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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第二十七章 山裾の輝き

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22 尊い君だから



サンスウスの研修は終了。


ベガスに帰って寮のフリースペースでサンスウスでの教育実習のレポートを書きながら、ファクトは椅子に座ったまま背を逸らした。


「………。」

天井を見ながら考える。また余計なことを抱えてしまった。


あそこでムギやアジアライン共同体に会ったこと、しかもテニアまでいたこと。これはチコへの報告事項なのか。アジアラインとベガス、東アジア、ユラスはどこまで関わっているのか。



一応、サンスウスで会ったことを、ベガスでは話さないようにと言われている。


でも考えてみれば、ベガスの誰に?全員?アーツ?チコ?ユラス軍?VEGAは?

ムギとテニア以外、アジアライン共同体は町民や狗賓(ぐひん)スタッフには顔も出していない。ムギやテニアもあの時は着込んでフードも被っていたので、顔もそんなに分からず、旅先の知り合いくらいにしか周りは思わなかっただろう。2人は親子と思われ、子供で女の子のムギがいたから周りも安心していたみたいであった。


チコに探りを入れて、それから報告をするか、エリスかカストルに話すか…。ムギに聞いておけばよかったと思う。どこまでチコに報告していいのか。とにかく何でも報告!と、かなりチコに叱られている。


でも、次の日彼らには会えなかった。


ニッカはどこまで知っているのだろう。

「…ニッカに聞くのが一番かな…。」

アリオトは、あまりニッカを巻き込みたくない感じもあったが。




もう一つ気になること。それはムギが非常に痩せていたという事だ。


大き目のスエット、少しアウトサイズのボトムを着ていると一見分からないが、頬もこけていた。チコに話したら即帰省させられる域だ。

もしかして断食?


熱心な仏教徒や聖典信仰者は、いわゆる修道や本懐を果たすため、俗世を切り離し身の鍛錬や願掛けの為に断食もすると知ってはいる。が、聞いてみると修道者も、体が未成熟な未成年にはさせないし、健康を守れないようなことは絶対させないらしい。

昔の仏教のように生き仏は捧げないし、時々精神や身を崩したり、亡くなってしまう人がいるのは、僧や牧師たちの言う事を聞かずに勝手に進める場合だという。やめろというのに、海を割った預言者のように自分を思い、長期の断食を連続数回もして死んだりする人もいると聞いた。自分もその預言者ほど、神の使命と加護を受けていると勘違いするのだ。

荒行は高位牧師や高僧の保護と監視のない場所では絶対にしないように言われている。


多くの人は勘違いしているが、神は生きた人間の、生きた心を必要とするから、鍛錬はしても神から死に至らせるようなことは絶対にしない。


神から、神に連なる己を死に至らしめることは聖典にもないのだ。全体を、前後事情を正確に読めば分かる。


もしムギが勝手にそういう事をしていたら…と心配になる。

ムギなら思い詰めてしそうだ。目の前に釈迦がいたら、死ぬことになっても一緒に荒行をするタイプであろう。周りはそういうことをさせる人たちには見えなかったけれど、ファクトにとっては知らない人たちである。


それとも、もし病気だったら…。

心配が尽きない。




***




「…次は誰に結婚してもらおうかな…。」


恐ろしいことを言いながら、名簿を見ているのはチコである。


アセンブルスが結婚したのがユラスで想像以上に話題になり、ユラスで結婚式を挙げなかったのも軍の内々ではかなりブーイングらしい。こっちでも披露宴をしろと。


「ふふ、あいつら好きなだけ騒ぐがいい。こっちにいれば、何も影響はない。」

ドヤ顔のチコに、呆れる周囲。

「あまり向こうを煽らない方がいいですよ。」

「そうですよ。向こうもバカじゃないんですから。」

「知るか。…レオニス、今度はお前だろ!」

「やめて下さい。」

「何がやめてだ。クラズも説得した。」

「え?!」

「マジっすか?!!」

周りが騒ぐ。


最も体格のいいクラズは夜勤だったので今はいない。

「当たり前だ。さっさと結婚しろ。お前らが子孫も残さずに死んだら、またユラスが大騒ぎする。」

「クラズは誰となんですか?!!」

「余計なことをしたら相手がドン引くだろ。そっとしておけ。」

「………」

固まっている忠誠の塊、レオニス。


「あと、バイルガルとザークナイも…。」

「はああ????!!!」

一同はあまりに驚く。2人は表には出てこないが、ベガスにいる特殊部隊42部隊の人員である。ザークナイも地方軍にいた時に、チコに憧れていた一人だ。かわいそうに。いい潮時だと思ったのだろう。よく見てみれば、恋焦がれるには大房のオバちゃんだし遂に決心がついたのか、現実に気が付いたのか。



「マイラ…。」

「チコ様、しつこいです。」

「名前を呼んだだけだろ。」

「……。」


「チコ様、他人にどうこう言う前に、ご自身の夫婦関係をしっかり確立してください。何度も言っています。」

アセンブルスがチコを止める。

「だから良好だろ?良好と言えば良好なんだ。」

「………。」

全く連絡し合っていないのはみんな知っている。仕事の話すら全部他人を通している。



「…なんていうか…。アーツみたいなのと結婚してもよかったな…。」

「っ?!」

いきなりの爆弾発言に、ただ反応できない周囲。

「はい?」

「は?!?」


「…ほら。私は自分それなりに身は守れるし、ちょっとどんくさいDチームを見ているとなんというか、支えてあげたいというか。不器用でも頑張ってるから!

…考えてみれば、あいつらアスリート並のメンバーの中で筋トレも頑張って来たんだぞ。」

ABチームはほぼアスリート、格闘家である。ただし、教官のいないところで妄想チームは脱力しまくっていることを、教官たちは知っているが。


「サダルは周りの人材も濃いし、基本私が支えなくても人選豊富で自由だろ?私は護衛くらいしかできることがない。でも、議長夫人が護衛をすることもないだろ。他に向いている人がいるし。」

まだ言うのか、この人は。

頭はいいので、できることはいろいろあるはずであるが、脳内に夫人としての仕事を果たすという作用部分はないようだ。自分の結婚には思考が働かないらしい。


分かったことは、この人は女性として愛されたいとか、支えられたいとか支えたいとかそういう考えが全然ないという事だった。強く、逞しく、誰かを支えたいのだ。毎度ながら分かってはいたけれど。


ただしつこくあれこれ言いきかせているので、議長夫人の責任たるものが存在しない訳でもあるまい。脳の伝達回路を正しく結び直してあげたいと思うベガス駐屯。

「マイラ。幻滅する要素が多くてよかったな。ウチのボスが本性の根の根まで現し始めている。」

「……。」

カウスが小声でマイラを慰めておく。



「あと、ワズンにも言っておいた。」

「…何をですか?」

嫌な予感しかしない。

「結婚するまで、ベガスに顔を出すな!と。」


あー。本当にこの人はどうしようもないと思う皆さん。


「でも、出さないから安心して下さい、と言われた…。ムカつく。」

「人の結婚をコントロールしようというところで間違っています。」

「ユラスの親族よりはいいだろ?!私は最終強制はできない。

それにしても、サダルはバカだな…。私なら、ソライカでもディオでもマルベルでもダーエでも幸せにしてあげるのに…」

「………。」

10年近く自分を罵り、平手打ちにして怒鳴り込んできた女性たちである。マルベルとディオは途中参戦の若手だが、チコにはかわいい妹分にしか見えないのである。平手打ちした女性すらかわいく見えるとは、もう男の中の男以上の男である。

ここまで来ると、立派としか言いようがない。何の性癖か。


「これをジョアに見せてあげたいですね。」

「ジョアよりジンズだろ。弟の方が真面目な上に純粋だ。この人ユラスのオバちゃんより強烈だぞ、と早く知らせてあげたい。」

みんな言いたい放題である。




「そんな、おバカな人のご壇上です。」


「っ?!」

久しぶりの声に思わずドアを見るチコ。


「……。」

バカと言われたのに、無表情な人がそっちにいる。

久しぶりの側近と一緒に入って来たのは、サダルその人であった。




***




「あの、テニアさん。あのペンダントの…。石の事ですが…。」

サンスウスを出発して南下していたアリオトは、車内でテニアに聞く。現在3台で山中を走っていた。



身内の物ならまだしも、拾った人骨を妹が身につけているのはさすがに落ち着かない。

「妹さんはギュグニーから来のか…?」

「……そうです。」

テニアは静かに何か考えている。


「テニアさん、『獣道』の話は知っていますか?」

「獣道…。言葉は聞いたことがあるが、内容までは。」

アリオトがゆっくり話しだす。

「ギュグニーの民間でひそかに囁かれている話で、亡霊の示した獣道を通る者は、必ず亡命に成功するというものがあるんです。妹はそこを通ってきました。既に440人ほど亡命したところで、獣道の話は聞かなくなったそうです。」


「その場所は?」

「ギュグニー南のユラス側に出る方と言われていますが、皆記憶も朧気で、ユラスで保護される時には既に場所を離れていたりして、明確に分からないこともあるそうです。後にフェンスや壁を調べたそうですが穴もないし…。」

ただフェンス周りはギュグニーもいるのできちんとは調べられない。

「…ギュグニー側は?」

「獣道の話が知られた時点で埋められたのか…。」

「でも、そんなに亡命する前に分かるだろ?」

「…向こうもそれまで朧げだった可能性があります。」


「…霊性や空間の強い歪みか……………サイコスか?」

「その可能性があります。」


「テニアさんはなぜ妹がギュグニーと分かったのですか?」

「…あまり覚えていないのだけど…懐かしい感じがして…。私の家族といた女性の気とよく似ている…。あの石かな。」

「サイコメトリー…?」

サイコメトリーとは、場所や物に残る記憶や記録を感じ取る能力だ。

「さあ。人の記録しか見えないから、サイコスというか霊性の方かもしれない。多分、霊そのものに反応している。」


「妹から預かっておけばよかったな…。」

「妹さんの石は持っていた大き目な物の欠片だって言っていたな…。現物があったら預かれるか?」

「そうですね。テニアさんの身内の可能性があるという事にして聞いてみます。」




ムギは長い移動で、後ろで眠り込んでいた。


実はムギが痩せたのは、緊張や忙しさで食事が喉を通らなかったからだ。ファクトが思うよりは、ムギも現代人である。忙しいのにそんな意味もなく荒行はしない。


女性は、男性と違ってトイレだって気を遣わないといけない。小柄なので周りよりトイレも近い。ここで動く9割が男性だ。現在は2人女性がいて、1人は言語と外交専門の職員、1人はアジアラインの兵士である。


ムギは最初の頃のメンカル侵入中に、生理になったことがある。

熱帯に近い場所で真夏。2週間近く水も浴びれず、膀胱にも菌が入り熱も伴うひどい炎症になってしまった。山岳地帯の出身のため、熱帯をよく把握していなかったのだ。大人のように状況を管理しきれず、不便を我慢して体の管理もできなかった。


ムギも不調を言わなかったし、同行した女性は生理がほとんどなく、そういう状況や症状がこれまでなかった人だったため、炎症を起こすまで気が付かなかったのだ。病院に運ばれた時は医師に叱られ、こういうことで症状が癖や慢性になり、不妊に至ることもあると知り、その女性もムギの回復まで半泣きだった。

男性でも熱帯は危険だ。傷一つ、飲んだり浴びたりした水1つで何があるか分からない。


それからムギは、少し環境を変えれば生理が来なくなりやすい体質と分かり、アジアラインで動くときは、そんな頃を思い出し勝手に緊張する体を逆に利用しているのだ。



寝ているムギを見てため息をつく。

「…。」


アリオトは、これを機会にムギにまた休息をとらせるつもりでいる。


ただ、どうしても今回だけは計画を進める。


今までありえなかったこと。

メンカル側の一派から打診が来たのだ。『(あか)』その人か、その使者に会いたいと。




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