52 ユラスの華
アンタレスで行われるロイヤルサミットは既に1日目の昼を終えていた。
全日程2日間で、初日に晩餐がある。
サミットそのものに参加しなかったチコは、晩餐に強制参加となった。
参加しないならユラスに異動と脅されている。元兵士であり様々な安全上の理由など付けて不参加であったが、全休するとさすがにこの先アンタレスを自由に歩ける雰囲気ではなくなるので、しぶしぶである。サミットにも出ない人が、ファクトと街を歩けるわけがない。
倉鍵のサミット会場近くの迎賓館にはたくさんの貴賓が寝泊りをし、周りの一流ホテルも一部階層はフロア全てサミット関連専用になっていた。
「はあ…。」
結局つけ毛になり、元の地毛より長いロングにされたチコは全然気合いが入っていない。ナマケモノ状態である。
「どうします?降ろします?上げます?」
「中ほどから巻きましょうか。」
「取り敢えず着付けをしてから考えましょう。」
「チコ様!シャキッとしてください。背筋が伸びていないだけで、非常にだらしなく見えます。」
「は~い。」
「まあ、奥方がこんな性格だったなんて初めて知りましたわ!」
初めてアジアに来た夫人の1人が呆れている。
メインドレスは、解放後のサダルを迎えた時の鮮やかな黄色いユラス式に決まった。プラチナブロンドが映えるように、元の色と違い過ぎないように、コンタクトはバイカラーの茶と少し赤みがかった青を入れた。目立ち過ぎる紫は、まだチコの立場には合わない。
「前髪は作りますか?」
そこに、ザルニアス家三子のメレナも入室してきた。
「あら!チコ様お美しいですわ!ただ、態度がなまけた暴君ですね。しおらしいユラスの貴婦人を演出お願いします。フリだけでいいので演じ切って下さい。」
「……。」
グレーブロンドのメレナは、紺瑠璃の落ち着きもあり爽やかでもあるブルー系を着ている。メレナも大きな家門なので、ゲスト参加兼チコの見守りだ。
「私もその色がいい……。なんで年甲斐もなくこんなキチガイみたいな黄色を着るんだ?若い娘でもないのに。」
「お似合いですから大丈夫です。」
だらしない格好でナッツをつまみながら座っていると、ユラス長兄の正装をまとったサダルが入って来た。
「うわ!」
と急いで立ち上がる。
「本当にいやそうだな。」
「………。サダルは嫌じゃないのか?」
「いやに決まっているだろ。さらし者みたいに見られるのに。」
サダルは正直言うと、サミットやフォーラムにも出たくない。カメラを向けられるのもイライラするが、役目もあるしいちいちあれこれ反応しても仕方ないとあきらめている。
サダルが研究肌という事はチコもよく知っている。政治や組織の指導側に立つくらいなら、ラボにでも籠っていたいのだろう。かわいそうなのでしょうがなくチコも姿勢を正す。
「メイクを仕上げるのでもう少しお待ちください。」
と椅子を差し出され、2人は晩餐に向かう最終的な準備をした。
***
「あの人たちはアホなのかー-ー!!!」
と、寮のラウンジで怒りまくっているのはシグマとクルバトである。
やっと美しく正装をしたチコを見られると思ったのに、ニュースを見るとまた頭からルバを被っている。
あれでは何のために髪を整えたのか。鼻と口しか見えない。
「あれなら影武者でいーつってるのに!!!」
「はあ…。これで綺麗だったら大房のオバちゃんでなく、姫の称号を与えようと思ったのに…。」
「姫じゃなくて、女王だっただろ。」
落ち込んでいる書記官クルバトにヴァーゴが的確な説明をする。彼らは知らないが、さらに正確にはチコはバベッジ族族長の姪っ子であった可能性も付け加わった。いずれにせよ、姫である。
「議長までお前らバカにそんな扱いされてかわいそうだな。」
「おい、カーフ。お前も自分とこの長があんなこと言われてるんだから反撃しろよ。」
ファクトと来て一緒に観ていたカーフがまた反応に困っている。
自分の親がチャキチャキ過ぎて会いたくないカーフは、レサトの如く下町ズに逃げてきたのだ。
サミットが終わった後、議長、ザルニアス家、レサトの家門などと食事をするらしい。振られたくない話も振られそうで逃げたい。絶対に結婚話になるであろう。なんだかんだとベガスに残っているのでマイラも呼ばれそうだ。
既に、レサトは親にサミット会場に駆り出されていた。カーフの母のように華やかな人ではないので目立たないが、レサトの母親も来ている。
「おっ!あれ、レサトじゃん?!」
通路が映された時、正装のレサトが一瞬映る。
「スゲー。あいつ、素行も知らず黙っていれば、カッコよく見えるな!!」
クソ仲間がいて、クソを理由に教室を抜け出す人間には見えない。「嘘じゃない、クソもしてきた」が言い訳である。しようがしまいが、サボりはサボりである。
サミットの様子は、チャンネルを変えればこの時間大体どこのニュースでも放映していた。
チコは他の部族長や王族が最初の挨拶に来た時は頭の覆いを外すが、正面姿はカメラには映っていなかった。アンタレス開催の上に、ベガスの元総長、構築計画の総監的位置という事で、サダルだけでなくチコも注目を浴びているのに本当に面白味のない人である。
「チコさん、黄色が似合うな…。」
いちいちドレスの色に反応するのは、男ではウヌクくらいだ。
顔は見えないけれど、頭の上の方でハーフアップにしたプラチナブロンドが衣装の鮮やかな色とも合っている。
「多分、赤や黒系でも似合うと思うけれど、水色とかパープルでもいける気がする。」
「そうだよね。私もパープルとかいい感じな気がする。鮮やかさを押さえた色味なら夫人でも十分着れるし。」
ファイも付け加えた。
「紫だと大人過ぎて、髪やメイクを考えないとね。」
「ユラスは腕と足と、首や肩は隠すから保守的な衣装に見えるけど、そのポンチェっていう腕通しを外せば、夏場のドレスはチューブトップだからな。」
ブゴっ!
と、モアの一言で食事を吹き出す女性に詳しい一部男子。
「チューブトップって?」
純粋なラムダが純粋に聞く。
「肩紐のない腹巻みたいな服。」
「え!この前撮った、シリウスが着てたみたいな?!!」
過剰に反応する全然純粋でなかったラムダであった。
ムギ弟トゥルスだけ「だから何?」という顔で見ている。トゥルスにとって女性の上半身は授乳しているお母さんイメージしかない。ファクトは、チコからは筋肉しか思い浮かばないとほざいていた。
「モア、お前やっぱりユラスで遊んでただろ?!なんでそんな詳しいんだ??」
「ほぼ殺されるのに、そんな事するわけないだろ!文化授業の着付けで教えてもらったんだよ!ベアトップタイプもあるけど、さらしみたいに巻いてるんだよ。」
ベアトップはワンピースタイプのチューブトップだ。
「そうなの?」
全然ファッション用語など知らないソラがファイに聞くと、今はいろんなタイプのドレスがあるが、ユラス中央より南下地域の夏期の衣装は長い帯や布を巻くのが主流だったらしい。ただし、スカートの丈は長いし、ポンチェという上着は着る。今は真夏ではないが、まだ昼は暑くこの季節でも着ることもあるらしい。
「さらしや帯のように巻いているって、ヤバくないっすか?」
「’それを活かしきれていない、あの布何ですか?」
「チコさんのつまらなさにはがっかりした…。」
「ユラスがチコさんに呆れる理由が分かるわ。」
「あの人の内弁慶がここまでとは…。」
「俺らと、ベガス駐在にしかデカい顔できないんすかね。」
「ネット動画の方見れば、少しは顔出してるカットあるんじゃね?」
「前回ネット民の動画アップの速度はすごかったもんな。」
「奴らの鑑識は侮れない。」
そして、このサミットの何が議題で何が重要だったのか、真面目組大人組以外何も知らずに終わる問題児アーツ第1弾であった。
その内容はと言うと、セイガ大陸連合国統一に向けて、各国族長や王族の役目、そして繋がりを話し合うものであり、アジアとユラスが規模、位置的にその中心となっていく重要な話であった。




