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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第二十九章 麒麟は駆け抜ける

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45 変わった人たち



ユラス民族は一風変わった民族だった。



彼らは聖典正統家系が部族、民族化するだいぶ前に分家した兄弟で、セイガ大陸西側から東に向かって氏族を広めた。ユラスは現在サダルが総族長を務めるベガス構築の中心民族である。


一方聖典旧約の中心、ヴェネレは西に重きを置いたロディア母たちの民族であり、人口は少ないが世界にはヴェネレ人の方が知られている。


ユラスはヴェネレの生き別れの兄弟のような民族であったので、『東のヴェネレ人』とも呼ばれている。


二つは世界的には非常に似ていたが、全く逆の性質もあった。



ヴェネレが近代まで民族で婚姻も固める封建民族だった反面、ユラスはまだ中世にもならないある一時代に、世界への扉を開き、人口が一気に増えていった。先に先進化したヴェネレに比べ、全体的に貧しく戦争も多かったこと、聖典旧約の子供こそ財産であり神の祝福という文化が強かったという理由もある。


現在はそこまでの人口ではないが、複数の国家群で広い領土を持ち近隣の国も大きくなり、西アジアとヴェネレの間は協約を結んでいない国家以外、全部含めてユラス大陸地域になる。



正統血統は、信仰の礎の人物に14人の息子生まれたことで、聖典の中心歴史を出発する。

その後、中ほどの兄ヴェネレが歴史の中で最後まで存続し、ユラスの西横でヴェネレ民族として発展した。彼らは東欧や西洋と混ざり、世界中の金融や商社、科学分野などを収め貧困層の少ない非常に優秀な民族になった。



一方ユラスは分家した後、東に流れたが、一つだけ手放さなかったものがあった。


それが神の『聖典』である。


しかも、分離するごとに違う教えになっていった他の親戚一族たちとは違い、ユラスは、神が最初に地に具現化した人間、アダムからの一系統を追ったヴェネレの聖典を手放さなかった。

旧約時代にはヴェネレ人の国に…初期はまだヴェネレとは言われていなかったが、歴史の節目節目にそこに人を送り写しを得てそれを信奉した。


数千年の時を経て、時は新約時代前。

その頃ユラスは、旧約の変化に気が付き舵を少し切り替え、現在の正道教の前身の前身である旧教からも聖典をもらい受けていた。



彼らはヴェネレの追う聖典から派生した預言書を注意深く見つめていた。


そのため、歴史の中で何か一区切りがついたことに気が付き、これまで守って来た同部族内での婚姻をやめ、周辺のアジアにまで、同じ神性を理解しを讃える部族や人物たちとも婚姻を大々的に結ぶようになった。ユラス教保守派傾向の最も強いナオス民族原理派はそれに反対したが、彼らは何千年も前、自分たちもナオスと合流して自国の覇権をナオスに明け渡した異教徒であり異民族だったという事を忘れつつあった。




ユラスは黙想する民族だ。


東に流れ、静寂や天の与えた自然を自身に体系化する文化を得たことで、西文化とはちがう『静』の精神性を持った。しかしそれが遠因で、物理的発展を全部は受け入れず、ユラスはかえって近代化を遅らせた。


そして、他民族を受け入れたゆえに文化や価値観の違いによって部族間での勢力争いも起こり、さらに人口が増え立たために危険勢力と思われ、他の大国からも狙われた。大国をまとめきれないまま、産業経済時代に突入し、さらに非常な遅れをとる。




ところで、彼らはまだ近代にもならないうちに、この荒れた世界で面白い生存方法を見付けた。


西洋やヴェネレ、その他各地の王族や富豪の衰退の理由を探ったのだ。


それは、人間本来の宗教性を失うことと、聖典新約時代に至っては、富を狭く囲う事だった。

この2つをしてしまうと、一気に栄えてもどこかで一気に衰えていくのだ。



あるラインを越えてまで、聖典で言う『万物』を囲うと、それは綻び始める。


『お金も人も財産も民族性も小さな枠で囲ってはいけない。』

この法則を見付けたのだ。



それから近親婚や囲い婚をしない。

地位や財産を囲おうとして狭い一族内で婚姻を進めると、兄弟が多くても、一見健康そうでも断絶する家系がたくさん出てくるのだ。そして体だけでなく、精神的に不安定な者が多く出てくる。

ヴェネレには富豪にそういう人物、家系がいくつかあり、時に偉大な経営者、科学者、哲学者やアーティストを生むが、個人や家庭、人間関係が破綻している場合も多かった。


命の樹は末広に広がっていくはずなのに、囲うと逆さにしたもみの木のようにしぼんでいく。そして、最後に霊線は一本だけになり、自分たち以外に繋がる霊線の先がなければ、そこも断絶する。


だが、数代も生きればどこかに無自覚にでも他者の為に尽くした人物や家系もいるわけで、そういう人々が繋げた霊線が最後の1、2家族を生かし、断絶をまぬかれることもある。



時代や地域で変わっていくものではあるが、あらゆるものを狭い囲いに入れてしまってはいけない。

過去はそれが必要な時代もあった。



しかし、その衰退の法則はグローバル時代になればなるほど顕著になる。


全ては万物の主である私の物であり、そして同時に『隣人の物』なのだ。





そただ、たった一つ、対である二人にしか共有ができないのがあり、それが男女であり『夫婦』である。



数代前のナオスの族長は、大学に専門の機関を置いて、世界の歴史から近代まで数百の王族富豪の衰退の歴史を追い、そんな法則を見つけ出した。

なのでそこから理想とする世界を具現化しようと思ったが、まだそれには歴史は早く、国境を守り、大国を統治するだけで必死であった。



ユラス歴史の中で、最終的に形を持って歴史に残ったのは4部族のみ。


その内、最もヴェネレに似た部族と言われるのが、サダルの属するナオス族である。

彼らは薄褐色の肌に淡い色の髪を持つ者が多く、外見が他と違って特徴的である。


そして武将オミクロン。

数千年に渡って兵士を育ててきたような一族で、ナオス族と共存してきた。彼らの特徴は近代化しても非常に信仰的で、連合国になる前から世界の他の軍と比べても不祥事は格段に低かった。性倫理も他国ほど崩壊しておらず、敵国の民間人と軍人も分け、奪略も少ない。それは歴史の中で非常に珍しいことであった。

加えていくつかの国境と接していたこと、実力主義だったこともあり、オミクロンはとくに早い段階から混血が多く考えが柔軟だった。

それらが歴史の中で淘汰されなかった理由と言われる。



タルフ族は実質ユラスの形を持っておらず、一部の家系や同族に分布していった者を除いて、西南の正道教国家と同化した。



一番風変りだったのは、バベッジ族。

人口も少なく、近代さらに数を減らしたが、実質彼らは他の兄妹部族たちの中に混ざっていった。


元々ユラス他部族の有力者に、バベッジを親族に迎え入れる習慣があったのもあるが、バベッジ自体が特有過ぎて他人嫌悪の性質があり、バベッジ族内でも人を選ぶ。そんな中で部族内で婚姻をすると親族婚を防げなくなる。そして、良くも悪くもそれぞれ個性が強く自由を好む者も多いため、民族の形を失いかけていた。

バベッジにも強固なバベッジ保守がいるとはいえ、どうやってこの数千年の歴史を民族として生き残って来たのか、今でも議論になる程だ。



そんな彼らにはヴェネレにも劣らない奇人、天才たちがたくさん輩出されていた。

霊性も非常に高い人物が多く、新時代にはサイコスを持つ者が多く現れた。


民族自体も一部界隈で話題になる独自性を持ち、好き勝手な生き方をし短命だった者も多く、民族、歴史学者や文学者が一冊の本にできるほど破天荒な者がたくさん輩出されている。



サダルにもその血があり、最近現れたチコの実の父『ボーティス・ジアライト』は長きにわたる混血ではあったが、男系血統はその最初の族長、バベッジ直系の流れを持っていた。

現在は他の兄弟家庭がバベッジ族長に入っており、ボーティスの人生もハッキリしていないため現バベッジに明確な位置はない。


実証的な証拠はないが、世界の公的機関重鎮たちが『霊追い』で出した判断と、連合国の遺伝子バンクにあまり登録がないバベッジ族の記録から、どうにか『テニア・キーリバル』が長兄子孫と導いていた。



そしてもう一人、バベッジの特徴を濃く背負う者がいた。

彼は今、ユラスではなくアジア人として、世界で最も大きな力を持つ者の一人であった。


母はナオスの血の方が濃かったが、それでも両親にバベッジの血を持っていたのだ。



その凝縮がシリウスの中にも入り込んでいた。




***




「なあファクト、チビッ子は引っ越したの?トゥルスたちはいるだろ。」

テコンドーの使い手だったウヌクは、何度試合をしても勝てないムギをこの頃見ないのでファクトに詰め寄った。


「知らない。多分実家の方にいるけど。故郷の方。」

「戻って来ないのか?」

「さあ、なんか仕事があるみたい。」

「はあ???中学生だろ。勉強してろっ。」

「知らないよ。もう諦めなよ。シグマでも勝てなかったんだよ。素手だとローやベイドでも無理だよ。」

ただし、武器を使ったらもっと勝てない。


「俺がシグマやあいつらより弱いっつーのか?お前は勝っただろ?」

「イオニアやタウ…ならいけるかな…。キファやシャウラ…、うーん。先にあの辺と対戦したら?」

「あいつらムカつくから嫌だ。」

「アクバルは?」

「ヤツはいい奴だから相手にしたくない。」


「どスケベ野郎。あんな子供と組みたいのか。」

そこに割り入ったのは調味料工場で働くティガだった。

「ああ?うるせえな。あんなチビッ子にすら勝てない屈辱を早く晴らしたい。しかもあのチビッ子は俺を完全に舐めている。」


「…つうかファクト。響さん知らね?最近畑に来ないんだけど。一応別の子が管理してるけど、新しい香辛料とかの相談がしたいのに。休暇から帰って来たんだろ?」

「…知らない。」

なぜ、どいつもこいつも自分に聞きに来るのかと、気が滅入ってしまう。自分があれこれ話せば、言わなくていいことも言ってしまいそうだ。この前一緒に、栃の実拾いなんて平和なイベントをしたばかりである。



そういえばムギの腕が凄く細かったのを思い出す。


テニアは連絡しても出ない。チコや響に心配を掛けないようにムギの話はしていないが、今どうしているのかが気になった。



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