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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第二十八章 河漢の龍

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29 突然現る河漢のロマンス



次の日の会議室に集められた面々は、非常に柄の悪い集団であった。


まず、無表情のサダル。そのお付きたち。


ユラス軍と東アジアらしき人も含む軍人。しかも武装している。

アーツ、VEGA、南海の全リーダーに、河漢関係者。バカ息子の元部下たち。

河漢に関わろうとしているヴェネレ人、つまり婚活おじさんも。ユラス人のジョアの妹メレナたちも来ている。


チコは事件当時にいなかったが、アーツが去ってから現場に来ている。チコも、無表情で正直怖い。


そして、昨日の『前村工機』ワラビー騒動で、現場にいた人間。つまりファクトもいた。この辺だけは雰囲気が軽い。

「はあ、こうしてみると、やっぱり河漢関係は普通じゃないな。」

ジェイが嫌そうだ。





そして、アセンブルス中心に、東アジア行政も入りながら河漢艾葉(がいよう)で起こった事件の説明が始まる。


まず、簡単に昨夜何があったか、今河漢のどの辺りが閉鎖になっているか、インフラはどうなったか、人的被害はあったか。今のところ人的被害はなく、河漢の居住地域にも被害はない。ただし、一時的に停電はあった。


「あのシェルター自体は、前時代の金持ちが戦争に備えて自分たちの為に作った物らしい。それを、新時代に入り、スラムが拡大化してから、西アジアのマフィア『赤龍(せきりゅう)』が存在に気が付き、土地を買って所有したものだ。」

室内にどよめきが起こる。ここには東アジア中央勢力の『青龍』の元関係者もいる。


しかし、そこで一部固まっているのはアジア系ヴェネレ人たち。婚活おじさんも「え?」みたいな顔をしている。


「赤龍も歴史の中で数派に分かれていて、河漢に入った勢力は訳あって温厚派だ。本流から抜けた時に女商売から手を引いてスクラップ事業、中古車、中古機体のバージット、輸出などしている。その時にシェルターも改造していったらしい。マフィア自体はその息子で足を洗っている。」

途上地域に車などを輸出する時、あまり高性能なメカニック機種はメンテができなくなるので、可能な機種はアナログ機種に近い形に持っていく。それがグレード下げのバージットと呼ばれる作業だ。そして高性能メカ部分は、製造業者などに返すのが一般的である。



「あのワラビーたちは?」


「…まさに、コレクションですね。クラシック機種勢ぞろいです。当時のボスの趣味らしいです。」

さらに会場が騒めく。

「『前村工機』というのは?」

「前村は当時のその技術者のリーダーの名前だそうです。」

「……」

「前村さん?」

みんな反応に困る。早朝、確認に来た東アジアがコレクションに感心していたそうだ。


「ボスが好きにしていいと言ったので、前村さんが好きに改造したそうで。」

「………。」

ほんと、趣味の域だ。それであの騒動か?

前村さん、やめてくれ。



ただ、ここで目を輝かせているのはファクトだ。


すっげー!『赤龍』分派めっちゃたのしー!!



「その情報、どこから?」

「赤龍のその分派に昨夜確認しました。まだその息子さんの息子がご存命で。」

いつもの如く、仕事が速い。というか、ロディア父ではないか。先、驚いてはいたものの知っているのではないか。




「言っていいのか…。これって知られている話でしょうか?」

アセンブルスがサダルに確認するが、めんどそうに答える。

「省いて話せ。」


「あそこは現在は青龍の所有になっていましたが、青龍の河漢での力が弱かったので、大きな事業に手が出せず、シェルターに気が付くこともなかったようです。」

何といってもあのバカ息子に任されていたのだから。結界の霊性がその流れを作ったのかもしれない。無用な人間に入られないように。

「ワラビーが動き出したのは?」

「それが重要な話ですね。」


会場が静まった。


「再度言いますが、ここでの話はまだ口外しないで下さい。

クラッキングされました。一般的言えばハッキング…です。」


「…。」

「ハッキングであそこまでってヤバいだろ?」


「今回のクラッカー…ハッカーは、かなり高度なAIです。彼らは河漢でなく、移民政策自体を破滅させようとしています。だから、ここで混乱と事故が起きればいいというか。まあ、ユラスが邪魔なのです。」

「………。その、『赤龍』とかいう人たちですか?」

「違います。そうだったら私たちに話をしてくれないでしょう。」

何と言っても婚活おじさん系列である。

「まあ、クラッカーたちはヴェネレも邪魔でしょうね。SR社が一番邪魔だったのに、ベガスにはどんどん強い新手が入って来るのがイヤだったようで。」


ここで一部の人間たちはクラッカーの答えが分かった。




この後、河漢のイエロー地帯には必ず護衛、もしくは軍関係者を同行させること。早い段階での地下地域での移住を進める事他、緊急連絡の確認など全員に徹底させた。再度調査団が入るので、しばらく河漢中央の活動はストップする。ただ、元々中央は地盤のせいですぐには何も出来ないので、想定内ではあった。


他、必要事項を話し合い、それぞれの集団でミーティングを持ってこの場は解散となる。



「アーツはちょっと待て。リーダー以外は出て行ってもいい。」

これから通学出勤しようとしたのに、サダルに止められた。リーダーだけでもいいと言われたけれど、みんな残ってしまう。


サダルが、サルガスのバングルを持ってきていた。

「まずこれを返す。ありがとう。」

「…あ、どうも。」

議長からなので両手で受け取る。


「なんだそれ?」

タウが聞く。

「ロディアさんから貰った。」


「それが鍵かもと言っただろ。」

サダルが迷いながらも話す。

「はい。」

「やはりそうだった。」

「……?!」

サルガスが目を上げる。

「結界自体は、霊性的なものだからな。大事な人が来るまで開かないようにしたんだ。それで、そのバングルに鍵穴を作った。」

「は?」

意味がよく分からない。サダルたちの周りにいたメンバーも「は?」という感じだ。

「念を入れて、青龍が来るまでシェルターの存在をなるべく分からないようにし、無用に開かないようにしたんだ。」

「なんで?青龍が来るまでって、対立勢力だろ?みんな仲いいの?内部不和?」

我が書記官クルバトが思わず聞いてしまう。



「『前村工機』時代の河漢分派の頭は女性だったんだ。で、河漢に入った青龍…正しくはその時点ではもう一般人だったんだが………彼は男性だった。」

「……うーん。ウエスト何とかストーリーとか作れそうですね。」

どうでもいい事への頭の回転の速いシグマ。

「………」

黙ってしまうサダル。



なんだ?この、サダルさえ困らせる事情………。


「あれ?もしかして、本当に恋仲?」


「……………。」

アーツに沈黙が起こる。



当時は男女。

サルガスの曽祖父は青龍から離脱し大房に。そして河漢には兄が入り、後に離脱している。サルガスの曽祖伯父だ。『前村工機』の腕輪の持ち主はロディアさん。


困っているサダルと、ちょっとぬるい目をしているアセンブルス。


「……。」

「まじっすかーーーっっっ!!!!!」


アーツ、超大盛り上がりである。

なんだか、真っ白になっているサルガス。


「やっぱり予想は当たっていた!!」

ベイドやタウも、ロディアさんが『カーティン・ロン』こと「ドラゴン」系、という自分たちの予想が当たるどころか、ウエストでサイドな物語まで出てきてちょっと赤くなってしまう。


やはり「フォーチュンズ」は系統は切れていてもマフィア筋であったのだ。ただし、前時代の大企業や既存勢力はヤクザのようなものも多かったらしく、規模と建前と裏を作るやりぐちで言えば、ヤクザよりひどいことをしていた大企業、皇族、王族、財閥など既存勢力はいくらでもあったらしいが。


「フォーチュンズ」はおじさんの代から始まった新時代の振興勢力である。




「お前ら、黙れ。」

サダルが全てをスルーした顔で言う。


「サルガスの家族が恋仲だったわけはないです。曽祖父や曽祖伯父たちはその部下繋がりですね。」

アセンブルスが加えサダルが締める。

「ロディア氏は知らないので、まだ事を大きくしないように。私からヴェネレに話す。父親は全く知らないことはないだろう。土地柄に強くないと仕切れないからな。」


それから、河漢と大房に詳しくなったチコが間に入る。

「それに、河漢に入った青龍はサルガスの曽祖父でなく、曽祖伯父だ。サルガスの曽祖父は大房に入っただろ。時代の変わり目で揺らいでいた時だったから、何かあったらこのシェルターに住民を移す気だったらしい。曽祖伯父自身は離脱後、西アジアのインフラ整備の現地外交に関わって、若くしてそこで殉職されている。」

「…マジっすか?」

「あと、もう一度言うが、サルガスの曽祖伯父がそのお相手ってわけではないからな。直下の部下として関連はあったというだけだ。」

アセンブルスが補足を入れる。

「それから、東アジアが安定したから、そのままメカ倉庫にしてしまったらしいです。何かあってもシェルター代わりにはなるし。その女性はその後東アジアを離れました。」



サルガスやロディアの曽祖父母たちは、生まれた時からそれぞれのマフィアの中の環境にいて、それが避けられる立場にはいなかった。

それをサルガスが一代で駆け抜けて来たのだ。霊性の抱える世界は、数代前からいくつかの兄弟たちに分けてその時を準備していたに違いない。奇跡は積み重ねられた努力の中で起こるものだから。


マフィアのしてきたことは、マフィアが洗うしかない。サルガスの家系はたくさんの殉職者を出したり地域活動をしてきた。ロディアの家系はプラス資産より、企業義務の分配金を多くして西アジアや途上地域で低所得層の底上げをしてきたのだ。



「……」

それに関係なく、今いる子孫、サルガスは完全に呆然自失である。


「……ヤバい。ロマンスなストーリーが現れて我を失っている。」

「サルガスさん?生きてます?」

「もしかして羞恥の境地ですか?それとも現実派過ぎて過去の皆さんについて行けないですか?」

「サルガーース?」

「改名した時、髪を切った時、過去のロマンスに便乗した子孫。この恥ずかしい3段階活用を乗り越えれば、無敵っすよ!起きてください!!」

「地元の先祖たちに乗せられてちょっといやになった?」

「お前らサルガスをからかうな!」

チコに叱られる。


でも、その結果があのワラビー事件なので確かに笑っている場合ではない。




そうしてもう1つ。


ここでは言わなかったが、シェルターをクラッキングしたのはベージン社のモーゼスであった。

あの、大房のあのジャンク屋にシリウスとモーゼスが入った事件。


既にあの時点でモーゼスはセキュリティーの弱い旧設備に入る地下活動をしていたのだ。




セキュリティーの弱い場所と、


人の心に、



ウイルスのように。




この地下設備は古い設備で、メカにも人に危害を加えない力が働くヒューマンセーブもない場合が多いし、あったとしても根底のチップでなく上辺(うわべ)のプログラムとして働いているだけなので解除も簡単だ。




そして、半分見捨てられた河漢スラム。

その中でもひどく荒れていた艾葉(がいよう)の2地区周辺で、不法住居者が残っているむしろアンタレスにとってはお荷物の地だ。既に一般の住民もいない地域で、多少荒らしてもどこまでニュースになるのかという場所。


モーゼスには、その裏にいる人々には…、格好の餌食に見えたのだった。



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