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ZEROミッシングリンクⅣ【4】戸惑う僕と、私とあなた ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第三十一章 はためく翼

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68 10日間の夫婦



遠征から帰って来たチャラワンに、ルイブは大感激だった。


面会室で待っていたルイブは人妻になったと、持っていた貰い物の一番いい衣装でキレイに着飾る。

一人だけユラスの民族衣装で目の色以外は東洋人風。目立ちに目立っていた。


面会室に来て溜め息をつくのは夫になったチャラワン。


結婚した実感もない。正直妻のことはほとんど知らない。

が、妻は夫婦ごっこのように自分の顔を見るなり(きら)めいている。

「あなた!」


あなた??

引き気味のチャラワンである。


「素敵なドレスでしょ?」

軽くルバを被って顔は見せないが、くるっと回ってスカートをふわっとさせる。得意げだ。

「あなたがいない間、ずっとお父様にご報告をしてたの。私も自分で家族を作ったのよって!」

作ったというか、無理やりである。


しかも暇なので、気の高ぶったルイブは内職の時間以外、ほとんどの時間を小さな写真だけの祭壇で先祖に報告するように祈っていた。

しかも、本当に亡くなった族長家族の写真を飾って。軍から説明を受けなければ、確実に族長の狂信者だと思っていたことであろう。家族が勢揃いしている写真は珍しいが、探せば見付かる写真である。崇敬でなく、自分が家族と思い込んでいるなんて恐ろしすぎる。最初は軍の人間も分派で、内部混乱のために、おかしな女をあてがったと思ったくらいだ。


その場でスキップしそうなほど喜んでいて、実際スッキプするように動いていた。



しかも、チャラワン周囲の驚きようが凄すぎる。


職場の知らない人間たちにも「どういうことだ、何がどうなってそうなったんだ」と詰められたり、からかわれたりしたが、自分も何も知らない。バベッジ族で、比較的生活態度が真面目だったという事だけだ。

あの時自分が部屋に入らず、違うバベッジ族に先に会っていたら違う人が結婚していたであろう。


絵にならない自分に人前でこんなこっぱずかしいことをされて、チャラワンはダメージが凄かった。美女と…通行人1だ。野獣の方がまだ様になる。



ただ、よく見るとルイブが着ているのは少し初老の婦人が着る衣装だ。チャラワンは申し訳なくて早く服を買ってあげたいと思うのだった。




***




その日から休暇を貰い、ほとんども何もないルイブの家に帰る。



1人用のベッドの上。

落ちないように妻と二人、寄せ合って小さくなった。



初めて二人は口付けをし一つになる。


少しだけ深いキスにルイブは赤くなった。


先の軽い口付けから、少し温かいチャラワンがその口に入ってくると、思わず一度離れてしまう妻を不器用に抱きしめた。



「お互い何も知らないね。」

「…あなた…。」

「…。」

それっぽい演技でくっ付いてくるので、そのセリフはやめてほしいと言いにくい。


「これで赤ちゃんができたの?」

「…?」

「赤ちゃん!」


「…は?」

「キスをしたもの。」

「はい?」

「朝まで一緒に寝ないとだめ?」

「は???」


少し考えて言わんとしていることにやっと気が付く。

「ああああ!!!!」


あまり頭のいい女性とは思わなかったが、色目も使うし「女性経験は?」と聞くくらいなのでさすがにそれくらいは知っていると思っていた。義務教育でも習うはずなのに何を勉強してきたのか。学校に行っていないにしても、しばらく専属でいたという教養の家庭教師や親は教えなかったのか。


「………?」

自分は使命を果たした的な、気の強そうな、でもキョトンとした顔で見られるので逃げ場がない。


これは今度にして、いったんゾッテイ軍医に教育してもらおうかチャラワンは悩むが、あれだけ(はやし)し立てられた駐屯地にも帰りたくない。電話でお願いするか、忙しいだろうか。


「私のお父様もお母様もお兄様もお姉様も、みーんなユラス大学なの!おじい様たちもよ!きっと頭のいい子が生まれるわ!」

「…………」

国立だが地方の大学のチャラワンは言うことがない。



そもそも、なんて…、本当になんて単純な妻なんだ。夫や自分に似ている子が生まれるとは思わないのか。バベッジだからといって、みんなが秀才や天才なわけではない。むしろ普通だ。


「ナオスの権威は平和の統治のために、バベッジの知恵は善き事のために与えられたの。私たちの子がユラスを導くわ。」

立派そうなことを得意気に言うが、チャラワンはそんな妻を見ているしかない。

「僕は君に似ている子でいいよ。」

「……それは嫌。お父様たちに似てほしいの。生きることにすら困るでしょ。それにかわいくないわ。」

夫に似てほしい、とも言わない。とにかくナオス族族長一家しか頭にない。


でも思い込みが激しいのは知っていたし、ルイブが非常に純真で全てを透過したように天を見ている女性なので、何も言わないことにした。

「…でもどんな子が生まれるかは分からないよ。」

「…………。」

「どんな子でも愛そう…。」

ふくれっ面の妻にそっと語る。



「僕の父や母も愛してくれるよ。サーライのことも。」

チャラワンは一通りルイブの背景を聞いている。


「これからまだ時間はたくさんあるんだ。ゆっくり、たくさんの事を話していこう。」

ルイブは感極まったように目を輝かせ頷く。



「それにまだ子供は出来ていないよ。」

「…?」


「ゆっくり始めよう。」


もう一度キスをしながら、そっとサーライの胸元に手を持っていく。


「へ?」

今度はサーライが驚き、手で咄嗟にガードした。

チャラワンも初めてで恥ずかしいが、それ以上にこの反応に思わず笑ってしまう。しかも、いつも偉そうで勝気な妻が初めてアワアワしていた。


これ以上のことをしたら笑い事ではなく殴られたり助けを呼ばれそうなので、一旦落ち着いてデバイスで本を出して説明することにした。目を仰天にしている妻に「これ以上今日は無理だろう。少しずつでいい」と思ったが、子供のための荒行だ、進めようと言ってくる。



それから二人の、


長いような短いような、あっという間の様な、



永遠の様な夜が始まるのであった。




***




その後のことは本当にあっという間だった。


サーライがチャラワンのいた病院が襲撃を受けたニュースを見たとき、それと自分の夫が重なることはなかった。



でも、今。


サーライはユラスの喪服である麻色の服を着て夫の遺骨を持っている。



損傷が激しくて対面もできず、夫と夜を過ごして数週間で未亡人になってしまった。


一緒に過ごしたのはたったの10日間だけ。


「私と結婚したのが良くなかったのかな…。」

力なく言うルイブをゾッテイ軍医が慰める。

「今回は病院だけでなく、たくさん亡くなったからね…。まさか市内の共同保護区域を攻撃されるとは…。」

二人を冷やかした軍人たちも数人亡くなっている。


何が起こったのか理解できないルイブは涙も出なかった。





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