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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第三十章 曼荼羅は描く

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60 断食

少しだけ『ZEROミッシングリンクⅠ』のギュグニーの設定を変更しています。



アンタレスどころか、世界が一望できそうなこの場所。


「今は反応がないな…。」

アンタレスの高いタワーの展望台で集中しても、テニアの光が見えてこない。


ベガスにテニアの居所を掴めないかと聞かれたファクトは、どうにかテニアを見付けたいが反応はなかった。



「光の反応が見える時ってなんだろうな。」

横でカーフも一緒に考えてくれるが、よく分からない。

「…チコの場合は、チコが力を使う時と感情が揺れている時なんじゃないかな……と思う。チコの力ではどうにもならないような揺れというか…。」

「…チコ様の感情の揺れが分かるの?」

「…。」

そこに少年のような顔で反応するカーフ。


「…っ。」

危ない危ない。

この人はチコに惚れていたので、余計なことは言ってはならぬとやっと分かって来たファクト。このままではカーフも結婚できない組になってしまう。チコ本人は実質的アプローチをしていなくても、ある意味往復ビンタのソライカの言う事は正しいのだ。魔性の婚活オバちゃんである。


カーフは真面目な男なので分かったら分かったで、結局議長夫人には何もできないため、それはそれで苦しむであろう。早くさっぱり脳内清掃をして結婚したらよいのだ。この前のサミットの後で、カーフとレサト、マイラはやはりその話をされたらしい。3人とも家長や後継ぎを亡くして、自分がその位置にいる大きな家門のため、集中攻撃であった。どの家系でも2、3人戦死者を出しているので若くても急がれている。


そして、ファクトは知らないが、チコをヒーローの様なあこがれの対象に見ていたカーフよりかわいそうなのが、半同僚として一時期軍生活もしていたマイラだ。歳も3歳違い。ストッパーは優秀な上官、兄貴分に当たる人間がチコの周りにたくさんいたことである。奴はかなうまい。


もう1つめんどくさいことは、これがただの就職先とかなら職場を変えればいいだけだが、家系とか国とか立ち位置とか、諦めても死ぬまで仕えなければならない存在であるという事だ。

かわいそうに。



孤高の指導者から、大房のオバちゃんになったのにチコの何がそんなにいいのか。

大房のオバちゃんなんて、人のウワサをして、一見正道のようで悪役にも理不尽な勧善懲悪ドラマを見て悪を罵り、10円1円でも安いお店を探して数件お店をハシゴして野菜を買うような人たちである。話しかけやすくなってそれはそれでよかったのか。

難儀である。



「相手がガードしているのかもな…。」

カーフが仕方なしに呟いた。

「ガード?」

「こっちの手を知っていると意識ができるから、結界を張ったり存在を隠すことができる人もいる。」

「ふーん。こんな曖昧な能力を操れるってすごいね。俺は行き当たりばったりだから。」

そう思うと、響はすごい能力の持ち主だったと言える。霊性より使いにくい深層心理層をサイコスで自由に浮遊できたのだ。


「曖昧な形、曖昧な能力だから、自分でやりたよう加工できるように形にするんだ。」

「なるほど……。」

響の言っていた『(ビルド)』もその1つであろう。




西の彼方まで見えそうな風景を見ながら窓際で話を続けるカーフ。

遥か遠くに線のように見えそうな、あの山脈の向こう側にユラスがある。その手前にはギュグニーも。


「聖典で言う天地創造もそのことだよ。誰もが認識し、たとえいつか形のない永遠のものになるとしても、一旦理想型を固形にするんだ。そのために、神は宇宙や人を揺らがない形としてこの現実世界を創造したんだよ。固定的なものとして。」

「…………」

「例えばさ、ターボ君はかわいいだろ?ずっとそのままでいてほしい。」

アーツ初の男児、タウの息子ターボ君を思い出すファクト。分かる、あれはクセになる。不愛想なのに凶暴でおもしろい。無表情でママすらパンチする。


「ずっと見ていたいけれど、概念の世界だけではそれはただ流れるものにしかならないし、見る側も個々で揺らぎがあるから形状を保てない。それを保つためも固形の世界があるんだ。だから、固形世界は神も関与できない神の法則世界なんだよ。神がそう造った……。


一度形を作ったら、その法則に従う形でしか簡単には形状が崩れない。


無形の世界だと変わる時は一瞬なんだけどね。固形世界は他から物理的力を加えられるとか、劣化…風化とか腐食とか、一定の時間の経過が必要なんだ。その代わり誰の角度から見ても同一の揺るぎない認識になり、揺るぎない形状を持った個体になる。それから経年を持ってまた無形の世界に帰りはするけれど、どの世界でも認識が固まっているから固定を保てる。人の眼鏡ごとに、見える世界がある程度違ったとしても個体としては一定なんだ。」


「一気に言われると何のことだか頭が回らないけれど、言わんとすることは分かる。なんとなく。

固形、個体大事!」

グッドサインを送っておく。

「流動するものをそのまま使う力もあるけれど、認識という面でも捉えるという面でも形状を作ることは理にかなっている。」


「………。

なら見える光の色は、相手が発している色というよりは…俺が相手を認識するために、一定形状の個体を色分けして見ている可能性があるという事?」

「そうなるかも。予測だけれどね。チコ様が持っている、もしく発せられる心の性質、能力なり血統を、無意識で何かの感覚や法則に従って色にしているのかもな。」


「チコも…おじさんも、鮮やかできれいなピンクと紫だ…。」



それを思い出して、不思議な気持ちになる。

シェダルにはターコイズの光が見えていた。そういえば忘れていたが、アジア人はカストルだけだと思っていたけれど、いつもアーツに来る神学教授にも光が見えているので、高い霊性のある人のあふれ出す霊性が見えるのかもしれない。だったら、高位霊性持ちの牧師である父や母に見える可能性がある。


「ジェイはサルガスに青い光が見えてたんだって。体を覆うような光。で、前村工機の現場で『ロン』側が赤く見えるから、そっちが赤龍(せきりゅう)でサルガスは双龍の青龍側かと思ったら、サダル議長や俺にも見えてたってさ。」

「…それ報告した?」

唖然とするカーフ。

「さあ、ジェイがしていれば。議長も現場で聞いてたっけ?」

「………。」


暫く無言の2人。



ファクトは星座を見た狗賓(ぐひん)の山中のサンスウスを思い出した。

「ムギの居場所が分かればな…。」

「ムギ?」

カーフには、言っていいものかどうなのか。ムギはおそらくニッカの兄アリオトやテニアと共にいる。

「ムギとは連絡が取れるけど…。」

「は?なんで?」

カーフもカーフで言ってもいいか迷う。北メンカルを繋ぐアリオトの仕事をカーフも手伝っていた。


「…言ってもいいのかな…。」


ファクトは話しを急かす。

「何を?」

「……。」


しばし沈黙が流れた。


「この前ユラスから来たおじさんは…知ってたっけ?」

「テニアさん?チコ様の御父上?」

カーフは聞いているらしいのでほっとして続けた。

「テニアのおじさん、多分ムギといる。」

「…は??」

カーフはそこまでは知らない。

「護衛として。」

「………」

いちいち毎回の護衛の報告までは聞いていない。

「へ…?…」


一瞬飲み込めないが、やっと繋がった。

「はあ??!!!!どうして??!」

あまりの驚きに、言ってよかったのかダメだったのか分からなくなるが、まあカーフならきっと許してもらえるし、悪い事にはならないだろう。



テニアの位置情報を確認したようなものである。




***




時は少し戻る。


北メンカルの最南。


ムギたちのいるガーナイト陣地は、連合国側に付きたい者よりも、北メンカルに懐柔されそうな者が多く声も強く強かった。ガーナイトの大人たちは、その一団の遣いの話に聞き入っていた。


「南メンカルの会社がベージンと共同でアンドロイド開発を成功させています。」


この一言が大きく心揺さぶる。

その会社はおそらく北メンカル寄りの企業で、アンドロイド業界第5位だ。そのひとつで南も結局ギュグニーの手のうちだと思ってしまう。つまり、ベージン社のある西アジアもギュグニー寄りだと。これから経済も技術も、北とギュグニーを中心に動いていく。


そんな北の使者たちに囲まれた形になった、ムギことリン一行は完全に四面楚歌であった。


アリオトは、先日の集会では暴行を受けそうな段階まで来ていた。ある程度人と話せる知識はあっても、さすがに南メンカルの大企業からも人を派遣されていると、業界内のことまで太刀打ちできない。

廉価な高性能機種を作り、このままデバイス業界も圧巻していくとのことだ。


「では、ここでガーナイトが我々と提携することで得られるものをまとめます。この地に工場を作れば、発展も生活も保障されます。インフラを整えしっかりした生活ができれば資金調達も容易になります。防衛は既存の北メンカルや同盟国に任せれば、軍を構成する必要もなくなるでしょう。今、雑兵になっている若者たちを解放し、学校や職場に通えるようにします。」


「…。」

よく分からない人々にも砕いて説明しているが、呆れるしかない。自分たちの国や陣地も荒廃しているのにどうするというのか。


彼らガーナイトが弱いのは、相手に対抗できる何の信念も宗教性も自由意識もない事であった。北メンカルは主に仏教の土台はあるが、宗教性を抜かれた実質社会主義国家を前時代より築いて来た。人としての信念より生活が上回る。

もちろん情報統制は緩いので、それが危険なことと分かってはいる人も多いのだが、多勢を相手に準備なく反対はできない。




そして、ある日、遂にアリオトたちにとって恐ろしいことが起こる。



これまで北メンカル側が説明してきたことに関する条約が、60年越しの分裂を越えて結ばれようとしていた。


北メンカルが前時代から人本社会主義傾向になり、唯一残ったその前の世界の伝統の名残も消し去ろうとしている。

軍の主導を北メンカル側に一任し、ガーナイトの主権を北メンカルに返すのだ。


離反勢力であったガーナイトが北メンカルに付けば、南メンカルの防波堤がなくなる。



それが最後の防波堤とは分かるのだが、どっちつかずの彼らはこの暑い国で、長い闘争の歴史の中で、疲れ始めていた。


自意識が強く南にも付属できず、発展もできず、若者たちは亡命していく。彼らに信念があっても、それは一世代、一個人のものであり、一勢力のもので、一過性のものであり社会も自治をも長くは保てない。でも、もう流れる場所に(すがり)り付きたくなっていた。弱みを見せるにしても南や他のセイガ大陸よりは、まだ実の兄弟勢力である北メンカルに再吸収される方がいいとも思ったのだ。




そして、その反動か、遂にムギことリンが奇行を始めた。


この状況をどうにかしてほしいと迫った、反ギュグニーの面々に責められたせいもあったのか。それ以外からも、アジアラインの巫女のくせに、西アジアやユラス、遠い東アジア勢など他勢力に国を譲るのかとも詰められたせいなのか。



そのまま断食を始めたのだ。



巫女としてきたムギは、巫女としてけじめをつけると言い出し、水分以外の一切を断った。






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