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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第二十八章 河漢の龍

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27 ワラビー



しかも完全に起動したのか、ワラビー3機が一度に動き出し、空洞だった上部ドアの部分まで加速して一気に地上に上がっってきた。


ザン!


「は?!!」

「マジか?!」

「飛行型?!!!」

少なくとも40年は前の物だ。今と仕組みが全然違う旧式バッテリーだったら、メンテもなく経年した機体を動かせるとは思えない。しかも飛行型だ。ジャンプ程度だが、吹き抜け空間を簡単に上がれる力があるとは。


しまった、霊性に頼り過ぎたと思うサダル。そちらに集中し過ぎて、既に起動体勢に入っていたことに気が付かなかったのか。アジア側の返答を待つ前に入るべきだったと思う。


しかし、やはり力不足だったのか、ダダーーッ!!!と1機が地上に滑り込むようにどうにか着地。1機は壁面にぶら下がり、1機は上がりきれず壁にも留まれず、そのまま下に落ち地下街部分でズダーーーン!と沈んだ。



地上も状況を悟って大騒ぎになっていた。

「避難しろーーー!!」

民間人であるアーツが庇われ、バイクを呼べるものは呼んでその場を離れる。


地上に上がった機体に潰された者はいないが、ユラス軍はランチャーやレーザーを構えて

「撃ってもいいですかーー?!」

と、ほざいている。

近くに来る前にサッサと撃ってくれ!!ぶつかったり、破片が飛んだだけでお陀仏だ!と、アーツはあれこれ戦慄する。それ以外の選択肢ってなんなんだ?!!


動き出すので、1人がドン!と一発撃ちこんだ。ワラビーは倒れ、その時に何か設置機械にぶつかり電気ケーブルが切断されてしまったのか、バジバジっと電気が走った。

「うお!!!」

だが周りの電気は消えない。安全装置は?!

ファクトたちは、離れてはいるが怖すぎる。



サダルはそれでも冷静にバイク操作の認証をさせ、一台を自動で動かしサルガスに譲った。

「サルガス。逃げられるか?バングルは少し預かる。」

「…あ、はい。」

しかも、恐ろしいことに、サルガスとファクトにジェイを任せて、サダルとアセンブルスはまた地下に入ろうとする。

「えええ???」

「死ぬ気?」



「ファクト、シリウスの番号を送れ。先と同じ普通電話だ。私の名前はhaだ。」

そして、横で動けなくて困っているワラビー2機を無視し、そのまま暗闇のシェルターに消えて行った。同時に数台のユラスが中に入って行く。


「サルガス、先にジェイを安全な場所に!」

ファクトは指示を待ちたいのでここにいるという。

「分かった。ジェイを置いたら俺も近くに戻る。」

「貝君ジュニア。今のhaをさっきの通話に送って。何度か話しをした最新の履歴。」

『お任せください。』

と、表示が出る。なぜか自分のデバイスの貝君ジュニアは、ウチの本家貝君より大人っぽくなってしまった。


が、同時に青くなる。一瞬にして目の前に現れた機体。


壁にいたもう1機が浮上したのだ。

「うわ!!!」



ユラスが打ち落とそうとするが、今の位置だとファクトも危険だ。下に落としたらユラスの人間がいるかもしれない。そして、ワラビーは明確に近くにいたファクトに焦点を合わせ、空から加速した。


「くそっ!」

ファクトは、咄嗟の判断で自分のサイコスを動かす。でもファクトくらいの力では大型のワラビーに何にも役にも立たなそうだ。相手は2トンの機体。


そして、ダン!と段差を降り飛び掛かって来たワラビーを一度だけ避けたが…


もう危ない、という時。


ファクトは走って、先、ランチャーと電気にやられたもう一機の少し近くまで走る。向かって来るワラビーが地上にいること、周りに人間がいないことを確認する。

倒れた機体と距離はそれなりに離れてはいるが「できる」と判断した時点で、ファクトは動くワラビーに向き直った。


そして、そのままの勢いで野球ボールを投げるように大きく右手を振り、自分のサイコスに乗せて、雷のように漏電した電気を掛かってくるワラビーにぶつけた。

「いけーーーー!!!!!!」


この間、数秒あるかないかだ。


物凄い電気がファクトの後ろから前に、ファクトを避けるようにワラビーに向かった。



ダーーーーーン!!!!!



と、光が走って目の前のワラビーが地に倒れた。


この近辺の電気がバジバジいい、そして、一気に停電する。

と、同時にしばらく沈黙し周囲にケーブルを通さない補助電気も入った。



「………」

「ホントなのか…。」

離れた所にいる軍人たちが驚いている。サルガスたちも離れている場所だが、見える所にはいた。

「マジ?当たったら死んでただろ。つうか、近くにいてヤバくないのか?安全地帯はあるのか?」

「………」

ジェイは放心している。結婚してすぐにリーブラを1人にしてしまうのかと思った。



地面からなのか、機体からなのか、ジジ、ジジ…と、音がする。今、サイコスを解いてはいけないことを感じ、ファクトはしばらくそのままにした。まだここの電気の大元も分からない。



少し経ち、近くで音がしなくなってから、電気を調べながら近寄って来るユラス兵。最初に東アジアの男性型ニューロスが駆けて来てワラビーの状態を確認している。

地下の商店街の階で蠢いている機体もニューロスが処理していた。


「ファクト?大丈夫ですか?」

「…あ。」

聞き慣れた安心する声。カウスだ。


「大丈夫っす。この辺の電気は?誰か怪我は?」

「今処理しています。一帯が停電したみたいですし。今のところ怪我の報告もないです。」

「そっか。…よかった。」

安心して座り込む。


「…でも、何をしたんですか?あれ。」

ファクトは自分の膝に顔をうずめたまま、手だけカウスの方にピースした。

「人間避雷針!…。」


「え?」

と、青ざめるカウスと近くに来た同僚たち。

そして、ファクトは少し疲れた顔を上げ、ニンマリする。

「お迎え放電!…かな?」


あの辺りにあった電気を誘導してワラビーにぶつけたのだ。よく分からんが。


「……よく三途の川にお迎えされませんでしたね…。」

「…ユラスにも三途の川があるの?」

「さあ。でもみんなトンネルのようなところはくぐり抜けるそうです。」

「はは。そうなんだ…。」


「でも、自分死ぬと思わなかったんですか?」

「俺以外マイナスってことを念じた。」

「は?」

「俺はプラスで、ギリギリまでプラスで、あいつらが来たら…マイナス!みたいな。」

「え…。」

「ああ、あいつらって、あの電気ね。」

「えええ?!」

怖すぎる周囲。

「あれ?違うっけ?マイナス?プラス?逆だっけ?」

混乱している。サイコスは半分以上は勘で使っているのでファクトは分からなくなる。正直感覚でしていただけだ。

「…まあいいや。どっちでも。とにかく、自分の周りの空間を狭めるイメージをして、電気(あいつ)を引き寄せてからバイバーイみたいな…。周りに電気がいかなくてよかった…。」

全部勘なので、下手をしたら周辺が道連れである。


「…………」


呆れ返っているカウスたちであった。




***




一方、ベガス郊外。



響は、運転席の外に立ったまま、両手を背中で抑えられ運転席のシートに顔を横向きに押し付けられる。


「麒麟。なんで来なかった?」

「…呼んでいたの?」

「何度も呼んだ。」

「抵抗はしないから………。うまく話せない…。放して…。人も来るよ。こんな事したら………」


「ダメだ。」

「…大丈夫。私、使えないの。今。」

「何をだ?」

「サイコス。」

「……サイコス?」


自分も使っているのに、やはりシェダルはDPサイコス持ちだと気が付いていない。


「心理サイコスのこと。透過やテレパス、テレキネシスとかじゃない。心の層に関わるサイコス。サイコスは分かる?超能力。」

「…………」

「力がなくなったから…。今、あなたの世界に行けないの。」



それを聞くと、シェダルはそっと響を放した。


ゆっくり起き上がって、立ち尽くし動かないシェダルを見る。

チコと同じくらいの背、雰囲気。


フードを被っているが、見えるのは吸い込まれそうな、綺麗な黒い、灰色い、光の無い目。


でも、肌がもさもさした感じで赤い。既に今日、一皮むいてしまったのか。よく見るとひどいアトピーだった。頭を押さえていた手も皮膚がガザガサで、指の関節や皮膚の皺に沿って皮膚が割れている。手はもさもさというより、テカテカガザガサしている。


「…大丈夫?痛い?」

「うるさいっ…。」

手を前に出してきたシェダルに響は怯える。チコやファクトに簡単に重傷を負わせた男だ。

「お願い!殺さないでっ。」

「…殺す?お前は死ないだろ。」

「…?私だって死ぬよ?」

「麒麟になればいい。」

「…。」


響は、目の前の男が何を言っているのか分からない。何かの比喩か、能力的なことか。

そうでなければ…精神性が未熟なのか。


「………人は誰だって肉体が傷付けば死んでしまうんだよ。…そしたら、もう普通に麒麟にはなれないの………」

「……」

「チコだっていなくなってしまうかもしれなかったでしょ?それに肉体は麒麟にはなれないよ。」

「……………」

ほとんど車は通らない道だが、何台かの車が邪魔そうに通過する。

「一旦もう少し横に移動しよう。ここは路肩で危ないから。」



ドクン、…ドグンっ!

「う…。」


するとシェダルは顔をしかめて少しうずくまる。



「大丈夫?!」

思わず肩を支える。

シェダルはそのまま体を崩しそうになるが、こんな目立つところで倒れられたら困る。一般に見付かってはいけない人物だろう。おそらく通り過ぎた車体カメラには映っている。響は後ろのドアを開け、少しシートを倒すようAIミーラに指示を出した。

「乗って!」

引っ張って乗せようとするが、手を軽く弾かれる。


「…どこでもいい。連れて行ってあげるから。乗って!誰かに会いたくてここに来たんでしょ?」

「…。」

顔色が非常に悪い。

「どこに行きたいの?約束する。あなたには何もしない。」


「シェル…SR社に…。シャプレー・カノープスのところに…。」


響はシェダルを無理やり押し込んで、乗せてあった毛布を被せてあげる。おでこを触るとかなり熱い。

「どうやってここまで来たの?」

「今回は…バイク。その辺に捨てた…。」

今のデジタルバイクは必ず本人の元に戻るが、盗むことも難しい。デジタル承認解除の技術を持っているのか。それでも短時間で乗り捨てないとすぐに足もつく。ガス系の燃料だとアジアラインから来たとして、給油などがいるため、基本、支払いの時点でこちらも足が付く。


「チコ・ミルクには知らせないで…ほしい…。」

拘束されるとこを心配しているのもしれない。


「うん、約束する。ミーラ、SRの第3ラボにナビを。」



響は初めて直通の電話を掛ける。



シャプレー・カノープスに。




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