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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第三十一章 はためく翼

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67 見付けたバベッジの根



「おい、ルイブ。まだ気が変わらないのか?」


「うるさい。あっちに行け。」

タイヤンを冷たくあしらう。


1人になったサーライは家の管理ができず、結局町の中のもっと小さな古い家に移った。最初は難色を示した管理者たちも、地元の商店の人々が思ったよりよくサーライを見てくれるので、一旦許すことにする。新しい名前は、ルイブ・テンサーとなった。


ルイブは普段は頭からルバを巻き、半分顔を隠して黒い髪が見えないようにした。そうすれば容姿は目立たなかった。


そして、とんでもないことをし出す。



父の血を残すために結婚しないといけないと、男漁りを始めたのだ。


あっちにもこっちにも行ったが、なぜか軍駐屯地に落ち着く。


大学出がいいと駐屯地の前で人を待っているのだ。

ユラスは比較的どの層も大学に行く者が多かったが、不安定な社会でこの時期は進学率が減っていた。その中でもユラス軍は大卒率が高かったのでそこがいいと言い出したのだ。駐屯地の敷地には入れないし、だいたい車で出入りするので人と会うことができないが、この町には交番のように軍人が住民を見守る場所があり、そこなら直で話せる。


そして若そうな男が出てくると、未婚か何族か聞き残念そうに去って行く。一度大学院の周りをうろうろしていたが警備に警察を呼ばれ、管理局まで来て大変なことになったのでもうそこには行っていない。



「お前本当に呆れるな。」

先、気が変わらないかと聞いた男、タイヤンがため息をついている。

「なんで大卒なんだよ。」

「私の頭が悪いから、足して割ったくらいがちょうどいいの。」

「バカだろ。足したくらいでどうにかなるか。バベッジや大卒だから頭がいいとは限らないぞ。俺でいいじゃないか。」

「やだよ。タイヤンはバベッジ族じゃないもの。」

「………はあ…。バベッジ、バベッジって………俺もバベッジだ!」

「…そうなの?」

「じいじの、じいじの、じいじのくらい?」

「………。話にならない。」

ルイブは血の濃いバベッジ族じゃないと嫌だという。


本人の話によると、18歳の誕生日の父の祝福が『信仰心があり、勤勉なバベッジ族の貞操の男性と結婚するように』というものだったらしい。


「本当にバカバカしい。そんな奴いるかよ。俺ならお前の事全部よくしてあげられるのに。」

タイヤンはこの辺では顔もガタイも面倒見もよく、女性に人気の男だった。

「変態。あっち行け。私は父の立派な血を受け継ぐ責任を持っている。」

「は~。よく言うよ。」

そもそも、バベッジ族自体が数が少ない。一番早いのはバベッジの国に行くことだ。小さいがある程度固まって住んでいる。でもそこも現在危険地域であった。そして、駐屯地周りでうろうろするルバを被った女は身内を失っておかしくなった女だと言われ、始めは注意していた軍も哀れだと放っておくようになった。


タイヤンは、思い込みでも何でも、時々非常に気高く見えるルイブが好きだった。

もしかして落ちぶれた上流階級の娘というのは本当かもしれないと思った。ただ本人は、落ちぶれてなんかいない!とその話をすると怒りだす。


決定打は、ルイブがルバを取った姿を一度だけ見てしまった時。


そこには、輝く黒髪を持った『バイラ』、ユラスの古い言葉で『先祖返り』の美しい女がいたことだった。



タイヤンがそれを思い出しじっとルブイを見ていると、近所の白髪のばあさんが入ってくる。

「タイヤン、あんた仕事に行きな。社長が探してるよ。」

「ばばあ、うるせえな。」

「さあ、ルイブ。シチューを持って来たからこれを食べて仕事をしな。」


あまり家から出たがらないルイブの為に、管理局はルイブに野菜の仕分けの仕事を持って来た。菜っ葉をひたすら分けて(くく)るだけの仕事だ。同じ野菜でも、品質ごとに分ける仕事はルイブには出来なかったので、一目で枯れているしなびているを判断できる、菜っ葉の仕事になった。枯れ具合は判断できなかったが、少しでも枯れていればその部分を取って作業者が個人で安価で売ってもいいので分かりやすい。この仕事は集中してできた唯一のものだった。


タイヤンはこれだけの内職でどうやって生活しているのか不思議だったが、時々身なりのいい人間が出入りしているので、保護対象者として生活支援を貰っているのだろうと考えていた。ユラスは貧困層や障害者への保護も手厚い。



そして、ある日、タイヤンもばあさんも、口をあんぐりすることが起こる。


ルブイがもう結婚してしまったというのだ。




***




時間は少し戻る。


数か月も駐屯地の前で待っていたルバの女。


人の顔や特徴を覚えるのが得意だったルイブは、同じ人間には声を掛けないので普段はじっとしている。女は時々声を掛ける以外は無害なので、無視するようにと軍人たちは指示されていたが、ある日ふと興味を持った男がルイブのルバを取ったのだ。


そこで、ルイブが東洋顔の非常に美しい女性だと知られ、見回りから戻って来た4、5人の軍人たちに囲まれたのだ。

自分からは口悪く話しかけるのに、相手から話し掛けられたら急に怖がり出した美しい女性に男たちは興味深々となった。

「ヒュ~!」

「おおお!!!」

と誰かが口笛を吹く。

「夫を待っているの?それとも恋人がほしいの?俺がなろうか?」

お金で買ってほしいの?とは言わないが「いくら?」とからかうように聞く者もいる。ルイブにはその意味が分からないが、バカにされていることだけは分かる。

「うるさい!あっちに行け!!」

「おー!」

「ヤバい。もしかしてまだ学生?ルバなんて被ってるからご夫人かと思ったけれど…。」


そこで、ルイブの世界が回転し出す。ルイブは「うわあああああ!!!」と悲鳴を上げて、パニックになってしまった。




運ばれたのは、医務室。


しばらく休んでから目を覚ますと、女性ゾッテイ軍医が心配しないでと手を握ってくれた。隣には従軍のユラス教司祭出身の初老の牧者もいた。

「怖がらせて申し訳なかった。」

「…。」

「家族を待っていたのかね?」


時々死んでしまった息子を待って、軍施設の前で立ているおかしくなってしまった母親もいる。



「…結婚したいんです。」


「…?」

これには二人とも「?」となる。

「バベッジ族の男性がいたら結婚したいんです。」

「……」

顔を見合わす牧師とゾッテイ軍医。


「デバイスを見せてくれるかね。」

「デバイスは持っていません…。」

いつもどこかに置き忘れれしまうので持っていない。一般の軍用デバイスに指を置いて動かしてもらい、生体認証させてもなぜかエラーになった。登録がないのは不法移民や国籍のない者たちだ。もしくは……


「あ…その腕輪。それだよ。」

一見全く機械っけのないただの装飾の腕輪。牧師のデバイスを腕輪にかざすと、何か照会している。


そこで牧師は気が付く。


……もしくは…そう。一般の機種なら当たり障りのない住民番号で承認されるが、牧師のデバイスなら分けられる。


一旦承認はされるが、一部関係者だけが知る機密のしるしが出ている。ルイブの認証は特別な照合アプリだけに反応する認証がバックに掛かっており、牧師が特殊なサインをするとそのアプリが自動で立ち上がった。驚いて暗号と個人認証を入れてデータを開くとさらにもう1段階立ち上がる。この牧師の照合アプリは3段階入っており、3段階目は信頼のある者だけに付与されている完全機密アプリであった。ここの駐屯がこの機能を動かすのは初めてだった。


一瞬驚きで手が震えるが、老牧師は静かに少しだけ祈り、その情報を自分の胸の内に隠した。


目頭が熱くなる表情の牧師を、何も言わず静かに見つめるゾッテイ軍医。きっと聞いてはならないことなのだろう。



彼女は『サーライ・ナオス』。両親はナオス族族長夫妻であった。




ここに駐屯する軍中枢も、この町にサーライがいるということはおそらく知っている。


少し固まったままの牧師を不安気に見るルイブ。


安心させてから、牧師は誰かと通話をしている。それから、なぜ軍で結婚相手を探しているのかベッドでお茶をしながら話すことになった。




「へえ、御父上の遺言で…。」


これは旧貴族階級かとゾッテイ軍医は思い、誇らしげに夢みたいなことを言っている女性を眺めた。バベッジで、大卒で、真面目で、信仰者で…

「なら、教会で相談した方が…」

と言い切る前にトントン、とノックをしてドアを開けた男がいた。


「ゾッテイ中佐。報告書なんですけど…」

「……」

三人が突如入ってこようとした軍医に注目する。

「…あ、お取込み中ですか?失礼しました。」


「待って、チャラワン先生!」

「あ、後でいいです。」

「先生に用事があるの。先生何族?」

「父がバベッジで…母は東欧系ウェストリューシア人ですが。」


「はい、きた!」

決まり!という顔のゾッテイ軍医に呆れ顔の牧師と…、もっと仕事の速いルイブ。


「チャラワン先生!結婚しましょう!」

「はい?」


自己紹介もなく、まだ軍医はルイブの顔も見ていないのにプロポーズだ。


「え?あの、その、ゾッテイ中尉に報告書なんですけど。」

飲み込めていないチャラワン。

「チャラワン先生恋人いる?未婚でしょ?」

「いませんが…。」

「ならどう?」

「はい?」


ルイブのテンションが高くなる。

「先生は毎週礼拝に行かれますか?10分の1献金はされていますか?ユラス教ですか?正道教ですか?」

「は?していますが?今は正道教です。」

「女性経験は?」

「は?何ですか?結婚まで待ちますよ。ってか、何ですか?!!」

「大卒ですか?」

「…大学卒業しないと医者にはなれません…。」


「は~。見付けた!結婚しましょう!!」

「ゾッテイ中尉。何なんですかこの方??ここの駐屯はおかしいんですか?」

完全に引いている。

「あなたはおいくつで?」

「19です!」

「はい?19???無理です!私は34です!飽きられてすぐ浮気されます…。恋人も無理です。」


「あ、ルイブさん。チャラワン先生はこの前赴任してきたばかりで、半年滞在するの。次は海外だっけ?」

「まあ!では海外に行けるのね!願ったりです!!」

本人完全に無視である。


チャラワンは軍にいるので一般人の中では体格もいい方なのかもしれないが、背もルイブより少し高いくらい。顔も特徴なし。全くもって普通で、相手が質問すれば答えるが、そうでなければオドオドして恋人もいなさそうな男であった。


「…ルイブさん、もう少し煮詰めよう…。」

牧師の方が言ってしまう。こんな女性を支えるのは、もう少し何かしらの権威のある男性の方がいい。これだけ美人なら、顔だけで気に入ってくれる者もいるであろう。お金か顔か権力か男気か。牧師としては不適切な思いかもしれないが、もっと似合いそうな相手がいくらでもいそうである。性格も普通人には手に負えそうにない。


「煮詰めるって何?お肉?」

「あ、お話をもっとよくするってことだよ。そこはしっかりしないと。」

「はい!ではチャラワン先生とお話しします!よろしくお願いします!!入籍はいつにしましょう?」

「いや、そうでなくてね…。」


半分本気、半分冗談だったゾッテイ軍医は、ルイブが非常に単純で、真面目にもう決めてしまったことに今気が付く。




そして、信じられないことに、超積極的なルイブによってあれよあれよと上層部にも許可を貰い、3日後に駐屯地内の教会で式を挙げてしまった。


そして、初夜を過ごすこともなくチャラワンは遠征で1か月半いなくなるが、ウキウキのルイブであった。




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