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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第二十九章 麒麟は駆け抜ける

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53 繋がり



まだ貴賓たちが、視察したり観光を楽しむため、アンタレスにいくらか残っている。他に単独会談や交流があり、サダルもアンタレスだ。


それが終わったら、一度ユラスに帰る予定だ。



話しに聞くと、やはりあのユラス議長夫妻は目立っていたらしい。

そもそも文化的背景を知らないと、なぜユラスなのに東洋人と異国風情の夫婦なのかと気になる人も多い。


長く美しい漆黒の髪と、目もくらむようなブロンドヘアの夫婦。

チコも長身に数センチのヒールで背丈も目立つ。二人とも軍事訓練を受けていて姿勢もいい。


とにかく目立ったのだ。



リューシア大陸でのサミットはサダル一人で不仲説が他国にまで流れ始めていたのに、いつもルバを被ったしおらしい女性としてチコは不思議な印象を残したらしかった。

自ら前線にも出て指揮能力があり、でも本質はあまり公の場に出ないしおらしい女性。それぞれユラスとベガスに忠誠を尽くすし、夫の不在も守るベガスの孤高の女性のイメージが一部で勝手に付いてくれた。逃げていただけなのに。


なおルバは、他の男性から身を守る隠すという意味もある。






「はー!つけ毛してよかった!」

一行と戻って来たマンションでにドカッと座り寛ぐチコ。


これでしばらくは長髪のイメージがあるだろうから、この仕事が終わってつけ毛をしなければ、見つかりにくいし目立たなくなる。



サダルは背もたれのある椅子に座ったまま、黙ってその様子を見ている。


「チコ様。どこにルバを隠されていたんですか?」

少し怒り気味のカーフ母カイファーと夫人たち。

姿をしっかりアピールしたかったのに、まさか顔を隠されるとは。それも想定してルバを渡さないように言ってあったのに、個人で持っていたものを護衛のカウスに預けておいたのだ。後でカウスもとばっちりを受け叱られる流れである。


「これは各国だけでなく、ユラス古参に向けてもチコ様の立場を表明するものでしたのに、これでは影武者でも同じではありませんか!」

アーツと同じことを言っている。


「各国の族長たちとはちゃんと向き合って話しているから…。」

「……。ユラスとは向き合っておりませんよね?」

「…カイファー、ごめん。」

「もういいです。明日からの接待はきちんとお願いいたします。」

明日からベガスに視察に来る一行たちもいる。もてなす中心にはザルニアス家メレナ。それからエリスなど東アジア側や、南海チーム、アーツのサルガスたちリーダーも加わる。ロイヤルファミリー以外に、この機に乗じて一部首脳陣も来るらしい。


移民がこれほど多いのに勢力やコミュニティーが分裂していないこと、貧困層がベガス内にないこと。スラム住人が一般住宅に移った経緯や、7年で移民中心の国際大学群を作ったこと。

そして、先進都市であるアンタレスに定着させず人材を派遣、移住させていること。

それを、主権が崩れそうなほど戦争で疲弊していた上に、ユラス教を持ち独自性の高い軍事国家ユラスと、真逆の自由奔放な最先端都市アンタレスで成し遂げたことは非常に不思議に見えたのだ。



とにかく様々なことが注目されている。


男性の護衛が外に出ると、夫人たちはチコの正装を外してメイクを落としユラスの普段着を着せ、宝石類などをケースに収めた。

簡単な飲み物やつまみなども準備し、夫人や女性の護衛も退席した。






それからサダルも正装を外し、それぞれ身を清める。


サダルとチコは、この機会が最善に繋がっていくようにしばらく祈り、族長としてユラス教の簡易的な儀式をする。正道教に改宗はしたが天啓ある高等宗教は全て天に繋がるとし、ユラス教の族長としても役目を果たすようにカストルから言われている。

正道教とユラス教は、認識は違っても慕う神は同じ親なる神。



二人の生活は常に祈りだ。





全てが終わると、サダルが用意してあったお茶を入れた。


「私よりもサダルの方が家のことができると知ったら、みんな驚くだろうな。」

「…そうか?みんな知っていると思うが?ただ、料理はそんなにできるわけではないがな。アンタレスでは自分ではインスタントくらいしか作っていない。SR社にいれば勝手に出てくるし。」

お湯も使えないほどの貧困、軍、野営、都市での一人暮らし。サダルは全部経験している。



つけ毛を外したチコの髪に触れる。


「………いいな。私も面倒だから切ってしまいたい。」

「好きで伸ばしているんじゃないのか?」

「まさか。母に神官でいれば戦争に行かなくていいし、ユラスでは真っ直ぐな黒髪は貴重で目を掛けてもらえるから伸ばしていろと言われたんだ。」

「…そうなのか。知らなかった…。」

母の髪と似ていたので、族長一族と誰かに気が付いてもらえ、安全を保障され国を立て直す一員にもなれると単純なサダルの母は信じていた。



いつも焦っていつも怒って、いつも泣きそうだった母を思い出す。


自分の美しさを何にも利用できなかったのに娼婦と呼ばれ、どうせ助からない命の為に死んでしまった母。



「………泣いてもいいよ。」

チコはサダルの目元をそっと撫でる。

「泣いてない………」


目元にあるチコの手をそっと甲から握り、そのまま口に寄せる。



そしてそっと指を絡め、頬から唇に浅い口づけをする。



「いいか?」

「…。」

チコは困った顔をしたが、そっと頷いた。


少しだけ、吐息が柔らかくなる。



小さなマンションで……二人はそっと肌を寄せた。











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