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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第三十二章 変わるベクトル

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88 ブラック企業にはなり切れない



タラゼドが思うに、チコやロディアさん親子たちなどユラス人やヴェネレ人と付き合って思うのは、非常に精神性の平均値が高いと言う事だ。


「ユラス、これから発展するかもな…」

ユラスの半分はなだらかな丘と、荒涼とした荒野。紛争がなくなったらどうなるだろうか。



彼らは、社会に抱いている理想が高く、それをどう現実に持っていくか、どう同士やパートナーを育てていくか、何を反省すべきかいつも考えている。アンタレスが忘れてしまった精神だ。


目先のキラキラしたもののために、精神性や理念を捨てない。

これはものすごく大きい事だと思う。


おそらく、今広がる世の中と全く違った世界を頭の中で展開しているのだろう。

自分たちは目の前の現実を変えようとするが、彼らはそうしながらも既に別の世界を憧憬し、現実的に模索している。


人間ができる、最大の進歩的な世界を。


それに本人たちは自身の環境から逃げ回ってベガスに来た人たちだが、実際は面倒見もよく、自分の周りに境界を作っていないタイプの人たちだ。




タラゼドはPCを見ながら考える。


土方も本当の意味での職人にするのだ。


「重機は免許や操作で金がもらえるだろ。他の技術もそうしよう。その代わり基準を設けて確実な仕事をする。今のままではパイロットもいるのに現場を安く納め過ぎる。」

パイロットとは、ニューロスやメカに作業を任せるエンジニアたちである。エンジニアは、大手などの開発、研究職だと評価されやすいが、現場にいる人間はAIの隙間仕事だとおもわれ消耗品に近い扱いを受けていることもある。


「…根本から変えないと、…河漢の人も今より楽しいことがないと学ぶ気も起きないだろうしな………」


と近くの席に言いながらタラゼドはうつ伏せて寝そうだ。


「おい。タラゼド。せめて横になれ。マジで死ぬぞ。」

「そうだぞ。体が大きいから負担も掛かるだろうし…。」

「分かった。後で起きてから……」

と、言いかけたまま完全に寝てしまった。


「あーあ。こんな寝方しても休まらないぞ。まあ、俺も寝よ。こいつは重くて動かせんし、若いからいいだろ。」

「俺はもう少しデータ仕上げるわ。」



社員たちがそう言ってしばらく経った頃だった。




別の部署から人が来る。


「あの…。タラゼドさんってここにいます?」

「寝てるけど。」

「お客さんです。」

「こんな時間に?」

「女性の。」

「え?女性?」

みんなの目が光る。

「今いなければ、同じ部署か友人の方でもいいと言っていましたがどうします?」


女性と聞いて、なぜか起きている総出でエントランスに向かう同僚たち。

「ヤバい。あの黒髪ロングのお姉さんかな?また見たかったんだ。」

「え?エキスポの後うわさになった??俺も見たい。」

「違います。待っているのはロングでなくボブですよ。」

「は?奥さんか?」

既婚者の奥さんたちが時々差し入れをしに来る。

「タラゼドは結婚してないだろ。」



数人がまだ開いている1階の裏出入り口に行き、物陰からそっと見ると、そこには何か包みを持ち、短い髪を無理にまとめたような眼鏡女子がいた。


「…は、かわいい。」

「かわいいと言うか、キツそうな顔だが…。でもかわいいと言うのは分かる。」

「前の子とは違うだろ。エキスポの子はもっとあか抜けた感じだったが………」

「え?前の子が見たい。」

「いや、この娘も磨けばイケるタイプだ。」

うるさい数人がバシっと叩かれ、タラゼドの上司が前に出る。


「こんばんは。タラゼドの上司で株式会社リグァンの松田と言います。ご家族で?」

「あ、あの。彼がお世話になっております。夜分にすみません…。タラゼドさんのご家族から荷物を預かってきました。タラゼドさんは?」

「今寝てしまって…」

目を丸くする眼鏡女子こと、そう、響である。


「こんな時間に?」

まだ夜の9時だ。

「今週3、4時間睡眠で過ごして、今日やっと一息ついたところです。帰ってもいいと言ったんですが、仕事のチェックまでしたいと残っていたんです。」

「…え、大丈夫なのかな…。もしかして皆様も?」

「ああ、私たちも必要な時には休んでいますので。」

「……。」

心配そうな顔で見つめる目が何とも言えない。


「あの、これ先タラゼドさんの妹さんから預かった差し入れです。寮には帰ってないって言うし、電話にも出ないし。でも、生ものもあるから今日中にお渡ししたくて…。」

常務がタラゼドを頼って着信の嵐のため、うるさいと20時の時点でデバイスの電源を切ってしまったのだ。



響はタラゼドの妹たちとは交流を続けていて、時々大房にも行き、化粧品やエステに関するアドバイスなどしている。

以前、タラゼド母のフェルミオに貰ったお菓子の差し入れの中に、『ファイを許してあげてほしい』という事と、妹たちと縁を切らないでほしいとのお願いがあったのだ。

今夜、妹たちは響のマンションに夕食に来て、自分で持っていけばいいのに「母からの差し入れお(にい)に渡して」と、大房のお店のいろんな料理を持って来たらしい。すぐ食べなくていい物もあるが、生ものもあるから早く渡してと言われたのだ。



「…タラゼド起こしてきましょうか?」

「えっ?あ?え?」

眼鏡女子がすごく動揺している。

「タラゼド机に伏してるから、どうせ一度は起こさないといけないし。」

「いいです!!皆さんお忙しいのに!!休んでください!私もこれから出勤で…。」

「え?これから?」

「あ、夜勤なんです。あの、皆様、体お大事にして下さい!」

「あ、え?」

そう言って女子は包みを押しつけると、何度も礼をして出て行ってしまった。しかも、受け取ると結構重い。


「え?かわいいのに。もっと話したいのに!見たいのに!」

後ろで部下たちがうるさい。

「部長!なんでお茶をお出ししないんですか?!」

この時間はエントランスロビーは閉まっているし、この後すぐに行ってしまうなら警備を通して上階に行くほどでもない。女性もいるが野郎どもが転がっている男臭い世界に、女性のお客様は入れられない。



「おい!あれは誰なんだ??前の子と付き合っていたんじゃないのか???」

「この前の子と似てるけど、もっとハキハキした感じじゃなかったか…。姉妹とか?」

「タラゼド姉妹に手を出したのか!それはダメすぎる!つーか末世だろ!それ!!」

「縛り首だな。」

しかし、冷静な1人が言う。

「タラゼドの方が手え出されていたんと違う?」

「なんであいつの周りには女が多いんだ?!!妹3人もいるんだろ?よく電話掛かって来てるぞ。」

「従姉妹とかもな。」

「なんでイケメンでなくてもモテるんだ?!」

「モテるって…、妹からは買い出ししてきてとか、家具の移動手伝ってとか、こき使われているだけだったけど。」


「お前ら、勝手な話をするな…。」

松田さんが呆れている。



アーツだけでなく、職場でもタラゼド許せないムーブメントが起きるが、頼りやすいタラゼドのおかげで常務辺りがいただけない奴らでも職場が真のブラックになることもなく、やはり男子人気も高いのである。


地味に人気なタラゼドなのだ。




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