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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第三十一章 はためく翼

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71 もげた翼

※暴力、犯罪描写があります。



名前が間違いだらけですみません。カタカナひっくり返る病気なのかというほど、カタカナの順番や子音が崩壊してしまいます…。


×ルブイ、クルバーでなく、

○ルイブ、クレバーです。




「サダル。いいですか。

あなたは私のお父様の孫なので、ユラスを引っ張る人間です。今週1週間も天に仕え、父母を敬い、町を愛し、立派にお勉強をしてください。」

「はい。心します。」


月曜日毎週言われる決まり文句だ。本当は正式なユラス教の御言葉があるのだが、母は覚えられずいつも勝手な理想を語る。

そして父チャラワンの写真に敬礼をして、ボロボロな家を出る。父の写真は証明写真しかなかった。


クレバーはそんな兄と母が好きでいつもそれをニコニコ見ているので、サダルは鬱陶しかった。この子供に言いようのない嫌な空気も感じていたのだ。

母は何も言わないが、この子がただ戦場で拾ってきた孤児でないことにサダルは気が付いていた。たくさんの怨みの霊を背負っている、ギュグニーの落とし子なのだから。



帰って来てからサダルは母に時々話をすることがある。


「母さん、クレバーはユラスに預けよう。時々来る人たちに。」

「…弟をそんな風に言わないで。」

「っ…。」

弟じゃない…という言葉を寸でで飲み込む。


「この子は敵の懐から拾って来た子だから、僕らには重すぎるよ…。」

「だから私たちが預かるの。」

「僕たちは僕たちだけで精いっぱいだよ!」

男手もない、お金も稼げない保護生活。人に助けてもらわないと何もできない母。前の住人が置いて行った棚の上の段に手も届かないほど小さな自分。それなのに、なぜもっと出来なさそうな子供まで育てるのか。


「サダル。私たちは族長一家だからね。少し大きなものも抱えられるの。」


自分の頬を両手で包んでそう言うが、サダルにはその意味がまだ解らなかった。サーライすら自分のことが感覚でしか分かっていなかったのだから。


サーライは全部包み込むつもりだった。

見えない、重い、憎しみもその全ても。



でも、サダルはもうこりごりだ。


「何が………」

何が族長一家なのか。何をこんな小さな手で抱えるのか。

三度の食事すら近所の人に頼っているというのに。三食食べられることすら身の丈に合わない。サダルは学校で裸の王様一家、乞食と言われている。それだけでなく「愛人女の連れ子」と、言葉の意味も分からない子供にさえバカにされていた。


「でも無理だ………」

「にーた」と足に纏わりつく子供を振り払いたが我慢する。こいつなんていらない!そう言いたいが言えない。



………自分と目を合わせようとせず、内職の手を止めない母が、


壊れそうな気がしたから。




***




サダルがそんな風に暮らしながら学校に行っていた日。


商店の人の勧めもあって、ルイブは再度都市部への避難を進められた。


何度進めても相談に乗らないので、近所の顔見知りと共に首都から国の相談員の女性が自宅に来ていた。

「ルイブさん。あなたとお子様たちのためです。皆さんの移動は軍が責任をもってくれますし、その後も住まいを準備し安全になるまで警備も付けます。」


はっきりは言わないが、軍や国が来るあたりおそらく本当に族長親族なのだろう。バベッジ族バベッジ家も狙われているらしく、ユラス連動軍で各族長ご家族を保護したいと言ってくる。「まだ命を狙われるのか」「そんなことをするのは荒野で死んだあいつらだけでないのか」と、ルイブは世界が忌々しく思えた。


「ここでいい。」

とだけ、頭を上げることも菜っ葉を分ける手を止めることなくルイブは淡々と言う。クレバーは母の横で置物のように大人しくしていた。


「ルイブ………。私たちだけではあなたたちを守れないの。それに都市部や国の管理する中にいれば、サダルにもっと高い教育を受けさせてあげるとこもできるし。」

そういうタイヤン母の言葉を、タイヤンも横で聞きながら頷く。

「………」

「最近この場所も前より危険になっているし…。」

「……」

「ルイブさん?もし首都が怖かったらオミクロンの都市もあるし。オミクロン軍の中でかくまってもらうことだってできますよ?」

「………ぐ……は…いい。」

「?」

「………軍も………軍も怖いからここでいい…。」


やっと話すルイブの様子がおかしいことに相談員が気が付く。

タイヤンたちも何かがおかしいと分かる。ダメと言っても駐屯地に通い詰めていたのに軍が怖い?父親も元軍人であったし、夫も軍人だ。なぜ今さら。


「何かあったんですか?」

「………。」

しばらく待つ相談員。

「……………」

「………あ、あ…。」

顔を押さえてルイブが震えている。


みんな嫌な予感がする。



一旦、相談員とタイヤン母だけがルイブと残り他は部屋を出る。タイヤンはクレバーを抱き上げ、マートに連れて行ってあげることにした。

「また、サダルに叱られるな…。ソフトクリーム買ってやるからお菓子は1個だけだぞ。兄ちゃんの分も買ってやれ。」

「うー。にいたん。」





ルイブの方は、嫌な予感通りだった。


駐屯所の中ではないが、軍人に手を出されたのだ。


ルイブはルイブで必死に海外に逃げる方法を探っていた。

西アジア南はメンカルが近い。この時期、まだ南メンカルも不安定で南は嫌だった。

東アジアの軍がある地域、もしくは西アジア北の蛍惑というところが比較的安全だと聞いたが、北は北の大国でギュグニーを造り、ユラスを(そそのか)した者たちの出身地が上にある。



ある日、ルイブは街を巡回していた軍人に声を掛けられ、話を聞いたところ、自分を介して逃亡を手助けできると言われたのだ。今は貧しいがお金はどこかにあるはず。後で必ず返すから先に子供を亡命させてあげてほしいと頼む。では手順やお金の話をしようと、移民たちの働く倉庫に連れて行かれ椅子に座って話しを聞いていた時だった。


数人に囲まれお金以外の対価を求められる。


始め意味が分からなかったルイブ。その無防備な服に、突如手を入れられた。相手は1人ではない。必死に抵抗するが上着がはだける。ルイブにとっては天にも想像しなかった信じられない出来事だった。


「ひいぃぃっ!」


亡くなった母たちから、未然に防ぐことやもしもの時の教育は受けていた。でも、ルイブは当時意味が分からなかった。必死になって逃げようとするが、男が4人ほどいて、髪を掴まれた。

「ぎゃあああああ!!!」

完全にパニックになって叫ぶが、誰かに頭と頬を叩かれ、埃臭い男の親指と人差し指で口を塞がれる。胸を掴まれて仰向けにされ、銃で撃たれると思った時以上の恐怖が襲う。あの時は誇りがあった。でも、これは尊厳そのものも貶めるものだ。


他の男が机に乗りルイブの肩を押さえ、1人の男が整ったルイブの顔をうっとりと眺め口を近付けてきたのだ。さすがのルイブも混乱の中でも分かった。何もかもが、理解不能だったが。そして足に触られる。


っ!!!

お父様!!お母様!!!


「ああ゛ーーーっ!!!!」

と叫んだ時だった。


ピカーーー!と全てが(またた)く。


バジっ!!!

と何かが強烈に光った。

「うわっ!」

「うぎゃあ!!!」

ルイブでなく男たちの叫び声が響く。

そして、倉庫の電気がバン!ジジジッ!バジバジ!!と閃光し、バン!バジィィっ!!!とさらに数回大きな音を立てて、何かが別の場所でも爆発している。見張りをしていた男たちも、驚くが対応できない。

「なんだっ?!!」


その隙にルイブは必死になって逃げた。ただただ必死でどう逃げて来たかも覚えていない。



服を整えようとすると、胸が半分はだけたままだ。こんなところで胸をさらけ出していた自分が信じられず、近付いて来た顔を思い出すと気持ち悪くて道端に吐く。とにかく先の場所以外の人気のあるところまで逃げ、動悸が収まるまで耐えた。

座り込んでいる女性を心配して声を掛けてくれたおじさんにも怯え、走り出す。


今までも触られたことはあった。でもここまでされたのは初めてだった。


こんな事があるのかという信じられなさと、自分の中のユラスの誇りがここで負けてはダメだと言っている。生き残ったのは自分だけなのだ。自分が祖父や父、兄や姉の未来を継ぐんだと。



今自分がダメになったら、子供たちはどうするのか。


先、起こったことへの事実を底の底に押し込め、ルイブは自身の中にある誇りを立たせた。





***




「………。」

後で少しだけ事情を聞いたタイヤンは、やるせない気持ちで両親と近所の女性たちで話を詰めていた。ルイブが軍施設を恐れる理由はそこにあったのだ。


町のこんな場所のこんなボロ屋に住む際立って美しい、そして若い未亡人に、何もないわけがなかった。


調べていくと町の有力な者たちからも、再婚を求められたり妾にならないかと言い寄られていたのだ。

断って嫌がらせも受けていた。これまで頭の悪い思い込み女とバカにされてきたのに、今度は町に二重権力が存在するのは争いの的だ、ギュグニーの標的だと権力のある層の男にそんなことも言われていた。こんな小さな町ですら。


商店街の人間がいない時にもたくさんのことがあったのだ。



そして、他に何かなかったか相談員がうまく誘導していくと、ぐちゃぐちゃの引き出しからたくさんの書類も出てきた。


もう、言葉のない一同。


さすがにそういう物に手を付けるのは気が引けて、タイヤンの母たちもありそうな場所は触っていなかった。が、それがダメだったのだ。


親族の財産を受け渡す、共同事業をする、遺産を投資するなどとんでもない書類だった。親族が多く亡くなり場合によってはルイブが受取人になる。ルイブが族長娘であれば、揉めても財産を少しでも受けとれる。はったりでも脅しの材料になるし、ナオス族の中心を揺らし搔き乱せる。

ただ助かったのは、印やサインは国や家系を揺るがすものだから、勝手に押してはならないと祖父や父から強く言い聞かされていたため、ルイブはサインは一切しなかった。必死に父の言葉を守ったのだが、その分あらぬ嫌がらせは受けていた。




彼らはルイブを狂言者と思っていたか、恐れを知らなかったのだ。


ルイブの預かった財産や家督を背負うということは、数千年のユラスの歴史に手を掛けるということだ。全てを背負う。


数千年の人々の叫びも。普通の人間なら潰れる重み。


地位のある男たちが、それでもルイブに最後まで手を出さなかったのは、彼らがまだ霊性に明るかったからだ。その重圧を読み取り、畏れも恐ろしさも知っていた。





ルイブは、自分をバカだというのに囲おうとする男も、兵士も警官も信じられなかった。誰に悪意があるのか分からず、誰も彼も敵だった。


父が愛したナオス族の軍人が、慣れたように女性にあんなことをしたのも天変地異だった。



クレバーを連れてきた後から少しおかしかったが、この事件はルイブの性格を決定的に変えてしまった。


始め、事件の犯人はなりすまし兵ではないかと言われたが、後の確認で軍内に2人の犯人が出てきた。重犯罪である。他2人は外部の人間であった。見張りもいたとなると、逃げなければ何をされていたのか恐ろしい。

そして分かったのは、ルイブが逃げたあと犯人たちが倉庫内を調べると、電気が全部ショートしていたということだ。


ルブイが発したのか、助けを求めた先に何かが反応したのか、サイコスであった。



この事件もルイブがあまり話してくれないので、聴き取りの専門家を呼び、軍内や移民の間でもたくさんの調査がされてやっと分かったことだった。「未遂だった。こっちもケガを負った」と信じられない言い訳をする犯人。


未遂では終わらない。立場を利用した犯罪。必ず禁固刑が付き、今後も様々な立場や権利をはく奪、拘束される。



子供だけでも先に保護圏に送りましょうと相談員が言うが、子供も被害にあうことがあると知ってから完全に心を閉ざしてしまった。霊性が発達した環境では、可視で霊が見える。その中で守れるものがあると説得してもあまりに怯えてしまいダメだった。



閉め込んだ4つの過去が一気にあふれかえる。


家族親族の虐殺。

突然消えてしまった夫。

その実行犯が呆気なく死んでしまったこと。

話すこともはばかれる倉庫での事件。



ルイブが落ち着くには時間が必要だった。



世界の何もかもが信じられない。


保護区域を襲撃した者たちは何がしたいのか。病院を襲撃して何が満足なのか。

こんな中途半端な地方に重要人物が隠れていたわけでもあるまい。自分が標的になるなら襲撃や空襲などいらない。引っ張って行けばいいだけだ。そうだとしてもルイブにはあり得ない事件だった。


何のためにそんなことをしたのか。

頭がおかしいのか。


なぜユラスもいつまでも銃を降ろせないのか。


こんな人たちを父は守ろうとしたのか。



何もかもが恨めしい。

何もかもが嘘つきだ。



この事件によって、ルイブ自身がここがら逃げる翼を失ってしまった。




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