表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第三十二章 変わるベクトル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/104

80 もういいんだよ



『ファクト?』


突然現れた唐文様。白い麒麟は人の形を作ろうとするが、それができずに白に黒模様の小さなイモリになる。


「ひっ?!」

ファクトはいきなり現れた両生類にびっくりする。


イモリ?!

サラマンダー?


確認して気持ちに余裕が出ると、かわいいのでツンツンと触ってみるが、

「あ!」

失礼なことした!と、手を引っ込める。


シェダルが響のことを『麒麟』と呼んでいた。

「響さん?!もしかして復活したの??ごめん!両生類嫌いなのに、なんでそんなんになるの?」

女性に対して失礼過ぎる。しかしイモリは答えることもなく、形を保てず今度は鹿になる。



鹿は苦しむように呻き走り出し、そしてルバを被った女性のようになろうとした。


女は、()()()()のまま這いつくばるように動けなくなり、ファクトは宇宙の女性を思い出した。


「待って!消えないで!」

彼女はすぐに消えてしまう。でも、その女性の髪はシルバーの様な、黒の様な、グレーの様な…?この髪の色…記憶にある?


そしその人の頭からまた鹿の角が生えて来て、そこから葉が茂り……


周囲には花や木が溢れかえり、もう人なのか鹿なのかも分からなくなり………



星空が広がり、北極星が煌めく。




「………響さん?」

………違う。


これは大房のセンターで見た…ウヌクの作った世界?………


「シェダル?!」


そう呼んだとたん、また全てが近付いて来てその奥底に入り………




見たことのない森の深い渓谷にいた。





先まで夢かうつつか分からない世界にいたのに、今度は全くの現実に思える。ただ、自分は目線だけでまた形を成していない。


ここは?

針葉樹と歩きにくい岩や石。ユラスほど空気が乾いていない。アジアライン?


まるで映画の人目線でカメラが動くように世界が進んでいく。




でも分かった。


ここだ。



ここに、ここにムギがいる。



『ムギ…』

声が浮く。


ムギがいる。



小さなムギが。





………いる。

背中に感じる。藤湾の高校社会科クラスの講堂で、ソラを響と間違えて抱き着き、真っ赤になって恥ずかしそうな顔をした女の子。



そう思ったとたん、少し先に、今よりずっと背の低い、お手製のなめし皮のブーツを履いた女の子が、ファクトに背中を向けて立っている。


どこかに行ってしまうように、こっちを見ていない。


どこを見ているんだ?

そこには行かない方がいい。行ってはダメだ。





気が付くと画面がいつの間にか変わり、女の子は必死になって走っていた。

その山を、その渓谷を、その石や土の上を、必死になって走っている。


行くな!行ったらだめだ!戻ってくるんだ!!



なのに、誰かは「走れ!止まってはいけない!」と言う。




『絶対に振り返るな。


すると、草むらに踏み固められた土だけの獣道が現れた。上にはフェンス。


越えろ。

これを越えるんだ!!』




全く知らない世界が重なる。


走れ!走るんだ!絶対に振り返ってはいけない!




世界が混濁している。

ファクトはもう、自分が何を追っているのか、何を見ているのかも分からない。

ムギ?それともここは?

もう少女は延々と走っている。もう何百年も、何万年もそうしていたように。ずっとその渓谷を、森を、山を。


ムギ、もういい。もういいから…………

小さな足が走るには、そこはあまりにも酷過ぎる。




「もういい…


ムギ!もういいんんだ!」




バジンッ!



と、音もなく何かが弾けた。そこには走るのをやめた少女の後ろ姿が見える。

そのまま動くこともなく、ただ何か下を見ている。


恐る恐るその少女に近付いた。


『ムギ…?』


小さな少女の前には…頭を撃たれて死んている男がいた。



片目周りは銃弾で吹き飛んでいる。

血だらけの顔から見える残る片目。薄っすら開いた目の、あの優しい緑の瞳。


少女の顔が見たいのに、表情が抜けている。

驚愕と、無表情と、どうしようも無さと、混沌とした全て。でもその顔が見えない。


いつの間にかムギは、最初に会った時の様なカウボーイハットを被った頃の背丈になり、そしてまた今の、響に追いつきそうで少し低いくらいの…今のムギになる。足が細くて、折れそうで…。





ずっと、ずっと、ここにいた…。


ムギはずっとずっとここにいたんだ。



でも、その奥の奥まではファクトには見えない。

まだ何かある、深い底の底。




「ムギ………。ムギ、もういいよ。帰ろう。帰ろうよ。」



でも、少女は自分に気が付かない。


「ムギ、行こう。次に…………」




全く動かないムギ。ならこの男性は?


この緑の目。少し違うけれど、この瞳を自分は知っている。

カウスさんの兄?


違う、あの人はもっと体格がよくキリっとして、オレンジの香りがした。


弟さん………?

ワズンの家で見た、カウス兄弟たちの写真。

あの笑っていた人が………、半分頭がない……。ナイフのような抉り傷もある。



スーと、涙が伝う。



名前を聞いておけばよかったと思う。そうすれば名前呼んであげることができたのに。


「あなたは………、カウスさんの弟さんですよね?ずっとここにいるんですか?」

ユラス教や正道教なら、もし迷っても牧師や霊性師が霊を導くはずだ。普通は地縛霊のように留まることはない。


「…………。」

ならムギの心だけが?


心がずっとここに留まっている。



「シュルタンさん………。もういいんだって、ムギに言ってあげて下さい。


ムギの中のあなたが…ずっとここにいるんです。」



きっとそうなんだろう。死んだ人の無念だけでなく、生きている人もその死に囚われる。

シュルタン家や、弟さんの知り合い、ユラスの貴族家系なら妻か婚約者もいたかもしれない。

生き残った人は、その全ても背負っていく。…………ムギも。



でも、でも……過去は変えられないけれど、未来はまだ未知数だ。

たくさんの道を残している。


「シュルタンさん………。ムギに………ムギに……。

ムギを許してあげてほしい………」


何て言ったらいいのかも、ここが意識下なのか霊世界なのかも分からないのに、会ったこともない人に聴こえるのかも分からないのに。でも、それ以外にできることが分からない。


誰に殺されたのかも、ムギがどう関わっているのかも、許してあげてというのが正解なのかも、この山で何があったのかも知らない。



幼い時からずっとここにいる少女を、許してあげてほしい。解放してあげてほしい。


なのに、自分は無力だ…………






***




その少し前、響はSR社に駆け込んでいた。



「シェダルさん!シェダルさん!!」


「…うるさいな。」

ベッドをやめソファー生活になっていたシェダルは何だと不思議がる。響は周りに挨拶もしないほど焦っていた。


「飛んで!」

「飛ぶ?」

「麒麟になって!飛べるでしょ?!」

響はその場でぴょんと飛んで見せる。


「………麒麟?お前が麒麟だろ?」

「シェダルさんが麒麟になるの!………えっと……」

ここから顔を寄せて小声だ。


『………私が行けないからファクトを探してほしいの!』

『ファクト?』

シェダルも小声になる。


『自分が心理層に行けるって分かる?』

『心の世界か?』

『そう!サイコス!』


アンドロイドの護衛が何事かと見入っている。

「あっ!こんにちは。サイコスのお話です……。研究研究………」

今はコーディネーターはおらず、護衛とナンシーズだけだ。

「探せる?現実(こっち)に引き戻すだけでいいから!」

「…………。」


いつもならサイコスに関わることは冷静に対処するのに響は焦ってしまう。珍しい者でも見るようにシェダルが眺めていた。というか、バカでも見るような呆れた顔をしている。

「ちょっと!どうなの?!何、その目!」

「髪の毛切ったんだな。」

「そんなのどうでもいい!!」


ガバっ!

「っ…!」


突如、響の肩に少し大きな腕が伸び、その腕の方に引き寄せられた。

一瞬何が起こったか分からなくて固まる。

「………。」


気が付くと、響はの顔はシェダルの肩の近くにある。それから回した腕でそのまま背中をポンポンとされる。

「落ち着け、響。」


「っい?!!!」

反射的に離れるが、ナンシーズが引き離そうと前に出て、後ろに引いた響の肩をそのまま抱いた。最近大人しくしていたので、シェダルの突発的な行動に護衛も少し焦っている。


「…は?……は?は?………。」

「落ち着け、麒麟。子供か?」

物凄い落ち着いている感じのシェダルと、青くなっているのか赤くなっているのか分からない人。


「……そ、そういうことはしてはいけません!!!」

「お前が、落ち着かないからだろ。」

「でもだめです!」

「……分かった。」

響は眉間に指を当て、一旦落ち着いてみせる。まず自分が落ち着かなくては。

「分かった。分かったからシェダルさん……。先のできるか教えて。」


と、響は脈を落ち着かせて、今度は自分が先生のように言う。


「分かった…。」


と、おもしろくなさそうにそれだけ言って、シェダルはおでこから顔をふんわりと自分の両手で覆うと、そのままソファーに沈んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ