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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第二十六章 探していた胸の内
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4 『パパ』と呼んで!



響を見舞わってから、南海広場競技場の投光器の上で、しばらく瞑想していたファクトは遂に心を決めた。


おじさんにクレープ奢ってからにしようと思ったけれど、しょうがない。おじさんは午後はずっと、エリスやユラスの人間と話し込んでいた。


大人しく出頭しよう……。

意を決するが、いきなり逮捕される勇気はないので、サラサのところに最初に行くことにした。




「……サラサさん………」

「ファクト!みんなが探していたよ。」

「みんなとは?」

「ユラス軍の皆さん。」

「…行きます………。覚悟はしています。ご迷惑おかけしました…。」

「……どうしたの?一緒に行く?」

昨夜の大暴動が、サラサにはまだ伝わっていないのか。それともそのきっかけ人物が自分と知らないのか。


「……サラサさん、俺。アーツ除籍、ベガス追放っすかね。」

「…何言ってるの?……ああ、昨日の騒ぎ?」

「やっぱ知ってるんですか?」

「ファクトが関わっていたの?そこまで知らないけど。」

まあ、サラサとしては、こちらに連絡が来ていないのでファクトは大丈夫だろう。何かあれば、こんなに自由にはさせないと、考えただけだ。

「こんなにでかい図体で、なに怖がってるの?一緒に行ってあげるから。」

「…ありがとうございます。」





二人で、南海の迎賓館ホテルに向かった。

貴賓の泊まる場所である。昨日のメンバーはここにいるらしい。


その宿泊ルームに入って驚く。でかいリビングと別にベッドルームがあり、靴を脱いで寛ぐ部屋もあった。一人で泊る広さとは思えないが、ベッドルームが数個ある部屋もあるという。それはテニアが断った。



「おー!鳩~!!」

「何すかこれ。スイートルームすか?」

「俺、別にそこらの会議室のソファーでいいって言ったんだけどさ。つうか、別にどっかのベンチで寝ててもいいんだけど、この人たちがやめて下さいってうるさいから。」


「で、『鳩』ってのもやめて下さい。プリクトコックス症とか浮かびます。」

「ファクトって似てる言葉と間違えやすいんだよ。」


ワズンやチコたちは、リビングのセンターテーブルで会議状態であった。たくさんの資料が並んでいる。

アセンブルスに手を振られて微笑むサラサ。


「………あの。」

断罪宣布されるならこの中ではワズンかカウスが一番いい。


「私は何の罪に問われるのでしょうか…。」

「罪?」

「昨日、チコとの約束を破って、勝手に動きました。騒動も起こしました。」

既に東アジア、ユラス軍が動員された上に、道路も車両も破壊してしまった。断罪されるにしても、謝ってはおこう。基本だ。

「すみませんでした!!」

立ち膝で頭を下げる。



「…。」

皆さん無言である。

どこかに逃げたい。


誰も何も発言しないので、余計に居心地が悪い。

土下座の方がよかっただろうか。でも、ここモコモコ絨毯で反省にならなさそうだし。



「………。もういい。頭をあげろ。」

「……」

チコが言うが、それでも気持ち的に上げられない。


「…ファクト、大丈夫ですよ。今回の件は個人的なものではありません。こっちから襲撃犯(てき)に乗ったのですから。」

アセンブルスが淡々と説明する。


「…?」


「まあ、きっかけはファクトですが、挑発的なメールをいただきまして、総準備して迎えに行ったので。」

「………へ?」

「私たちを利用して、あぶり出ししようとしたんでしょうね。自分では動けないから。大丈夫です。東アジア側も把握しています。」

「……。」

「ファクトの出迎えだけに、あの時間にチコ様を出すと思いますか?他の人間を迎えに行かせます。空港までは行くなって言ったんですが……。その方が問題です。空港で仕掛けられたら国際問題になりますから。それに大きな収穫もありましたし。」


「…勝手にユラスに行ったことは許さないからな。」

チコがファクトを見ずに付け加えた。

「…………俺はどうすればいいですか?」

「…どうもしない。」

「…。」

肩の力が抜けるし、かえって落ち着かない。

「グラウンド100周走りますか?」

「なぜ?」



「何か分からんが、よかったな!ファクト!、これ以上、神妙になるな!」

おじさんが肩を叩く。

「よし!遊びに行こう!」


「は?!」

全員が目を丸くする。



「なんか奢ってくれんだろ?俺、金ないもん。鳩にたかってこっちで過ごそうと思ってたから。お前らが誘ったんだからな。」

鳩に(たか)られるのではなく、鳩にたかる?高校生に?

「ワズン君も飲みに行こー!」

「え?飲みません。」

「あー!相変わらずユラスは固いな!」

「昼間ですよ?」

「利き酒が好きなんだよ。バカ飲みとかじゃなくて!」


なんだこの人と、ビビりまくるチコ。エリスも困っている。

それにユラス人は思う。お父様は、あまりワズンと仲良くしないでほしい。現在既婚のチコと結婚話が出ていた男である。


「…じゃー、どうする?」

「約束してたから、クレープ奢ります!」

「ああ、クレープってガレットみたいなののことだったんだな。調べたぞ。行こう!ファクトは運転できんのか?」


「ちょっと待て!ちょっと!」

遂にチコが立ち上がる。


「ファクトはもう少し反省してろ!」

「……」

「それに…」

何と呼べばいいのか分からないチコ。

「テニアさん…は、もう少しこちらで状況を聞いてからでないと…。」

「観光ビザで来たのに?」

「私の親である以上、昨日のこともあるし危険な状況もあり得ます。」

「だいじょーぶ。たいじょーぶ。昨日は帽子とマフラーしてたから、今日は違う帽子被って行けばニューキャラだから。…あ、そういえば着替えも何もないわ。」

「…そういう問題じゃ…。」

「俺の帽子貸すよ。」

ファクトがお出掛けに乗り気だ。

「そういう問題じゃないと言ってるだろ?」


「それに、我が子チコ!テニアさんでなくて…『パパ』!」

「はい?」


「『パパ』って呼んで!」


「え?イヤです!」

「なんかこっちに、戸籍の親がいるって言ってたよな?俺はテニアパパで!」

「…無理です…。」

「なら、『おとーさん』で!」

「……。」

「そうやって呼んでくれたら、娘の言う事なら聞く!小さな娘に『パパー』って言われるのが夢だったんだ!ちょっと大きくなったら『パパ~』かな?お小遣いほしい下心があってもかわいい。ちょっと思ったよりかなり大きくなっていたけれど。」


皆さん、この状況が理解できない。


「『おと~さん!』でもいい!呼んでくれたら何でも聞く!」

目の前に来てニコニコしているが、チコは怯えている。

「……っ」

「………。」

エリスやアセンブルスが、「言え!サッサと拘束しろ!」という顔をしている。

「あ、あ。えっと…『お父さん』…?」


「おー!初!お父さんと言われた!万歳!!!!今、天地開闢(かいびゃく)!世界が動き出した!!」

「おめでとうございます!」

きっとテニアの中では、天変地異なのだろうと拍手しておくファクト。生死も不明だった実の娘に会えたのだ。おめでたい。

「よし!ファクト君!ワズン君。お祝いに遊びに行こう!」


「約束が違う!」

「…あ、そっか。娘に出会ったのに、今まで何一つ買ってたげたことがない……。」

急に奈落の底に落ち込む。

「何でも買ってやる!服でも、車でも、バイクでも、ぬいぐるみでも!一緒に行こう!」

そして3秒で立ち上がる。もうご機嫌だ。

「いりません…。」

お金がなかったのではないのか。


「せめて、服ぐらい買わせてくれ…。」

また落ち込む。


誰かに似ていると思うファクトは少し考えて思い出す。ウチの父さんじゃん。


「とにかく、観光で来たのに朝から質問攻めで、光合成しないと死んでしまう………弱いから…。

エリスさん、お出掛しちゃだめですか?」


「……分かりました…。ただ、今日はベガス内にして、チコ様の御父上であることは今は内密にお願いします…。内政にも関わりますので。」

「エリスさん!大好き!チコも行くか?」

嬉しそうに言うが、仕事があるし昨日の襲撃やこの件も話し合わないといけない。

「すみません…。今回はご遠慮します。でも、夕食はご一緒します。」


「分かった!盗まれるもんなんもないから、この部屋好きに使って。」

「テニアさん。急に滞在をお願いしましたので、服など好きに購入してください。こっちにコードを送れば全部清算しますので。」

アセンブルスが言うが、チコが止まる。

「待って。ならその清算は私がします。」

「………。」

「…私も…父に何もしていませんので…このくらい……。服でも靴でも何でも買って下さい。」

「……。」


テニアは無言でチコを見ると、それから嬉しそうにギュッと抱き寄せる。

「ひっ!」

「うう、生きててよかった…。こんな孝行娘だったとは!育ての親や皆様に感謝!30年の空白が、今ので一気におつりまで来た!!

昨日まで孤独で死にそうだったのに、もう少し頑張って、この人間砂漠を生きよう…。」

「………」

多分、チコを取り囲んできた全ての人が、このお父さんに本当のことを何も言えない…と、少し後ろめたい気持ちでいるだろう。感謝でなく謝罪を受けてもらわないといけない扱いをしてきました…と、心が痛い。


「おじさん昨日も飛行機で楽しそうだったじゃないですか!」

「うるさい。潤いが違うんだよ。コラーゲンの質が違うんだよ。」


そう言って、ファクトを連れてどこかに行ってしまった。





それを見送り、感想を言っていいのか迷う残された人々。


「…信じられない……。」

チコはどっと疲れてソファーのひじ掛けに項垂れる。

「親がいたことも信じられないのに、あの性格はもっと信じられない…。」


「すごいですね。誰かを彷彿とさせます。あんな人が世界に2人もいるとは…。しかも似た者同士両方父親で、片方は傭兵って…。」

カウスが久々に珍しい物にでも出会った顔をする。

「言ってることは向こうよりいい加減ですね……。」

サラサも納得。かなり軽い。何もかもが軽い。


「……これって、サダルには報告しているのか?」

チコが苛立ちながら聞く。

「あの性格は口で説明するにはちょっと……」

「違うよ!親が現れたことだよ!」

「もちろん。総師長が直接されています。」

エリスもため息がちに答える。


「しかも、一番大事なことを聞き忘れていただろ!」

「何ですか?」

「ファクトは一体どういう経路で、どっからテニアさんを連れて来たんだ?!なんで親って分かったんだ?!」


ホントそれ。みんなそれを知らない。

なんで、霊性もある国家中枢の人間が揃いに揃って、こんな大きな話を誰も把握していないのか。


「ワズン!」

「俺もよく分からないんだけど。とにかくトーチビルにチコと同じ光の人間がいたから、追いかけただけだって…。」

「…光?」

「……霊視か?サイコスか?」

「…もしかして本人もその辺の区別はないかもしれませんね…。」

「カーフがサイコスの訓練をさせていただろ。後で聞こう。」


「それにしても、あの性格……。堅気の人間でもないのに、どうしたらああなるんだ?ちょっと、自分の親に思えない……」

「え?そっくりじゃないですか?」

「はあ??」

カウスに食って掛かる。

「そうですね。1年半前に出会っていたらちょっと思わなかったかもしれませんが……今なら分かります。」

「私は、あんな性格していないだろ??」


「………。」

「ユラスにいた頃やアーツを作る前のチコ様だったら、脳天がぶっ飛んでいたけれど、今ならすんなり心に染み渡ります。」

「チコ様の根って、ああいう感じだったんですね。ユラスで芽の出ない環境にして申し訳なかったです…。」

「何年も抑え付けさせてごめんさない…。」


戸惑うチコにみんな謝るしかなかった。



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