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ZEROミッシングリンクⅣ【4】戸惑う僕と、私とあなた ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第三十二章 変わるベクトル

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81 シェダルのサイコス



ユラスの方では、族長総議会の後処理もせずにチコが病室で座り込んでいる。


「なんでまたこんなことになったんだ………」

昨夜からチコは、2人が無事であるようムギのベッドの前で明け方まで祈っていた。


ユラスに来てからは、私服の時もずっと地味な色のルバを被っている。


「ファクトの方は大丈夫だと思いますけれど…。ただ寝ている感じですし。」

アセンブルスが言うがチコは落ち着かない。

「寝返りまで打っているので…。」

カウスもファクトは大丈夫そうに思える。


「そうだ………忙しくて忘れていたけれど、なんでムギとテニア氏………父は一緒にいたんだ?」

プロテクターは入っているだろうが、テニアは蹴りでニューロスに対応していた。そんな人間を護衛に雇うとは。チコはメンカル入りしていたことも詳細も知らなかった。

「それは…」



その時、ユラス側の人物が入ってくる。


「失礼します。

先ほどサダル議長側から指示が来たのですが、カウス様はお帰り下さいとのことです。」

「え?私?」

「こちらの護衛もいますし、ワズン大尉も戻ってきています。総会議も終わって急務もないのにカーフ様、アセンブルス将補、カウス様までユラスに必要ないと。ベガスは河漢関係で問題が起こっているそうで、河漢を威圧できる人間が必要だそうです。マイラもサウスリューシアに戻る準備をしているので人が必要です。」

おそらく河漢の人間がイキっているのだろう。そんなチンピラやヤンキーどもの反抗などベガスの人間で十分対応できるのに。


「私はチコ様の護衛です。ムギにファクトまでこんなふうなのに帰れません。カーフを帰らせて下さい!」

「カーフはただの学生だ。お前が帰れ。」

チコが言い放つ。

「ひどい!」

カーフは名目上いち高校生に過ぎない。

「私もただの護衛です!なぜ軍の命令に従わなくてはいけないのですか………」

カウスは今は軍人ではない。中高生が都合よく子ども扱いもされ大人扱いもされるように、カウスも都合よく軍人扱いもされ、ただの護衛扱いもされるのである。


「うるさいな。カウスも半公務員だろ。軍じゃなくて議会の命令だ。トップの指示に従え。」

国から任せられた護衛である。

「ここのトップは首相です!」

しょうもない言い合いが続くが、カウスは粘る。


「私の直属の上司は………誰だろ?とにかくチコ様と一緒にいます!」

「カーフにはファクトを連れて来たお灸を添えないといけない。今日までは残す。」

カーフは勝手に動き出すファクトを追いかけてきただけで、亡命者の一時アジア出国手続きは取ってある。ファクトの保護者兼とばっちり役になってしまったかわいそうなカーフなのである。


誰も加勢してくれないけれど、それでも踏ん張るカウス。



「今は帰れません!ムギが弟を呼んでいたんです!!」


「っ?」

ハッとするチコたち。


「『シュルタンさん』と………」

「…………」


窓の方を見てカウスはつぶやく。

「………今シュルタンは私しかいません。もう少しいさせてください……。」



みんな押し黙るが、やっぱり言ってみるチコ。

「いや、お前帰れ。」

「…鬼畜な職場ってこれのことですか?」

カウスは切なくなる。


側近も困った顔をしている。カウスは不貞腐れしてムギの前に行き、そこからどかない。

「もういい…。ベガスは今いるレオニスに任せろ。河漢は42もいるだろ。」

42は特殊部隊、チコが襲撃されてから、名は出さないが表にも出るようになったメンバーたちだ。




暫くしてチコは病室を出ると、膝丈のルバをはためかせ病院内正道教聖堂に向かった。アセンブルスと共に、入り口で待っていた女性兵パイラルも付いて行く。


チコは霊に関する交信はあまり得意ではないため、いろいろな媒体がいるので、多くの人の祈りがある聖堂を選んでそこに向かった。



バッと扉を開け、敬礼をしてから恭しく入って行く。


主廊を歩きながら主祭壇の前に立ち、さらに最敬礼をし片膝を付いて祈った。



「カフラー………」


思わずその名前をこぼし、そして立って目を閉じた。

その名前に思わず「………。」と反応してしまうアセンブルスとパイラル。



……カフラー。聴こえてる?


あなたの弟が、ずっとムギの中にいる…。

タビトはムギと一緒にいる?


それともカフラーはタビトとそっちで会っているのか?



「お願い…。ムギを…見付けて来て………」



カフラー……



無言の祈りが聖堂に響いた。






***




SR社の方では顔を片手で覆ったまま、仰向けにソファーの背もたれに倒れてしまったシェダルに一同が驚く。


「シェダルさん?!!」

今ここに人間の護衛はいないが、いきなり心理層に飛ぶとは安直すぎる。


まずは少し話をしたかったのに…。起きるのだろうか?


これではムギやファクトのことをSR社にも説明することになってしまう。機密事項だったらどうしよう。いつもならこんな行動はしないのに、そう考える前に焦って早々行動した自分に響は罪悪感が募る。いくら同盟でもこの件に関しては東アジア軍ではなく、ユラスにいるならユラス軍が動いているだろう。


どうしよう…アジアライン情勢や軍が関わっているかもしれないのに、誰を呼んだらいいのか。


一番いいのはシャプレーだが、だいたいここにいない。



このままシェダルが長い時間戻ってこないと非常に困る。


「響さん?これは何を…。」

ナンシーズは状況が分からないようで、響に聞きシェダルもに声を掛けるが、彼は起きない。おそらくナンシーズに入った情報は、直接シャプレーたちに届く。今この状況も。



どうしよう…。


「…。あの、ナンシーズ。少しだけ待ってください。大事にしないでください。」

響がシェダルの首から脈を確認してみると、綺麗に波打っていてが取り敢えずほっとした。


「どうですか?私も脈、診ますか?」

覗き込んでくるナンシーズに、変な気持ちになる。会話も動きも全く人間の様なのに浮世離れした体型と、優しく聞いて来るのにあまり感情を見せない不思議な会話。

「はい、お願いします。大丈夫だと思いますが…人を呼ぶのは少しだけ待ってください。」

どうせ何をしてもここで起こったことは記録に残っているので、開き直って隣のソファーに座る。


シェダルは響よりも簡単に心理層に飛んでしまった。

でも、前回意識下で同じビルドを保つことは難しかった。経験や未学習の差なのか、得意能力の差なのか。



ソファーに沈むシェダルにひざ掛けを掛ける。


響より少しだけ上なのに、幼さも残る寝顔。目尻や上唇など部分部分チコのと似ているのに、それとも違う顔。大人と子供が混在するような、あでやかさもあるのに、まっさらな影を被っているような雰囲気。


闇の中に落ちたようで、世俗よりも純粋な空気。


そんな子供のようなシェダルに、響は小さくため息をついた。






…10分後。

背筋を正して着席姿勢で瞑想をしていたら、突然手を握られる。


「いっ!」

「…。」

既に起きていたシェダルであった。

「響…。」

「ひいいいぃ!もう?!」

また思わず振り払う。

「やめて!人にあれこれ触れないで!」

「お前が俺の首を触っていんただろ。」

「脈を測ってたの!」

「…。」

「…って、サイコス中のことが分かるの?」


「…全部じゃないけど伝わるものもある。でないと体だけそのままで危ないだろ。」

「…。」

響と全然違う、危険の多い環境にいたからなのか。シャプレーも心理層に入った時、現実との二重世界を見ていた。


驚きと、起きてくれた安心感。二つが混在してゲッソリする。



響は小声で

『ファクトは?!!』

と、乗り出す。


「…いた。多分だけど。昔のPCみたいな絵になっていた。」

「PCみたいな絵?…。」

またミニファーコックだろうか。

「彷徨っていたから、あいつが意識下で認識しているところに飛ばした。うまくいったかは分からないけれど。」

「強く認識?誰?…チコ?…。

…ムギ?」


「…さあ?後はあいつ次第だから俺は知らない。」

「…。」

「こっちには戻せなかったの?」

「知らん。向こうの方が送りやすかったから。」

「…。」



チコみたいな顔のシェダルに握られていた手を擦りながら、響は泣きたくなる。


もしかしてこれは気に入られてしまったのか。何もかも距離が近過ぎる。


髪が短い方がナンパされにくいと聞いて、中学生の頃から長かった髪を初めて短く切ってしまったのだ。短い髪を地味に縛っておけばいいだろうと。


というのも、都市部でなく人もギラギラしていない地方の病院内総合漢方科。先生もおじいさんで患者も中年以降の人が多い。それもあって郊外の病院を選んだのに、外科に通っていた20代の患者さんに好かれてしまったのだ。しかも他の男性にも声を掛けられる。

結果、響はネットで調べた好かれない地味女子という事で、数世代前のダサい眉毛を描いて地味に生きていたのである。


意識過剰といえど、自分はやっぱりモテるのだ。また女性の看護師さんたちにいろいろ言われていないか、青ざめてしまう。ここの漢方科は比較的優しい人が多く、そういう患者さんをいさめくれる雰囲気だ。気が強い人も悪い感じではない。



…なのに…なのに…


意味が無ーい!!!


これでSR社も出入りできなくなった…。



もしシェダルが母アヒルに子アヒルが付いて行く程度の感覚でも、このまま隣に居続けることはこれから難しいだろう。男女は距離がとりにくい。そもそもシェダルは未知数だ。



「響さん。博士方にこれはなんと説明しますか?見たものを知らせるだけでいいですか?」

ナンシーズが爽やかに聞いてくる。

「あ、いいですけど…。シェダルさんのサイコスを試してみたかっただけですので…。」

冷静になると、当たり障りのない言い訳が思いつく。



シェダルは何食わぬ顔で、多角形ロボを引き寄せて、形を変えて遊んでいた。




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