表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第三十二章 変わるベクトル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/104

79 白い麒麟



「っ?!」


突然世界が弾ける。



響のように現実と世界が中和するように回ったり、バジン!と分かりやすく弾ける感じではない。



バジバジバジバジバジバジバジっ!


と、自分のものなのか他人のものなのか分からない、たくさんの人や風景、情景が一気に迫って来て一気に切り替わり過ぎ去っていく。



何だろう。一瞬なのに、永遠にも感じる。


そしてバン!と音もなくまた弾けた。






何もない空間に自分はいるのか。


でも見えたのは、ユラスのルバを被って、

カビ臭い窓もない部屋で、


ただ赤ん坊を抱く長い髪の女性であった。




***





響はアンタレス外れの地元民が通うような総合病院で働いていた。


長かった黒髪を短く切ってしまい、ギリギリ結んで半透明の茶色い太めフレームの眼鏡を掛けている。


蛍惑ペトロ中高大で12年の看護や医療の専攻、藤湾大学の研究室持ちの講師、倉鍵のインターン。この辺りの経歴はデータに残り消せないため、面接の際に病院側が驚いていたが、医院長たちが何か配慮することがあると考えたのか、あまり追及はされなかった。アジアトップクラスの病院の推薦状を持って来たまだ若い女性が、ここで働いてくれるのをおもしろく思ったのかもしれない。


若いのに非常に濃い経歴の持ち主が、漢方にも関わりながら、内科から外科も渡り歩いてとても地味に過ごしていた。



休み時間に入ってスタッフラウンジに行きボーお茶を飲む。

仕事以外では話さないため、友達は一人も作っていない。ふとデバイスを見て着信に気が付がついた。


ん?この着信………。

生体認証をすると、認証で開く特殊OSが起動する。


カウスさん?

掛け直すと一瞬で出た。



『響さん?!』

「っ!あ、はい、響です。お久しぶりです。」

『お仕事中ですか?』

「何かありました?」

『ファクトが心理層に入って出てこないんですが、どうしたらいいですか?』

「はい?」

『出てこれますか?』

「……え、何の話?」


周りを見渡すと、数人いるのでサッと人気のいない場所に行く。


『ファクトが心理層に行くって突然瞑想をして、すぐに倒れてしまったそうです。』

「えっっ?!」

『彼、そういうことをする前に全然報告とかしなくて……』

「私が行けなくなったこと知ってますよね。」

『はい。でも何か確認できる方法はありませんか?』

「幽体離脱や霊視状態ではないですよね?」

『霊性は離れていないと思います。』

「………いつからですか?」

『昨日からです。20時間以上は…』

「へ?」


『昨日?!!』

思わず大声で言ってしまう。

「昨日?昨日っておかしくないですか?!」

『……やっぱそうですよね?』

「おかしいです!!揺らしても起きない?」

『起きません。』


そう、実はもう1日ほど経っていた。


『ムギもこんなんで、ファクトもこんなんで、今回は響さんもいなくて……チコ様がかなり参ってます。』


「………へ?ムギ?ムギもなの?」

『…いや、ムギは別件で……もう数日経っています。一度目は覚ましたんですが………。霊性師も意識回復までは出来ないし、他のサイコスターでは居場所も分からなくて………』

「…ちょっと待ってください。」


うーんと、前にしていたように集中してみるが、やはり心理層は見えない。

窓の外に少し曇りの空が先と同じように広がるだけだ。自分がふがなくなる。


「………。」

『………。』

「カウスさん、私今行きます!ベガスですか?!」

『……ユラスです。』

「ユラス?!!」


「はあ…。」

それは遠い。

少し考えて思いつく響。

「あ、そうだ!電話切ります。待っててください!」


それだけ言って、今日は通常スケジュールしかないと分かると、身内が倒れたと話して病院を後にした。




***




どこに入ってしまったのか分からない。


ファクトはずっとただ自然を見ていた。



広い海、広がる草原、流れるマグマ、ただ岩が広がる山………。

人はいない。ただ、ただ風景だけが流れる。


鳥のような視線で全てが過ぎていく。



そしてふと気が付く。先の赤ちゃんを抱いた女性は?ムギは?

そういえば、ムギとはDPサイコス関係で関わったことはない。なのに会えるのだろうか?


向こうにファクトに関する認識はないのかもしれない。


あきらめるべきかと周りの情景にまた溶け込みそうになって気を引き締める。



流されてはいけない。

だからファクトから意識をする。『ウゲっ』と、顔をしかめたあの子はどこにいるのだろうか。


死んでしまうのか、ただ、少しだけ寝ているだけなのか。


これが霊の世界なら、相手を思い浮かべることで世界線が繋がり、相手とも繋がる。近似性があればお互い距離や空間を越えて会えるらしい。

でも、心理の世界はある意味、相手の認識を見るだけだ。


そう思うと響さんてすごかったんだな…と思う。その中で声を掛けることもでき、自由に動けるのだから。



響さんのようにはできないので、霊性の世界で繋がることで、そこから心理にも影響を出せないだろうか。早く起きるんだよ、と。


すると、ファクトの流れる世界が止まり、ファクトは自分を形成した。

「?!」



手を見ると、先まで自身の視覚しかなかったのに、形状の感覚が現れる。

「………」


が、現れた垂直の水面に自分を映してみると少し頼りない。

「なんでまたミニファーコックなんだ………。」




ファクトはしばし存在すら忘れていた、オンラインゲーム『ゴールデンファンタジックス』のマイキャラ、ファーコックの昔バージョンになる。しかも手を見るとドット画だ。


俺は8ビットしか容量がないのか………。


両親よりかなり平凡なのは自覚しているが、今この時は、せめて初期ポリゴン時代には飛びたい。初期ポリゴンは気持ち悪くて苦手だが。でも8ビットの世界では、たとえムギでも、高度デジタル時代に生きる自分を認識できないかもしれない。



しかもしかも、装備も最終ログアウトした時から更新されていない。

意識層とは、想像の世界とも違うのか。なぜここまで現実に寄せるんだ。


揺らぐ体をどうにか統一し、何をしたらいいのか分からないので、意識下で意識の統一をする。




どのぐらいそうしていたのか、時間が経っているのかも分からないが、ムギよりも寺を思い出してしまう。ムギよりも寺の記憶の方が濃いとは。


手摺や柱の木材が経年変化で黒味掛かり、そんな縦に流れる木目をなぞるのが好きだった。

師匠の町はアンタレスの隣の県で、大都市の少し近郊なだけなのに田や緑が広がる。


その町には前時代の寺社仏閣がいくつかあり、町で管理しているだけのほぼ使われていない建物もあった。リゲルと寺を抜け出してマートのあるところまで行くと、そこの古い住民たちしか気に留めないようなお地蔵さんがあり、近くに咲いている草花を捧げて手を合わせて駆けて行った。


そして帰って来て住職にこっぴどく叱られるということを、寺暮らしの時期に毎回1度はしていた。いつも勝手に抜け出していたからである。



ああ、また目が覚めたら叱られるのかな………。

ここはユラスだから怖い人いるし。あのサダルメリクとか言う人。

あの人怒らせたら島流しにあいそうだ………もう生きて帰れなさそう………。


たくさん考える時間がある気がして、ふと気が付く。



どうしてユラスには東洋系の顔が生まれるんだろう。しかも取って付けたように。


自分の知っている中ではサダル、カーフ親子、サイコスターの女性兵ガジェたちだ。

サダルやガジェは自分と似た系統の顔つきらしい。いつも一緒に会うからか、警察にヴァーゴ、サルガスと三兄弟と言われたが、最近は顔が似ているからと、サダルとサルガスと自分で三兄弟とか言われる。



ユラスに渡った東アジア人がいたのだろうか。


まあこの時代どこにでもいるだろうし、ニッカのお兄さんのようにユラス周辺にも東洋系や東邦系と似た顔の民族はいる。


でも、でも何だろう。またそれとも違う。

何と言うんだろう。


あの、床や側面に展開される木を磨き続ける、年輪の小さな凸凹間を感じる禅の様な祈りの様な感覚。

空にも地面にも流れる(いぶし)瓦。

新緑を待って家族が寄り添って耐える冬と、青の眩しく澄んだ山林。



なんだ?何だろう。それを知っている感覚。



あなたたちは誰?



あなたたちはどこから来たんだ?



あなたたちは誰なんだ?

教えてほしい。もう誰かが死んでしまったらと思うのはこりごりだから。

誰かが死んで、苦しんでいる人を見るのも嫌だから。


誰?


誰なんだ?




パン!とまた小さく弾け、黒髪のたくさんの女性たちが見えた。



彼女たちは祈りながら水籠りや断食をしている。

尼僧?



それを見ている誰かも祈っている。


いつの時代だろう。洋服は着ている。



若い彼女たちは、薄褐色肌のユラス人の男性たちの元に嫁いでいく。なぜ?



これは誰の記憶?


サダル?



違う。女性たちの服がその時代じゃない。

サダルの若い頃のアジア人なら、既に今と変わらない感じだ。

もっと、もっと、自分が生まれるもっと前だ………。


こんなふうにドット画が出た頃か、それとももっと前か…。




と、突然一点から世界に唐文様が広がり、見える世界を覆った。


青と白の、そして金の唐文様。その模様の一部から何かが飛び出す。



自分の前に一頭の白い麒麟が舞った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ