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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第二十六章 探していた胸の内
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5 30歳童貞は魔法使いになれなかったけれど



ファクトの帽子を被り、街に繰り出したおじさんことテニアは、着替える分だけの服を買った。


「なあ、あの子は何を喜ぶと思う?」

「チコ?」

「なんか買ってあげたいだろ。」

「お金あるんですか?」

「稼いで使ってない分はある。」

「…チコはあんま物欲がないからな…。前は服を買ってあげたけど…。アクセも化粧もほとんどしないし…。日焼け止めくらいは塗ってると思うけど。」

「…残る物がいいけど、ならとりあえず洗顔や石鹼なら使うだろ。オイルや洗顔やいいものを買ってあげよう。」

「……ベガスにいいの売ってるかな?」


そう言って、この前進出してきたボディーケア用品店に連れていく。

「チコ、オレンジの香りが好きだよ。」

「…ファクトはなんでそんなに詳しいんだ?考えてみたら、なんで議長夫人に服まで贈ってんだ?」

「俺、義弟だもん。ウチの両親が養父母。」

「………?!

はーっ?!そうなのか!!早く言え!」

がっつかれる。

「ならお前も俺の義息子だろ!この野郎!」

「ほんとだ!」



そして遂にクレープを奢る。

「おじさん甘いの食べられる?」

「何でも食うぞ。たくさん買って、あの堅苦しいユラスの皆様にもお土産に持っていこう。」


「………」

そこで、自分を遠巻きに見ている視線に気が付く。


「ファクト、なんでお前おっさんとデートしてんだ?」

「…。」

サルガスとヴァーゴである。久々の金魚と糞の組み合わせだ。


そう、南海広場近くまで戻って来たので、誰かには会うだろう。

「誰?ファクトの兄貴か?」

ポカンと見ているおじさん。やはりサルガスとは似ているのか勘違いされる。

「…違います。サルガスたちはチコの弟子です。」

「おお!同志よ!!」

馴れ馴れしいおじさんである。

「何か知らんがお前の顔は好きだぞ!」

「…え?そうですか?」

いきなり好きになられてサルガスは一歩引く。





「へー。じゃあ、ジェラスタから?」

「そう。ユラス観光に来て…、ファクトにスカウトされてベガス観光に!」


男4人でバカのようにクレープを食べている。

「つーか、旅先でおっさん連れて来んなよ!」

「いいよいいよ。楽しかったから!まさかファクトの兄にも会えるとはな!」


「…おじさんもユラス兵ですか?」

いきなり核心を突くサルガス。というか、ユラスから来て知り合いになる人間の半分以上が兵士か元軍人なので仕方ない。

「…そう見えるか?」

「なんとなく。ただ、ユラスにしては飄々としているなとは思います。身軽というか。」

テニアはサルガスの肩を叩く。

「三兄弟!お前ら仲良くしろよ!!」

「はあ。」


「ヴァーゴは土曜も仕事じゃないの?」

「……んー…」

本人、何か照れている。

「ヴァーゴはこの後デートだな。」

「…え?!そうなの?!」


「お前言うな!」

ヴァーゴがサルガスの頭を叩く。

「30越えて恥ずかしがることじゃないだろ?もう結婚確定だし。」

「ええ?!!ホントなの?!!!」

「チコに結婚しろと紹介されたんだよな。向こうは最初ビビってたけどチコが無理やり食事を予約して、半日一緒にいたら仲良くなったというか。」


「『30歳で童貞なのに魔法使いにもなれなかったヴァーゴ』が無敵な総長の紹介で遂に婚約者をゲット??!!」

「でかい声で言うな!つってんだろ?なんだ、そのラムダが読んでそうな小説のタイトルっぽい言い方は!!」

今日の珍事は、チコ父が現れてちょっとドン引きな性格だったことか、ヴァーゴの独り身さようならか。ついでに無敵というのは、大房のオバちゃんは無敵だからである。


「ヴァーゴはいい奴だもんな。おめでとう……ちょっと泣ける…。」

なぜ普通に生活しているのかというほど見た目が怖いし、RⅡびいきの上に性格がこうなので女子にはモテなかったが、いい奴なので男子人気は高いヴァーゴ。小学生の時からリゲルもファクトもヴァーゴが大好きだった。30歳まで派手なこともしなかったけれど、人のことも悪く言わず誰のことも受け入れて、いつもみんなを陰で支えてくれたヴァーゴだから、きっと天も微笑んでくれたのだろう。


「何か知らんがうちの子は結婚の仲介までしているのか?」

「…うちの子?」

二人が同時に疑問を向け、驚くファクト。なぜ身バレすることを言うのだ。

「……俺のユラスの親父(おやじ)なので、チコも子供!」

「……。」

ちょっと無理やりか。でもこれで通す。



「二人とも結婚か……。感慨深い。」

兄さんが二人とも結婚してしまう。

「いや、俺はまだ向こうの親に挨拶をしていないから。」

サルガスは言うが、これまで男の影も何もなかった娘さんが30越えて心を決めたなら、まず大丈夫だろう。ロディア父も知る人間で身元も安心できる。


二人と別れる際、サルガスに大量にクレープを持たせる。ユラスに遊びに来たおっさんから、という事で事務局に来た人たちに適当にあげてくれという事だ。





そして、ファクトはテニアと南海広場競技場のあの投光器にバイクで上り、自動運転で下に停車させた。



上の方は風が少し吹いている。


「あっちがさらに新都市の東海。向こうが上越。だだっ広いのがミラ。藤湾って学校連がある。」

「向こうは?」

「河漢ってアンタレスの唯一の巨大スラム。」

「ふーん。じゃあそこからも移動してきてんだな。そっちは?」

「向こうは普通のアンタレスの都心部。俺の両親も今はその倉鍵ってとこにいる。」

「……」


「それで、ここでね。ここにいて何度かチコを見付けたんだ。ここに隠れていたチコも。ここから向こうにいたチコにも。」

「…。」



まだ形がなかったベガス。

そこで最初にした鬼ごっこ。チコはここに隠れていた。



そして、未開発のビル群を眺めると、あの日のチコを思い出し胸が痛む。


肢体がネジ折れ、あの場に溢れていた血。激しい痙攣。

どうしてもっと早く見付けてあげられなかったのだろう。なぜチコは、反撃をしなかったのだろう。


チコがどんな生き方をしてきたか知らない、父親であるこの人を眺めると…本当に申し訳なく思う。

サイコメトリーの能力があって、テニアが襲撃のあった過去を知ってしまったらどうすればいいのか。謝ることしかできない。



そして、テニアとチコの光は同じだっけれど、シェダルは違った。


それが血統を表すのか能力や体質の違いを表すのかは分からないけれど、ここから見えたターコイズの光を思い出しながら、テニアはチコ弟の存在を知っているのだろうかと考える。ファクトは知らされてはいないが、弟の存在を話さないのとこれまでの話の節々から、もしかして父が違うのでは?となんとなく悟った。


テニアは、懐かしがるようにアンタレス全貌を見渡し風を受ける。


二人は暫く風景を眺めていた。



その日の午後は東アジア軍も含めてチコたちは昨日の処理や対策に追われ、結局の親子の会食は流れてしまった。




***




「会いたくない?」


「ごめんね。会いたくないんじゃなくて、風邪がひどくてうつしたくなくて誰にも会えないみたいなの。」

「…じゃあ病院に行かないと……」


日曜日。


やっと南海に戻ってきたファイは、お詫びも兼ねて響の家の前に来ていた。あの時は気持ちを押さえられなくて、いろいろひどいことを言ってしまった自覚がある。一人で行く勇気がなくて、タラゼドにもついて来てもらった。


着信に出ない響の代わりに玄関に出てくれたロディアが、困った顔をした。

「どうしても出てくれなくて…。」

「研究室は?」

「研究室はもう閉めたんだよ。」

「そうなの?!」

「まだ、学生の子たちの出入りは自由みたいだけど。」

「なんで?」

「半分の子が時長(ときなが)に移るから。もう送別会もしたって。」

リーブラのお祝いも兼ねてみんなで飲み会もしている。

「……あのね、ファイを誘わなかったのは変な意味はなくて、学生の子たちはアーツのメンバーも呼びたかったみたいなんだけど…ファクト君やキファさんやタラゼドさんたちもお世話になってるでしょ。でも、そうするとみんな呼ばないと不自然だし、アーツ出禁なのにまた騒がしくて叱られるからってやめたみたい…。研究室所属のメンバーだけでしたみたいで……」

「………」


少し放心しているファイ。



自分が、自分と揉めた人の親族と知りながらコンビニ男たちを受けいれたと文句を言ったからだろうか?そして、ナンパされた男たちと仲良くするの?と…。


「風邪で出てこないって、何かあったら…。様子見た方がいいんじゃないか?」

タラゼドが心配する。

「大丈夫です。一度確認しました。体力も落ちているようで、栄養剤を買っておいたし、デネブ牧師にも報告をしたので今日来るそうです。」


実は朝、ロディアは無理やり家に入れてもらったのだ。そして風邪ではないと悟った。何か放心していて、ご飯もほとんど食べていないようだった。何を聞いても、大丈夫としか答えない。



そこにデネブがタクシーから降りてくる。


「ロディアさん!響は?」

「デネブ牧師!」

「あれ?ファイたちもいるのね。おはよう。」

「おはようございます。」

「ファイ。大丈夫?」

動揺を悟ったのか優しく聴いてくる。

「…あ、大丈夫です……。響さんのところに行ってあげてください。」


何とも言えない顔で二人を見送るファイの肩をタラゼドは撫でてやった。




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