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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第三十二章 変わるベクトル

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82 永遠の森



ファクトは顔が見えないムギの後ろ姿をずっと見ていた。



この林を出たいのに、永遠に樹の回廊が襲ってくるように見える。


いつの間にか男の死体はなくなっているが、するとまた小さなムギは渓谷を、森を、山を走りだす。

延々と、延々と。


止まってとファクトが叫ぶと…また、その針葉樹の隙間でその男の死体に出会う。




もうそれを何年も何年も繰り返している。


自分もすっかり全てを忘れかける。

あの子は誰だっけ?


記憶が遠のく。

「………。」



『ムギ…………』


「…?」



『あの子はムギ!!』



「っ?!」



そう聴こえて来てファクトは我に返った。



「ムギ!来るんだ!今いる場所はこっちだ!!」

ファクトは我を忘れて叫ぶ。聴こえているのかも、発しているのかも分からない声で。



小さな子供の中に(えぐ)るような痛みが見付かり、全てがあふれてきた。

痛み、憎しみ。ショック、どうしようもなさ。後悔、懺悔、やるせなさや…


チコが思い浮かぶ。




『どうしてチコはユラスを怨まないの?!あいつら全員手の平返して!!』

『…………。』

困ったように笑うチコ。

『チコ!』

『ムギ…。いつか分かるよ。ムギがちゃんと天を向いて、天を抱きかかえて、誰もが愛されるべきだって知っていれば。

みんな…みんな好きで今の位置に生まれたわけじゃない…。』

『そんなチンケな空論聞きたくない!!!』



また、バジバジバジ…………!と世界が変わり、何千何万年もの全てが一瞬で流れ自分はその中に消えていく。




大人たちに囲まれ、キャンプ用のランタンを中心に何かを話している。


『相手はアクィラェの移動を先導したのは大人だと思っている。』

『このまま身を隠そう。名前は『(あか)』だ。朱の赤。出来るか?ムギ?』

ムギは頷く。

このまま、また何かを話している。





「子供?」


また世界が変わる。


どこかの基地の様な工場のような場所で、反応し辛く少女を眺めるチコがいる。

「…………。」

「子供だったのか?」

「そうみたいです。」

連れてきたカウスが優しく微笑むと、あの人に似た瞳に、ただたじろく少女。

目に涙が溜まっている。


「大丈夫。大丈夫ですよ。泣かないでください。」

カウスはその少女を撫でて柔らかいタオルを渡す。少女は泣いていないと言いたいが、言ったら涙がこぼれそうで強く自分を律する。


でも、少女は思う。私が殺したんだ。私が見捨てたんだ。


「大丈夫。大丈夫です。」


この優しい人たちも、真実を言ったらどう思うのだろう。



まだ少女は知らない。

ここにいる人たちの『大丈夫…』は、



ずっとずっと達観して、深く、どこまでもどこまでも、深いことを。





そして…



ベガスミラの藤湾学校の社会科クラスの講堂にいた。



パーカのフードを被っているファクト。

もう1人、フードを被ってコソコソしている誰かが入ってくる。明らかに女の子だ。



これはムギの記憶?自分の記憶?そんな疑問すら――消えていく。


ソイドやソラもいる。

「ムギちゃん、中学は卒業しようね!」

ソイドが心配そうに言うと、恥ずかしそうに俯いた。

「シジミ君!必要科目の日は教えてあげてね。」

ソラもAIシジミ君に頼んでいる。



「いいよ。頼って。」

ファクトは思わずそう言う。


「勉強も教えてあげるし…辛い時は頼ってよ。」


ムギはファクトの背中をグーと引っ張る。



でも、あの時のようにドンと頭はぶつからないけれど、それを期待してファクトは言う。



「いいよ、頼って。」


守るから……。




小さな手をずっと支えてあげたい。



ふとオレンジの香りがして…全てがまた弾けていく。




突然ムギが強くまた背中を引いた。


「ファクト、大丈夫。」


それまで錯覚のようだったのに突然はっきりした声が聴こえ、思わず振り向くと屈託なく笑った今のムギがいた。



「…大丈夫。

たくさんの大切なものもあったから。」


「――?ムギ?!」



「もう少し走り続けるけれど………抱えていく痛みは残るけれど…………

一気に全部は超えられないけれど、きっと頼ることもあるけれど、


それでも―――」






その時パ―――と全てが光り、朝日がカーテンからあふれるような感覚になり、


ファクトは目を覚ました。






***




家に帰ってバタンとベッドに倒れる響。


「シェダルに誘発してもらえば、サイコスが戻ったりするかもと思った」とSR社には話をして帰って来た。ファクトはともかく、ムギの名は出さない方がいい。


前より大きな3LDKにクローゼット。

今はベガス新地区に購入したマンションに住んでいる。



寂しい。

1人でも平気だったのに、1人の方が楽だったのに。隣の家にロディアがいない。

歩いて行ける距離にファイやライたちがいない。

外に出て歩いていても、ファクトもラムダも、リゲルたちもいないし、コンビニに行ってもジェイたちもいない。


そして、もうふらふら歩いてもタラゼドにも会わない。


会わないために南海を離れたのに、離れてみるととっても寂しい。


シェダルにあれだけあからさまに接触されると、もうSR社にも行けない。自分が周りにいる唯一の同年代の異性というのもあるだろうが、シェダルの今の傾向を分かって、またSR社に行くなんて本末転倒だろう。



「…………。」

でも、まずは医師免許を取って、東医免許を取って、残っているものはそれだけだから、それだけは成し遂げねばと、気持ちを切り替えた。


明日午後は手術に立ち会いする。

気を引き締めなくてはならない。




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