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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第二十八章 河漢の龍

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28 運ばれたギュグニーの子



響たちはまだ郊外。

SR社に連絡を入れると、そこで待つように言われたので少し広い場所に移り彼らを待った。


夜風が少し寒い。



暫くすると、数台の作業車が到着し、シャプレー・カノープスもスーツ姿で現れた。

「こちらです。」

響がSR社を誘導する。


シャプレーは、止まったボックスカーの運転席に真っ先に駆け寄った。

「響史、ご苦労だった。彼は?」

「後ろです。」


後部座席のドアが開くと、シートに座らずに足元で毛布を被ってダルそうにしゃがみ込んでいる男がいた。

「久しぶりだな。」

「…………」


他の車両からファクトの父ポラリスも現れ、響に手を振ったので礼を返す。


シェダルは何も答えないが、シャプレーは全く動揺することもなくいろいろ質問する。

「気分が悪いのか?顔色がよくない。」

「………痒いし痛い。」

「いつから?」

「知らない。子供の時から。」

「…大変だったな。少し車を移ろう。しないといけない作業がある。立てるか?」


小型バスに移されたシェダルは暫くそこで何か作業を受けることになり、響の車も何か施され場所を移るように言われた。


「バッキングですか?」

響は近くの研究員っぽい人に聞く。

「そうです。」

バッキングとは、メカニックに着けられた追跡や登録情報を外していく作業だ。国に申請なしにすることは違法だが、シェダルの場合シェダル自身が連合国では違法な存在である。いずれにしても国際法に反するし、各種登録情報なしに他国に入ることも違法である。

「大丈夫です。東アジアに許可は取ってあります。」

「……。」

それでも心配気に作業車を見守る。


ほどなくして、作業車からシャプレーとポラリス、そして…シリウスが降りて来た。

追手に気付かれる前に、最初に必要な情報や証拠だけ残して、シリウスの力で一気に様々な登録を解除。



シリウスが静かに響を眺める。無機質な、でも何か知っている顔で。


シリウスは口を開くことはなかったが、響に何かを言っているようだった。サイコス?

響とシリウスに直接の接点はないはずである。モーゼスのお披露目で、一観客として遠目で見ただけだ。


でも、もう…、直接語りかけてくれなければ、どんな声も響は聞くことはできない。

それにシリウスは、アンドロイドだ。



一人作業車から出てくる。

「響さん、彼が麒麟と言っているのは響さんの事ですか?」

「はい。多分私です。」

もう麒麟ではないけれど。


「彼があなたにもついて来てほしいと言っています。大丈夫でしょうか?」

「…はい。」

「なら、私たちと違う経路で…なるべく違う車で第3ラボに来れますか?」

「分かりました。この車はベガスに置いてきていいですか?」

研究員が確認するとよいと言う事で、響は車をベガスに置き、迎えに来てもらうことした。




***




南海のアスファルトが、街灯に灯されて静かに光る。



車を置きにベガスの駐車場に来た響。


帰って服など持ってくるか迷うが、もし泊りになっても必要なものは全部揃えると言われている。でも、何か混乱があった時の為に、データに落としていない論文のメモはなくさないよう家に置いて行きたい。

住宅の近くまで歩きヴィラを見ると、ロディアの家に弱い白熱灯色の光が灯っていて安心する。小さくみんなの安全を祈った。


そして家に入ると、一部の資料を置いて、着替えと基礎化粧品などを詰め込み外に出る。おそらく迎えはすぐに来るだろう。一応SR社に行くので、サッと鏡を見て身なりは整えたつもりだ。



と、家を出て少し進んだところで立ち止まってしまった。


アーツ男性陣の集団に会ってしまったのだ。

あれ?今日なんかしていたの?しかもどういう集団?いつも一緒にいないメンバー同士がいる。


「響先生?」

キファが最初に気が付いた。

「……」

「先生…。久しぶり!俺、生還できた~!!」

ちょっと泣きそうなキファ。振り向いた響はやはりかわいく…そしてキレイだ。

「え?」

「は~。癒し~。響先生…。」


ファクトやサルガスもいるが。一部疲れ切っているし、服が異様に汚いメンバーもいた。

「みんなどうしたの?」

「いきなり事故案件があって、死ぬところだった。いで!」

口止めされているのに余計なことを言うので、叩かれるファクト。


後ろの方にタラゼドもいたので、顔を逸らす。あの日以来、どう反応していいのか分からない。でも答えもない。タラゼドはどんな顔をしているのだろう。この前みたいに笑っているのだろうか。でもそれはそれで、みんなもいるし恥ずかしい。

「…。」


「先生、ベガスに戻ってくるの?休暇終わり?」

「…まあね。」

旅に出ることは言う気はない。

「一緒に飯食いに行こ~!」

「キファ、いい加減にしろ。」

サルガスに叱られている。


そこでSR社のスタッフから響に連絡が入った。

「はい、今行きます。」

「どこ行くの?」

「久々に会った友達のところ。」

「男?」

「妄想チーム以外、男友達はいません!」

「え?俺は違うの?じゃあ俺も妄想チームに入る!」

「え。キファはいらない。」

クルバトが即答する。Aチームの、しかも完全陽キャは妄想CDチームにはいらないのである。


「勝手に入ってて。では、皆様。ご機嫌よ~。」

響はタラゼドの方は全く見ずに、少し先に止まった黒塗りの車に乗って、どこかに行ってしまった。



「男だったか?」

アホな男子が、車にいたのは誰かと騒いでいる。

「男だった。」

SR社のただの社員である。

「マジか?!ヤバいだろ??」

「ふぁっ?」

「お前あれが見えるのか?!目がいいな。」

「でも、女性も乗ってたぞ。」

「…そうか。何なんだろう。気になる。」

「今日はすぐに寝ろ。先も言われたが明日午前は、学校仕事を休むように。ベガスから今日のことで説明がある。」

そう説明を受け全員解散になった。




***




SR社第3ラボは、静かながらもチコが襲撃を受けて運ばれた時以来の騒ぎになっていた。


「まさか本当に来るとはな…。」

年配の研究者が驚きを隠せない。



シェダル。


正体も分からない、チコの肉身の弟が来たのだ。

しかも、世界のどこも知らなかった、違法ニューロス体の完成型。




「一旦、メカニックは連結部分以外全部外しました。四肢とウェアラブルです。」

ウェアラブルは肉体を支える機能だ。メカニックと肉身の力差を補う。

「排泄機能、生殖機能は?」

「触られていません。サダル博士の報告通りです。ウェアラブルも外付けです。」

ウェアラブルはメカニックとの強度や力差を補うため肉身を支えるものだ。

「向こうにも良心があったのか?」

「排泄は健康なら人体に任せた方がいい機能ですからね。」

腸からの下の器官を下手にいじると、障害を持ったりそのまま早死することもある。

「ただ神経系統はけっこういじられている。一部人体器官がめちゃくちゃだ…。何度も触ったんだろうな。」

「そこは閉じた方がいい。」

閉じるとは完全な肉体に戻すことだ。ただ、失ったものはもう元には戻らない。


「皮膚の原因は部品アレルギーか?体質か?」

「それもあるし、多分本人の無自覚のストレスもあるかと。脳が委縮しているし、脳波も揺れています。会話も一見普通のようで…的を得ていないことが多くあります。」

「脳が萎縮……?」

脳の写真や映像を見て、顔をしかめる研究者たち。

「病気か……、先天的なものだと思いますか?」

「…。今すぐに判断は…。」

脳の萎縮がストレスからくるものであったらと思うと、胸を握られるような思いになる研究者もいた。


「………。」

「私たちが言えたことじゃないけれど、どんな扱いを受けていたのかしら…。」

施術を手伝ったミザルもため息がちに言った。




***




リフレッシュルームで待っていた響の元に、スタッフたちが数人現れた。


「あの、彼は…。」

それにはポラリスが答える。

「響さん、ここまでありがとう。彼は今眠っているよ。」

「……そうですか。」

「出会った状況はこちらで聞いています。」

先まで響と話をしていたスタッフが付け足した。


「前に聞いたけれど、医師や看護経験があるというのは…。」

ポラリスが柔らかい口調で尋ねた。

「薬剤師で、看護は学校でです。医師の勉強もしていたし、インターンもしていますが。」

「そうか……。今、彼のメカニック部分を外してある。手足がないので起きた時に混乱すると思うから、何かあったら話してあげてくれないか。後で状況を説明をする。うちのスタッフもついているが、彼が知っている人がいた方がいい。」

「………分かりました。初対面なんですけど…。」

「え?」

「心理層で会っていただけで、お互いの姿をきちんと見たのも初めてです。いつも麒麟やイモリやトカゲみたいなので、この姿は数回しか…。」

「そうなの?!」

びっくりなポラリス。



考えてみたら、響はここにサイコスターとして出入りしていたのだ。自分の能力は消えてしまった。どこかで話すべきだろう。

「…。」


そこに女性スタッフが来る。

「響さん、お話した通り一先ず朝までここにいてくださいますか?」

「はい、今お聞きしました。」

「もう少ししたら、博士たちから説明があると思いますので、その前にお部屋だけ案内させてもらいます。」

その部屋は、設備も備品も星付きホテルと変わりないもので、食事も希望すれば何でも出してもらえるらしい。アメニティーに化粧品すらある。頼めばミニボトルでSR社製品をもらえるそうだ。



そういえばここはSR社。すっかり忘れていたが元々は化粧品会社の老舗で、化粧品・生活消耗品とニューロスメカニックの2本柱を持っている珍しい会社なのだ。シェル・ローズ社の名前の由来は、貝殻にバラなどの練り香料を入れたことから始まる。


正確にはニューロス分野は、ニューロスメカニックと、ニューロスチップの2つに分かれている。

さらに細かく分かれるが、化粧品会社が世界のトップ企業になったのだ。




そして考える。


どうしよう。シェダルのことで、ベガスではなくSR社(こちら)に来てしまった。

シェダルがチコには話してほしくない理由も聞かないといけない。一応瀕死にさせた罪悪感があるのか。


それに、今、自分にはアンタレスでの仕事はない。サイコスもない。

別の仕事をすると言って研究室を閉め、そのくせ仕事がないのにベガスにいて、学生たちに会ったらどうすればいいのか。しかも南海にいるとアーツに会う確率も高くなる。


もしベガスに戻ったら、さよならを言ったのにどんな顔でタラゼドと会ったらいいのか。そもそも、告白してタラゼドからは「俺も…」までしか聞いていない。自分に気があるのか、それとも「俺も……楽しかったです」かもしれない。学生たちへの感謝の話をしていたから。彼らはみんないい生徒たちだった…。



タラゼドさん…。



タラゼド………さ…ん……………



久々の長距離運転の疲れもあったのか、いつの間にか眠ってしまった。



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