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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第三十章 曼荼羅は描く

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56 襲撃者と観光をする



それでもさすがに退屈になってきた頃、シェダルに初訪問の客が訪れた。


「こんにちは。初めまして…でなくお久しぶり?」

キレイにかわいらしく笑ったのはシャプレー、ポラリスと入って来たシリウスだった。



「………。」

「シリウスからは後報告だったが、以前街で会ったそうだな。手はどうだ?自由に動くか?」

シャプレーの言葉に頷き、ここでもシリウスに嫌悪感を示すシェダル。

「ロボットのボスか?お前、気持ち悪いからな。」


「ん?」

ポラリスが、ファクトもシリウスを気持ち悪いと言っていたことを思い出す。ファクトは今もそう感じるけれど、その気持ち悪さにはだいぶ慣れたらしい。


「我々以外の話し相手が来なくて退屈だし寂しいだろ。」

シャプレーが何気なく言うと、シェダルは怪訝な顔をする。

「寂しい?」

寂しいという言葉は知っているが、退屈とは違うのか。


「怖がらないで。私はあなたに会いたかったの。」

「…………。」

「チコの弟でしょ?私のシステムにはあの子がいるから…。それに…。」

少し困ったように笑って、シリウスは触ろうとしたシェダルの顔から手を離した。


シェダルは心理層で出会ったシリウスを思い出す。なぜ人形のクセに、心理層にも来ることができるんだ。モーゼスはシェダルの何かを組み込んでいるらしいが、心理層には来れない。来ても、人の心の反映として投影されるだけだ。

でも、シリウスはおそらく自由体で、霊の話もしていた。



「…お前は人間なのか?」


「?!」

「っ!」


その場にいた研究員たちが固まる。


「…………。」


しかしシリウスは、世界で最も高性能で美しい瞳の奥に、無機質なメカニックを映し出しながら、温かい笑顔で答える。

「チコのニューロス物質を持っているからね。」

シェダルは思う。だとしたら、他のニューロスはなぜシリウスのようではないのか。シリウスになれないのか。彼らもチップを組み換え、アップデートをしているならシリウスチップのはずだ。



それにチコ?チコとは違う。違和感がある。


「今日は、シェダルにプレゼントがあるの!」

「ぷれぜんと?」

言葉は知っているが、自分のこととなるとそれが何なのか未だよく分からない。響がそう言ってよく何かを持って来ていたので、くれる物のことだろう。



シリウスはにっこりする。


「外に行きましょう!」

「は?」


「これまでの素行もよかったし、東アジアから外出許可が出たの。その代わり、アンタレス内で私と護衛が付くし、全てが然るべき機関への報告対象になるけれどいいかな?どこに行きたい?」

「外出?」


真っ先に浮かんだのはファクトや麒麟が住んでいるベガスだった。

「………ベガス…。」

シリウスは申し訳なさそうな顔をする。

「ごめんなさい。ベガスは特別自治区域で今はベガスと河漢は入れないの……。」

その地区で襲撃もしているのだ。入れるわけがない。


「……寺が見たい。」

「寺?」

「和様の寺に行きたい。」


意外に思ったが、持ち込んだ本や会話内容の報告を受けていたので、研究陣たちは頷いた。和様とは、素材をそのまま生かした東邦建築の様な寺で、元々は内陸から流入したものだ。


「午後になったら行こう。ファクトが学校を切り上げて来てくれる。」

ポラリスは笑った。




***




「え?本当に外出していいの?」

話は聞いていたのに、第3ラボに来て驚くファクト。


「シリウスとバナベックたちが付く。」

バナベックは男性型ニューロスアンドロイドだ。一般人型の護衛である。


「寺かー。師匠の寺でもいいけど、アンタレス内…。」

そこに一般人なオシャレをしたシリウスが来た。

「ファクト!」

「あ、こんちは。」


少しアウトサイズなジーンズに、上もブカッとしたカーキのジャケット。目は茶色で髪も茶髪のパーマになっていた。平凡な大学生に見える。

「レンズ入れてるんじゃないくて、目の色変えられるの?」

「ええ。」

「スゲー!かっこいー!!髪も?」

「髪はかつらです。」

「おしいっ!そこもバーって変わったら、超かっこいいのに!!そういうの開発してよ!」


「……。」

息子の単純さにポラリスも呆れてしまうが、パフォーマンスにはいいだろう。出来なくはない技術で、そういう機体もある。



シェダルは髪を染めて普通の黒髪になっていた。特徴のある光彩のない底のないような目には茶色のレンズを入れられ、こちらも普通に街を歩いてそうな大学生に見える。高校生でもイケるだろう。




***




スタッフの運転で寺院の多い日暈(にちうん)の一角に行き、観光客も訪れるが大きすぎない壮常寺で降りた。


東洋の木そのままの色のお寺である。

バナベックたちを合わせても、おそらく大学生の集団に見える。全く別の監視もいるらしいが、ファクトには全く分からなかった。同行するコーディネーターの女性は40代手前で中学生の子供が2人いるらしいが、こちらも見た目はお姉さんだ。



大都会の中、それでも平日昼間のせいか人はまばらだ。



入口の門と軒裏を見上げるシェダル。


門を潜る時に、ファクトがシェダルに教える。

「東洋はどこの地域でも敷居や畳のヘリを踏まないようにしてね。西も南アジアもだけど。これ。」

足元を指す。

踏まないどころか、シェダルは膝の関節稼動以外アナログな義足で不器用にしか動けず、どうにかしゃがみこんでその木を手で触っていた。不安定だが、この足で初めて外出してそこまでできる人間はなかなかいない。


「本当に木の家なんだな。」

不思議そうな顔をしている。






門を潜ると、本葺(ほんぶ)き瓦の屋根が広がった。


青空に続くように、下に流れるように屋根が続いていく。



「でね、あ、この寺にはあるね。そこで手を清めるの。」

門を潜った左横を指す。

「きよめる?」

「そう、そこの柄杓で手を洗って。口もすすいでいいけど、取り敢えず手だけでいいや。」

「柄杓…。昔の人間は柄杓が好きなんだな。」


シリウスが笑いながら教える。

「この手水舎(てみずや)、花が浮かべてある!キレイ。ここでね、世の中の不浄を清めてからお寺に入るの。」


「なんで『不浄』なんだ?」

『不浄』は習字でしたから知ってる。

「本当は世の中と言うより、人間が不浄を作ってるんだよ。堕落したからね。本来なら、最も尊い人間には不浄という概念もなかったんだよ。」

ファクトがそれとなく答えると、いぶかし気にシェダルは見る。

「…そんな水で不浄が清められるとは思えない。お前ら全員汚いだろ。」

ある意味正解である。



しかしシリウスは、優しく話しを続ける。

「そこには、あなた自身の努力でなくて、過去数百年数千年と悟りや浄土の為に世俗を断ち切り、命を捧げて来た人々の積み重ねが霊道として開かれ、霊性が宿っているの。それを信じ、感謝し、象徴として短縮した世界をなぞることで、その分だけその恩賜を受け取っているんだよ。」


「ふーん。この手を清める動作が、短縮したルートなわけね。」

「旧教も新教も正道教も同じだよ。彼らが柔和や真実の愛を世に語り辿れるのは、先人たちがその道を歩み積んだ実際の努力が、未来に続く霊道となって証明されているから。そこに同参する模擬行為をすることで、恩徳を引き継ぐの。」

「なるほど。」

取り敢えずファクトは答えておく。

実際に愛のために生き、他者の為に命を懸けた人々がいなければ、その意志や心だけでも引き継がなければ、正道教らの儀式には何の意味もないのだ。


でも、過去に修道をし、身を清めてきた人々が本当にいたのだ。未来の人間はその心を知り、行いに変えることでその世界を受け取る。


「………。」

シェダルは答えることはなく、ただ周りを眺めていた。




それから困ったことに、なかなか前に進まない。


門から真っ直ぐ続く石畳みを進んで本堂に行きたいのに、シェダルはその道横のただ敷き詰めていある砂利に関心を持ってしまった。座り込んで砂利を触っている。ファクトはどうしようかと困っていたけれど、一緒にしゃがみこんで砂利を見てみた。

「どうしたの?石好き?」

「いっぱいあるな…と思って。」

「………そうだね、いっぱいあるね。けっこうお金が掛かるよ、これだけで。まあ安い砂利かもしれないけど。」

突然現実的になるファクト。


シェダルがしゃがみこむと、バランスが取れなくて時々倒れそうになるので支える。体を支えるウェアラブルは腰まで入っているようだった。歩いたり椅子に座るには不自由がなさそうだが、しゃがむことまでは想定していない義足だ。


もう一度手を洗わせて本堂に向かうと、やはり本堂の下でずっと軒裏を眺めている。


「あの、繁垂木(しげだるき)…、惚れるよね。ここは二軒繁垂木だ。」

オタクファクトも横でつぶやく。軒裏にダーッと組んである組木だ。

「一日中見ていられる。」

そんなファクトを見てプッと吹き出すニコニコのシリウス。

「私はそんなファクトを一日中見ていられるわ!」

「……。」

ファクトは嫌そうな顔をし、本当にやめてほしいと毒付いた。


それから案の定、そのまま入って行こうとするので、シェダルに靴を脱ぐように言った。シェダルは横に寄ってペタペタ木の手摺や柱を触りながら入って行く。




本堂に入ると、色褪せて並ぶ、脱活乾漆像(だっかんしつぞう)の像を眺めてジーと立っていた。灯篭なども見ている。

シェダルにとってそこは少し不思議で、少し薄暗い、でも自分が過去にいた薄暗さとは違う場所だった。


介助がいるので座るのをめんどくさがったが、少しだけ祈りと瞑想を教えて外に出る。



そしてまたずっと縁台で繁垂木を見ていた。




***




「よし!次はど派手な寺に行こう!!」


近くの甘未屋の外であれこれ食べながら、ファクトは調子付いて来る。

「大房の寺は、南方アジアほどではないけれど派手なのがある!!シリウス、大房もいい?」

「ええ!私も行きたいわ!」

シリウスも大房は行ってみたかった場所だ。


まだ、もごもごと餅を食べているシェダルを引っ張って車に乗ると、今度は大房に向かった。



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