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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第二十八章 河漢の龍

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35 会えない



アジアラインとは、東のアジアと西側のユラスを東西に分けた間の南北に伸びる地を言う。


そこには中央北寄りに事実上無法共和国のギュグニー、南には南北両メンカルがあり、その中ほどに小さな山岳の国家アクィラェがある。



たくさんの山岳地域や山脈を南に下っていくと、荒涼としたステップ地域が所々現れ、そして森から亜熱帯地域になる。そんなアジアンライン直下。


アクィラェ出身の少女、ムギは『(あか)』の使い「リン」として、アジアライン共同体において、北メンカルの南側の説得に当たっていた。全てムギの二つ名だ。朱は大人の女性と思われ、リンは霊性使いの巫女だと思われている。アジアラインは子供の巫女を尊重する土壌文化があるからだ。



北メンカルはいくつかに勢力に別れた独裁的国家で、その中でも自由寄りの勢力『ガーナイト』と交渉を進めていた。ガーナイトの(おさ)は元々の統治者の三男で、現在親兄弟と分離している。


親と長男の既存勢力に、軍隊を率いた次男の軍事勢力。一見ひとつの政権だが次男は親と対立をしている。長男は親の後釜にどっぷり浸かる予定だ。次男は軍の元帥も鎮圧してしまった。その元帥も自分の一族で国の資産を囲おうとしたどうしようもない男だった。


父親側の勢力を『イェッド政権』という。


そして三男は唯一の理性勢力と言われているが、身の危険を感じどこにいるかすら分からない。


そのかわり、ガーナイトは南メンカルやユラスなどから支援を得てどうにか形を守っていた。ただ、多くの有力者家族が既に亡命している。そして亡命できないほとんどの人間は、身を守るために既存勢力にもう一度属したいと思っていた。


しかも、北メンカルと表向き協力関係にあるギュグニーは、南メンカルと西アジアのベージン社が出したモーゼスが、今後アンドロイド界の覇権を握り、経済が逆転すると言っている。実際、ベージン社の普通のロボットとニューロスの中間機種アンドロイドは、高級希少性の高いSR社にじわじわと迫るように売り上げを伸ばしていた。その売り上げの南メンカル分は、ギュグニーなどが吸収していたが。




アリオトたちがガーナイトの集会で説得に努める。


「北メンカルでの財産は一旦捨てる決意がいります。どのみちギュグニーが動き出して紛争が起きれば、ここの通貨が暴落する可能性があります。」

「絶対にそんなことは起こらないと聞いている!」


元々大きな財産を持たない人々や、国に現金資産が少ない人々の動きは早かったが、北メンカルに資産を握られた者たちは様々な話に頷かない。アリオトたちにとってみればそんな資産は砂の城に見えたが、彼らには重要なものであった。


「イェッド政権に寄るより、アジアかユラスを味方に付けた方が…」

「それは何度も聞いた!だが、連合国がその後の財産を保証してくれるのか?!」


「場合によります。どちらにせよ、セイガ大陸連合に加盟姿勢を持った方が、安定が訪れた時に経済の立て直しの中心になりやすくなります。一から築かなければならないかもしれませんが、ユラスはそれで今一財立てた新参もたくさんいます。」

「そのために、ユラスは内戦当時から西洋やノースリューシア、アジアの安定地域にたくさんの子供たちを送りました。彼らが今、安定した治安を作り新興勢力になっています。」

アリオト大人たちの横で、リンも話を聞きながら時々話す。


「だが、ユラスも揺れていて連合国はもたないと聞いている。」


驚いたことに、世界中がギュグニーと北メンカルが劣勢だと思っているのに、南寄りのガーナイトですらギュグニーが今後の最強勢力で、ベージンに協力関係の南メンカルのニューロス会社がメカニック界最強になると思っていた。



ただし、追い詰められたら倫理性もなく何でもすると言えば、ギュグニーはアジアで最強かもしれない。


既に、メカニック、アンドロイド倫理を破壊している。

神が預けた『人間』という倫理の崩壊を、壊れた研究室という箱の中だけでなく、民間に広げようとしているのだ。


世界は地球保護や世界平和を謳っているが、『人間』が崩壊すれば、地球の均衡など簡単に崩壊してしまうことが彼らは分からない。


いや、その中心にいる者たちは分かっているのである。分かって利用しているのだから。


呼ばれて来たのに、以前と同じような話になってアリオトはため息が出る。堂々巡りで前に進めないのだ。でも、どんなこともきっかけにしていくしかない。国境沿いのガーナイトが落ちたら、南メンカルも危なくなる。



リンことムギは、ガーナイトにはっきりと言う。


「『人間』が『人間』であることが、未来の最後の砦です。

今のベージン社のやり方では、平和が訪れた後に、いずれにせよ無音で世界は崩壊していくでしょう。」



無血革命ではない。無血崩壊だ。




***




「ファクト!」


その夜の食堂に駆け込んで来たのはチコだ。その場にいたみんなが注目する。


「…チコ?どうしたの?なんか久しぶりだね。食べる?」

チコは近くに座ると、ファクトの差し出した唐揚げのフォークを取って口に入れる。

「…。」

もごもご食べてから、少し小さい声で聞く。


「響はどうした?」

「…蛍惑。」

「実家にもいないし、響兄も見付けられないって聞いたが?」

「………。」

ボロが出るので無言を決め込むが、ファクトではなく響について地獄耳のキファが答える。

「え?響先生ならこの前見ましたよ。荷物持って友達の家に行くって、迎えが来てどっかに行きました。めっちゃ可愛かったです。」

「…。」

チコは、聞くだけ聞いてキファを無視する。


「…シンシーはアンタレスにいると言っていたが、そうなのか?」

「…知らない。戻って来たのも見たけど、今は知らないよ。」

ファクトの唐揚げをどんどんがっつきながら追及する。

「他にも何か知っているだろ?」

「…知らない…。」

ファクトがうそをつくとき、だんまりを決め込む事を知っている。そして分かりやすく目を逸らす。やたら喋っる時もあるが。

「ファクト、答えろ。」

「チコさん、弟を脅迫するのはやめて下さい。」

後ろの席にいたモアがファクトを庇った。

「ああ?」


その時何も考えていないタラゼドが来てしまう。

「…あ、チコさん。お久しぶりです。」

「…。」

そして、何か頼んで、別の席に行ってしまう。チコは、なぜかタラゼドにイラつきを感じてしまうので、答えずに眺める。

「なんだ、あいつ…。あの余裕、なんか気に食わん。」

「分かります。俺も嫌いです。」

キファが納得している。


タラゼド、ただ挨拶をしただけなのに敵視されてかわいそうである。ファクトはタラゼドの方に逃げようとするが、そこでさらに、何も考えていないジェイがボソっと言ってしまう。

「響さんに攻め込んでいたから、逃げられたんじゃないの………。あれはちょっと……追い詰められてかわいそうというか…。」

おじい様の別荘の話であろう。


「…。」

聴こえていた一同がしーんとしてしまう。


「あああ゛??!タラゼド、ぶちコロす!!!」

「?!」

「チコ先生!やめてあげてください!」

モアが止めるが、激オコなチコ。

「ここの集団はアホなのか?!」

「俺たちが何を?!」

「はあ?何もしてませんよ。」

タラゼドに睨まれたジェイが、こそこそタラゼドの視界から逃げた。今日はリーブラがいないのでこっちに食べに来ていたたのだ。

「集団って、一括りにしないで下さい!」

「は?キファっ。お前も渦中の人間だ!!」

タラゼドが戸惑っているし、意味の分からない比較的新規のメンバーが困っているので、リーダの一人ミューティアが気にするなと声を掛けていた。



「チコ様!チコ様がいい加減にして下さい!!!」

そこで怒ったのは女性兵パイラル。


シーンとする食堂。

カウスは少し遠くで眺めている。


「…悪かった。各自食事をするように。」

大人しくタラゼドの横の席に座り、今度は静かに聞くチコ。

「響がどこにいるか知らないか?」

「知りませんが?」

「響に何があった?なんでインターンに行っていないんだ。」

「…仕事のことまで知りませんよ。」

「先の攻めていたというのはなんだ?」

「…攻めてないですし。」


コホン、とパイラルが咳をするので、仕方なく追及をやめる。


「……分かったことは、お前らが何か隠しているという事だ。」

「チコさんに分からないことは自分たちも知らないですよ。GPSは?」

数日前にみんな会っているらしいので身の心配まではしていないが、響のサイレントGPSも分からない。

サイレントGPSとは、特殊なもの以外の全てのメカニックに付いた一般人には外せないGPS機能である。

「追えない。」

「軍でも一般人を追えないんですか?」

「…最近はお前らの方が詳しいだろ。ここはアジアだしな。ベガス外は有事や緊急じゃないと私たちに権限のない事も多い。サイコスターも響が反応しないと言っているし。」

「…。」

それが答えなのだがとタラゼドは思うが、今チコに言ってもいいのか悩む。

「心理層から今いる位置を追うこともできるが、それも個々の能力や分析の範囲だからな。みんなにできるわけじゃない。」

「俺も会えないですし。でも、もし会えたらチコさんが心配していたと言っておきます。」

「頼む…。」


去って行くチコを眺めて、タラゼドはファクトに聞いてみる。

「響さん、あの事チコさんに言った方がいいんじゃないか?」

「そうだよね…。今度響さんに会える機会があったら言ってみるよ。」


チコが食べてしまったので、また注文を取りに行くいファクトであった。




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