48 陰キャに優しいキャラ
ベガス南海の事務所に少し集まっている面々は、婚活おじさんの活性化を止めようと集まっていた。
そこになぜかロディアの車椅子を押してきたタラゼド。一体どういう組み合わせだ。
「……きょう?響!」
「ロディアさん!」
「…よかった…。元気そうだね。」
久々の響は、SR社の空調湿度完璧な部屋に住んで食事も上質、シャワーの水も完璧なのでお肌はつやつやである。ロディアにも心配をかけ続けたので、近況の報告と挨拶もしたいが状況がおかしい。
「…ロディアさん、タラゼドさんと…結婚するの…?」
「は?!」
「?!」
これには、本人たちだけでなく、全員が固まる。
「ええ?!!!違う違う違う違う!!!!私は結婚したでしょ?!父にはっきりタラゼドさんの婚活はしないでって呼んだだけ!…というか、アーツやVEGA内でそういうことはやめてって!!」
思いっきり否定のロディアだが、響は頭が回らない。
「ハロ~!!タラゼド君!わざわざ来てくれたの?!私に会いに?決意できた?!どっち?転職?結婚?」
周囲を差し置いてすごい勢いの婚活おじさん。これはもうなんというか、感服してしまう。
タラゼドと握手しようとして差し出した手をバシンと叩いたのは、ロディアである。
「父さん!いい加減にして!
タラゼドさんご本人に断ってもらうために呼んだの!そうでもしないと現場に行く度に同じことするでしょ!!」
シグマやイオニアたちと違って、タラゼドは流されそうだ。
「おー!我が娘よ。疑い深いな!」
「…それにね、タラゼドさんにはね。響がいるの!余計なことしないで!!!」
そこで、今日一番の室内、沈黙が訪れる。
「……………」
沈黙の後に、
「え?そうなの?」
タラゼド本人が聞いてくる。
「へっ?」
ポンっ!と小爆発する響。真っ赤である。
「え?違うんですか?」
みんなの話を総括すると、各所であの二人はくっ付いたと誰もが公言していたらしいのに。ジェイの場合、二人は一泊したと言い切っていた。何はなくとも泊まりもしたと。
タラゼドと、響が顔を見合わせて…思いっきり首を振る。とくに響。
「…え?どうしよう…。」
本人の口から聞いていないのに早とちりしてしまったロディアは少し青い。
そして、ものすごく悩んでいるのは、実はここに来ていたチコ…。
「タラゼド…お前…。」
サラサもチコを制している。勘違いさせてしまったロディアは必至だ。
「あの、チコさん、私の早とちりです。」
「響!下町ズは駄目だぞ!絶対!絶対に!タラゼドにミツファ家は重い!」
「チコ!違うってば!」
「…俺らめっちゃ否定されている。」
途中から入って来ていた下町クルバトたちはそれでも納得するしかない。否定しきれない自分たちの現状。蛍惑の名家と底辺下町ズでは合うわけがない。あっちは旧家の経営者家系である。しかも親族大企業。
「あんなにチコ先生に否定されちゃってかわいそう…。」
ロディア父は憐れむ。
「あ!そうだ!」
しかしサッと名案を思いつく、今日は冴え冴えの婚活おじさんなのである。
「響さんはロディアの親友。タラゼド君もロディアのお友達。
私が仲介してあげるよ!」
「え?」
「は?」
遂に回っていなかった頭の回路がやっと繋がったのか、それは許せない婚活オバさんの何かが切れた。
「カーティスおじ様?響の仲人は私ですが?」
「え?チコさんはお二人の障害じゃないですか。」
「はあ?!」
そこでロディアは父のシャツの背中をグイッと引っ張った。
「あ、はい。着きました?父を連れ出してください。」
ロディアが誰かと電話していると、2人ほどのヴェネレ人が訪れ、チコや事務局にいるメンバーに謝りながら、喚くおじさんをどこかに連れていってしまった。
「タラゼドく~ん!何かあったらすぐに呼んでねー!」
と、最後に言い残して。
そして、事務局は少し落ち着いた。
「響、ごめんなさい。私てっきり…。」
「……え、あ、こちらこそ………ってそうじゃなくて……。それよりも、ロディアさん本当に結婚したの???」
それが一番疑問だ。
「したの。」
「えっーーーーーーーー????!!!」
呆気にとられている響。自分がいない間に何があったのか。
「ごめんね。着信も出ないし、今は連絡しない方がいい時期なのかと思って…。」
「サルガスさんと?」
ちょっと小さい声で聞いてみる。
「うん。」
「数週間離れてただけなのに、浦島太郎状態…。」
ちょっと頭がすっ飛んでしまった。
「こんな時に何だけど…おめでとう…。」
「ありがとう。」
ニコッと笑うロディア。
「響!ちょっと話そう!」
横からチコが来るが、それは断る。
「チコ、大丈夫。そういうのはないから。何かあれば私から報告するよ。」
そんな報告、できることは暫くなさそうだが…。
「…。」
みんながラウンジの状態を聞きつけて集まってきたため、やじ馬が多くなり過ぎて黙ってしまったタラゼドにサラサが声を掛ける。
「タラゼド。大丈夫だよ。もう行きなさい。あ、でね。カーティンさんのところに行くぐらいなら、アーツに来てね!絶対。絶対にね!あっちほどお給料は出せないけれど。」
笑っているが顔が本気だ。
「…あ、はい。」
そう言って忙しそうに去って行くタラゼドに響は話し掛けたかったが、アーツメンバーも集まってきているし、人が多いので見ていることしかできなかった。
一旦この場は解散するが、あの強烈なおじさん、むしろVEGAにでも来てほしいくらいである。
世界経済中枢を牛耳るヴェネレ人が、アジアから訪れたロン家を初期は警戒した理由がよく分かる。ヴェネレ人さえ恐れる男なのである。
と、ここにいた一同は思うのであった。
今、ベガス構築はアンタレス行政も入ってはいるが、人口移動や増加に対して、最低限のインフラだけはどうにかカバーしているものの、人や教育が全然追い付いていないのだ。
素晴らしい処理能力を持つ人たちを、いくらでもスカウトしてきてほしい。
***
「ほ~、そんなことがあったとは。」
道場にいて現場を見なかったファクトが、一緒にいたメンバーとがっかりしている。
「なあ、タラゼドと響さんはそうなのか?」
「…いや、知らない。」
蛍惑旅行の後、どうなったまではファクトも知らないし聞いていない。
「でも、雰囲気はいい気がする。」
「そもそもタラゼドはなんなんだ!!!ムカつくな!」
「マジそれは思う。かわいい妹に囲まれ、勝手にコパーの様な女性に好かれ、そして覚えていないというこのありがたみのない状態!!!許さん。」
「女が好きな爽やか系でも美形でもないだろ?雰囲気イケメンですらない!!なのになぜ!」
「妹かわいいのか?」
「美人とは言わないが、それなりにかわいいぞ。よくしゃべるけど、ザ・妹って感じだ。2番目の子だけクールでモデル体型過ぎて近寄りがたい。」
アーツに来る前からタラゼドを知るクルバトが答える。タラゼド家には従姉妹や近所の女子たちもよく来るらしい。
「タラゼド、本当になんの痛みも味合わず、響さんまで掴むのか??!許されるのか?!!」
「まだサルガスの方が、必死だった分好感が持てる!」
「何なんだ、あの女運。神様平等じゃないだろ??!」
「今更知ったのか?」
「知ってても何度も言いたいだろ!」
ムカつきすぎる。
元の彼女を思い出せないぐらい考えなしに生きてるくせに、勝手に響との外堀を埋められていくどころか、あんなにも積極的に女性を紹介してもらえるとは。しかも家実に女が居過ぎてめんどくさいのか寄って来る女性を無視している。
「でも!」
ドン!と道場の床を叩き、そこでファクトは友情を噛みしめる。
「でも、タラゼドは…俺たちの仲間じゃないか!」
真理を言うファクトである。
そして頷くラムダ。
「…そうだよな…。妄想CDチームの熱き仲間だ…。」
みんな納得する。
タラゼド自身は全然熱くないが。
そう、タラゼドは陰キャに優しいキャラなのである。
まず陰キャも大切にしてくれる。
くだらないことをしている目で見られるけれど、漫画やアニメキャラに傾向しても、アイドルファンでもゲーム好きでもケチも付けない。
童貞でも、彼女がいない歴イコール年齢でもバカにしない。中二なことを言っても、白い目で見ない。白い目で見たとしても、タラゼドの白い目はか弱い心臓に直接打撃を与えない。勝手にブルーになって自分や世界を卑下してもただ横にいてくれる。
見た目も精神もヘタレでも気にしない。
何より、スポーツで同じチームになった時、ミスを連発しても怒らないどころかさりげなくフォローしてくれるという、陰キャにとって最強キャラである。
そう、スポーツでは『陰キャ及び運痴が一緒のチームになりたいベスト1』として人気なのだ。
あの、気も戦闘能力も強いABチーム混合の試合で、タラゼドが同じチームになった時の安心感と言ったらそれはすごいのだ。というのは、ジリやラムダ談。
ただ、そんな試合自体、今はご遠慮している。ダンクやオーバーヘッドキックができるような奴らとスポーツをしても、石ころどころか邪魔になるだけである。自分たちが障害物だ。
バレーでは連続アタックとか、頭おかしいのかと思う。あんなランチャーアタック絶対に受けられるわけないのに、普通に受けている。食らったら陥没、よくて鼻が折れる。
タラゼドは怒ると怖いし口悪いことも言うけれど、一過性なものだし強烈な陽キャから守ってくれるのだ。
蛍の夫のアバレクもそんな感じだが、いかんせん淡泊過ぎて自分たちとの関りは薄い。
…タラゼドが好かれるのも分かる…。自分も好き…。
と思う、主に妄想CDチーム、及びそれ以外の自称陰キャ男子たちであった。




