時々ご馳走してもらっているし…。」

「…でも。」

それにしてもご馳走する人数が違う。時々姉妹三人アンド従姉妹や友達で押しかけているらしい。デリバリーや持ち寄りはするが、よく響がご馳走してくれるのだ。



「……髪………切ったんだ。」

「あ、はあ。」


サイコス消滅からの変遷が響の中でそんなにも大変だったのかと、ちょっとショックなタラゼドである。


なぜなら、妹の長女ローアは自分の髪に非常にこだわりがあり、くせ毛に真っ直ぐパーマを掛けた数日はいつも機嫌がよかった。

ある日は、美容院に行って、タラゼドから見たら「それ切ったのか?」みたいな変化のない髪型でも2センチも長く切られた!ひどい!と怒っていたのである。正直傍目から見ると、ロングの数センチなど全然違いが分からない。全然変にも思わない。


響も基本いつもサラサラできれいにしているので、手入れの面倒なロングヘアにポリシーみたいなものがあるのかと思っていた。まさか切ってしまうなんて思ってもいなかったのである。


「……大丈夫?思いつめてない?」

「…?」

響は、何のことを言われているのか分からない。まさか、「モテない モテる 喪女 地味女」とかで検索していたとか、そんな事がバレているのか。これは恥ずかしい。いい気になっている勘違い女子か、と思われてしまう。取り敢えず、ロングとセミロングはナンパの対象になりやすいのだ。ふつうのボブやショートもダメだ。小技がなくあか抜けない感じがいいらしい。それで切ったのだ。

「……。」


「…インターンは?」

「はい。慣れました。」

「よかった…。何かあっても行動する前に、ロディアさんやサラサさんとか誰かに相談するようにね。」

「ありがとうございます…。」

赤くなる響。


「どうする?その辺で食事しようか?」

「え?食事?ファクトも呼びます?」

「……いちいちここまで呼ぶことはないと思うけど…。」

ここは南海からけっこう遠い。呼べばすぐに来そうだがヤツは必要ないであろう。

「あ、ならいいです!帰ります!タラゼドさんこそ忙しそうなので!」

「……。」

こんな会話だけなら、電話で済む話だ。何をしに来たのだ。


「いいよ。奢るから行こ。ローアたちの飲食代も出すよ。あと、妹たちも社会人なんだから折半させればいいし。こういう時、手間賃要求すればいいから。そうすれば、多分面倒なこと言わなくなるよ。俺もよく買うだけ買わされる。」

「………。」

響が動かないので、手を引かれる。

もう寒くなる時期なのに自分の手が暑くて汗をかいていそうだが、タラゼドに対してはそういうことは気にならない。


でも、ただただ熱い。


別にローアやルオイたちのことは負担でもないし、一人の家に来てくれるだけでうれしい。『奢った分、手間賃、全部お兄に請求して。苦情も兄に』と言われているのを、タラゼドに言おうか言おまいか悩む響であった。




***




同じベガスでもここは南海のマンション。



久々に息子のパパなカウスは、自分の息子が理解できなくて困っていた。


「テーミン…。パパは君が分からないよ…。」


カウス長男のテーミン、通称テミンはリビングにビニールシートを敷いて、その上の画板にたくさんの絵の具を垂らしめちゃくちゃに…カウスから見ればめちゃくちゃに線や曲を引いている。


息子のお土産は何がいい?と聞いたら「大判のビニールシート買ってきて」という、意味の分からない注文はこれだったのか。現場か。みたいな丈夫なビニールシートだ。


しかもエクスカリバー・ショットという、ユラスの子供に大人気シリーズのサブマシンガンタイプをお土産に買って来たら、なんということか解体してしまったのだ。せっかく2丁も買って、ライフルもレーザーガンもショットガンも買ったので、撃たれたら反応するヘッドキアやアーマーもそろえたのだ。レーザーが当たると「ビー!」と音がしヘッドギアが揺れて負けである。

カウス的には、親子でそんなキャッチボールな撃ち合いでもしようと思ったのに、なぜか絵の具にまみれていた。



そしてご飯を作っているエルライには、次男ジバルにミルクをあげてと言われ抱っこしてあげているのだが、絵の具が飛び散って乳児にも掛かっている。

「エルライ。壁にも掛かているんだけど、これどうするの?」

「カバー貼ってあるから大丈夫。」

「ふーん。そっか。ジバル君は?」

「服に掛かっているだけでしょ?パパが守ってあげて。」

「これ、個室でした方がよくない?」

「パパにもみんなにも見せたかったみたいよ。」

ジョア甥っ子の1人もここにいて楽しそうにテミンを手伝っている。


「お父さん、どう?」

そこで、全てが終わったらしい絵の具のぐちゃぐちゃを見せてくる。

「…ふーん。芸術だね。」

「ここ、蛍光イエローがミソなんだ…。」

「…注意標識?」

蛍光やイエローなんて注意色としか思い浮かばない。

「テミン、安全なら反射板もいよ」

「お父さん、それいいアイデアだね。今度はホログラムっぽくしよう。」

よく分からないが褒められる。


「ねえ、この絵の具、テーミン君が使っても大丈夫なの?」

近くにあるパンフレットに毒性とか書いてる。

「大丈夫だよ。そっちは最後のポイントだけでメインのはウヌク先生が選んでくれた安全なの。」

聞くところによるとなぜかウヌクが、月数回の教会日曜学校幼児低学年クラスの、礼拝以外の時間を担当しているらしい。

ウヌクって、あの背の高いのだよな…。響にちょっかいを出し、試用期間必須の礼拝時間はだいたいデバイスで関係ないものを見ているか寝ていた男である。



「テーミン。アンタレスならグレー。西アジアやユラスなら、グレーか土色が迷彩になるよ。蛍光は目立っちゃうよ。」

パパの言葉を無視して幼いテミンは絵に魅入っている。まあ、色が混ざり切っていなくて迷彩色にはならないが、微妙な匙加減がきれいではあった。

「…混ぜすぎると鮮やかさがなくなるんだ…。」

「…そっか。パパは地味な迷彩が好きだけどな。目立つと仕事にならないし。」


カウス宅のダイニングの端では、マリアスの四男アルとジョアの息子甥っ子たちが、解体されてしまったかわいそうなマシンガンを組み立て直している。ただ、直ってはいない。

カウスがエクスカリバーシリーズを15丁も買って寄付したので、近所の体育館では南海の子供たちが自分たちで障害物を置き、サバイバル状態で撃ち合い中だ。しかも、そこにはファクトやティガ、ヴァーゴ、モアも混ざり、大人げなくも子供を撃ち負かしていた。



「お父さん、今度はこのメディウムがほしいんだ。」

「メディウム?」

「そんな高い物いりません!」

エルライが向こうから叫んでいるが、メディウムの良さを語り続ける息子。


話しても理解できない親のために、手が絵の具だらけなのでAIにメディウムのホログラムを映してもらう。どうやら絵の盛り上げ感を作ったり質感を変える画材のようである。

が、カウスは映像を見ても今一つよく分からない。

「なにこれ?ガンオイル?ワックス?」

「ガンオイル?油じゃないよ。アクリルだよ。これは硬質。こっちは弾力があって半透明。ザラつきはセラミックサンドを混ぜればいいし。」

「迷彩投影素材?」

軍で使われる塗料系迷彩素材だ。一般使用は禁止である。

「作品を作っていた延長なのに、お父さん何言ってるの?」

「………。」



正直この子は誰なんだ?と、自分の息子を不思議がるカウス。

似たような顔をしているのに、同じ種族に見えない。どこから来た…どこで派生した子なんだ。


うちの家系には爆発系が多いのは確かもしれないが、こっちの爆発系はいないはずである。エルライも、親、祖父母共に文官や士官系である。




***




一方、チコは今ユラスだ。


セミロングヘアで現役当時と変わらないキリっとした雰囲気に切り替え、軍施設、野営6か所を慰問。


次の日はまた民族衣装の正装になり、夫婦でユラス教本聖殿、官邸に挨拶。その後そのまま首都の高等学校での講演に一緒に参加。短くスピーチもする。


ルバをふんわりと被ってはいたが、カラコンをした目が見える程度であった。先日の午前、死人のようになっていたのが噓のように仕事をこなし、サダルも引くレベルであった。



そして、その日の夕方に、非常に楽しそうにベガスに帰って行ったのであった。



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