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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第二十七章 山裾の輝き

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21 流れる天の川



次の日の授業は大成功であった。


その日は3チームに分かれて、小中高学年を代わる代わる担当。

朝早めに登校し、通いの先生たちと打ち合わせ。


ここは西アジアの西の西だが、東洋仏教の強い地域なのか、朝礼は線香を焚いて『観音様のお歌』を歌い、手を合わせて黙想をする。ファクトは歌は東邦仏教と似てるなーと思う反面、仏像など設置してある本尊は派手派手という事に違いを感じた。静かな町なのに、町一番のマートより派手だ。


ちなみにアンタレスは東洋仏教でもいろいろ入り混じり、大房にあるお寺の多くは派手派手である。多分、大房民の性格上大人しいものは合わないのだ。




朝礼後、簡単なリクリエーションで自己紹介。

共通語、漢字、理科など担当し、合同授業はこんな田舎だけれど交通安全教育。


それから今回は、教材となる食材を学校の冷蔵庫に入れさせてもらい、食べ物を扱えるスタッフも呼んでいる。学年をバランスよく交えて班分けし、午後は持ち込みの材料でケーキのデコレーションをした。小さめの物も作りそれはみんな1つずつ持って帰れる。点呼、準備、表への書き込み、お供えもし、先生や隣の役場に振舞う。食べる、ゴミ分け、片付けまでする。


「ファクト先生、へったくそー!!」

ファクトの描いたデコレーションの虎があまりにも下手なため、みんな大騒ぎしている。

「みんなも下手だろ!」

「先生なのに、小さな生徒にそんなこと言いわないの。上手だよ。」

ニッカに怒られる。ソラやラムダは狗賓(ぐひん)の学生たちと、小さな子供たちを手伝っていた。なぜか大きなイベントになってしまい、入学前の幼児たちもみんな来たのだ。小さい村や町だと、イベントをする際近所の人が来ることもあるので、食べ物をふるまう時は少し多めに準備するらしい。外部人がたくさん来たというだけで珍しいのだ。イベントと言ってもただの授業なのだが。


意外にも男の子たちは、チョコペンやポイップでゲームキャラを描いていて、親近感ハンパない。


「これキレーだね!」

「ハートやお星さまもあるよ!」

ソラはトッピングをして、キラキラを振りかけている。隣にいる男の子は、全部銀ピカにしてしまった。銀のキラキラがなくなって、さらにその横の女の子のが泣いている。高学年のリーダーの女子が、思い通りに下級生を指揮できず泣きそうなのでみんなでサポートしながら進めた。カオスである。


高学年は4人しかおらず、最後の片付けはてんやわんやで、最終的に学生たちが洗い物などすることになった。時間が無くなり、子供たちの感想や反省点は家での宿題となった。




「めっちゃ疲れた…。」


こんなたくさんの子供に囲まれたことのないソラは死にそうだ。学級担当が1人しかいないクラスの先生はすごいなと思う。

「子供たちも、お兄さんお姉さんスタッフが多いと甘えるから、普段はまた違うんだよ。」

河漢クラスの方が何倍も子供が多いが、子供が少ないと苦労がまた違うのだ。

「地域によっては、生徒が100人、200人いたりするし。結局全学年300人ぐらい集まったこともあったかな。ここの子たちは静かな方だよ。」

ニッカが笑う。


「えー。信じられない…。そんなに集まって何したの?」

「駆けっこ!学年混合チームを作って、腕のリボンで色分け。10人ずつどんどん走らせるの。3等までと優勝チームにはお菓子を余分に1個!みたいな。もうそれしかできなかった…。」

「ははは。」

想像できない状況に笑うラムダ。教育というか、お祭りである。


「人数が多いとゴミの回収も大変だしね…。リボンは少しいいのを買って、何度か使い回ししてる。」

「楽しそう!」

何でもウキウキなのはファクトだ。

「こういう時は、教育専攻だけじゃなくて、いろんなスタッフを募集して、事前準備もすごいよ。」

「…もう奇跡の大イベントじゃん…。みんな保険に入ってもらわないといけないし…。」

「はは。だから、普段は全体告知なしで小規模で1、2クラスに絞ってするよね。でも、そうすると後で他のクラスにも来てほしいって学校もあるからそれもそれで……」

重要な点は、これを現地の青年や学生と企画開催するという事だ。その地を作るのは彼らなのだから。



そこで声が掛かる。

「皆さんお疲れさまでした!後は夜ですね。この天気なら大丈夫かな?寒いのできちんと着込んできてください。」

夕方5時、リフレクション終了後、狗賓(ぐひん)のリーダーがみんなをねぎらってくれる。この日はホテルの食堂でスタッフ全員で食事だ。その後、天気に問題がなければ、児童たちと理科の時間に学んだ星座を運動場で見る。山に隠れて見えない部分があるのは惜しいが、東や上空ならいくらか星座が見えるらしい。




日も暮れて、少し冷えて来た時間。


遠方や親が参加できない家の子供たちをスタッフが車で迎えに行く。


「この時期、この辺りは一気に日没になるんです。この前まで夜9時前まで明るかったのに。」


必要以上にモコモコに着せられて、よちよち歩いている子もいるし、少しだけいる中学生も出て来た。

「せんせい!ケーキおいしかったよ!」

「あのね、おにいちゃんがいっぱい食べちゃったんだよ…。」

と、泣き出す子もいる。親に確認したら、ちゃんと均等に切ったらしい。


到着して街灯の届きにくい裏に回り、点呼を取ってから、職員室などの電気も切ってもらう。


するとそこには、満天の星空があった。


「わー!」

「キレイだねー!」

「先生!あれが白鳥座?」

「…うーん。レアで分からない…。」

藤湾組の知識は、北斗七星、オリオン座、カシオペア座くらいだ。一応調べたから、北斗七星に似ているこぐま座も分かる。が、それすら見付からない。

「そうだよ。白鳥座だよ。」

ニッカが指を指して微笑む。


「あれペガサス?」

「あっちの双子座!」

「カシオペア!ダ~ブル!」

アルファベットを習ったばかりで、Wがツボらしい。

「こと座だ。」

「地味なの知ってるな…。」


「ねえ、先生。シリウスは?1番明るいんでしょ?」

聴かれるがソラは分からない。

「ねえ、ファクト知ってる?」

「今は見えないかもな…」

多分、季節じゃない。


シリウスか………。ここまでついて来るとは…。と思ってしまう。



指さす満天の星を見ると、小さな北斗七星、小熊座が見えた。北半球では一年中みられる。


「先生、星って北斗七星とか南斗六星とか、小北斗七星とか柄杓が多いんだね。」

「…そうだね…。」

「何で?」

キタキタ。子供の「なんで?」攻撃。


「何でだろ?君が大人になるまで一生懸命勉強すれば分かるよ。」

何となくカッコいい返答をしておく。

「先生知らないんだね…。」

「………。」


「あ!よく見ると流れ星がいっぱい!」

「流星群のニュースがなくても流れ星ってこんなにすごいんだ!!」

ソラとラムダが感動している。きれいに見える場所では、普段から流れ星が輝くのだ。


ファクトは目の前の山で見えない西を眺めた。

西の、この山の向こうのさらに大きな山脈の向こうに行けば、ニッカの家があって、そして射手座の南斗六星が見える。


柄杓…匙…



…チコじゃん。


チコ・ミルク・ディーパ


『ミルクディッパー』………


………。


チコの名前って…ミルクさじ。

赤ちゃんのスプーンのミルクさじから来ているのかな?と、ふと思った。




「あ!ムギ!」

ニッカの嬉しそうな声がする。その名前は禁句なのだが。


「リン~!」

ソラが抱き着く。

「もう!」


「ムギ。この歳でこんなに痩せてたら駄目だよ…。生理止まったりしてない?」

小さい声で心配そうに聞く。

「大丈夫。」

そう笑ったが、実はもう既に数か月止まっている。今動くならその方がいい。元々不定期だが、基本健康だ。

「ソラたちは明日帰っちゃうの?」

「一緒に帰る?」

「もう少しここでミーティングがあるの。」

「…早く帰っておいで。おいしいもの奢ってあげるから!」


「みなさーん。集まって下さーい。」

リーダーの呼びかけで、みんな集合した。

「覚えた星座や星は見えましたか?」

「はーい!」

「じゃあ今日は終了です。全員家に帰ったら帰宅報告をしてくださいね。飲み物とパンを貰って解散です。」


ファクトとリゲルは違う家に向かうが、兄や姉について来た眠たそうな子をそれぞれおんぶして行く。ムギもファクトに着いて行き、テニアも少し離れながらこの集団に着いて来た。遠方の子やその親はたちは、運転ができるスタッフが送って行く。



それぞれ無事送り返し帰り道を歩いていると、ニッカとラムダ、そして他の学生組にも会った。リゲルとソラは先にホテルに着いたらしい。

「僕たちは事務所に戻りますね。今日はお疲れ様です。暗いので皆さんも早く戻って下さい。お休み!」

「おやすみなさーい!」

狗賓学生と分れる。山裾とは言え、山岳地域なので暗いし危ない。レフレクションは明日になる。



「ねえ、リンちゃん。」

歩きながらファクトはムギに声を掛けた。

「……。」

「リンちゃんはいつも何をしてるの?学校行ったら?ソイドがホント心配してるよ。」

「…もう留年でもいい…。」

ブスッとした顔をする。


テニアを護衛に付けるほどの仕事ってなんだろうと思う。

ラムダとニッカは黙って後ろをついていく。


「リンちゃんは…どこに行くの?」

「…どこ?」




どこに向かっているの?何に向かって生きているの?


「私は…。みんなが当たり前に安全と自由と、それから高い精神性や神性を持てるところまで………


歩いて行くんだよ…。」


どこも見ていないような顔で、まっすぐ向いてムギが言う。

細い足が、かわいいやキレイを通り越して痛々しい。今ムギのいる側に、体調を見てあげられる女性はいるのだろうか。



「………。」



正直、


正直言おう。


ムギはかわいいと思う。

いつからか分からないけれど、いろいろ支えてあげたいと思うようになった。チコに追いつかなくて、小さな手でもがいて、一生懸命生きている。


でも、ムギが見ているものは、チコたちが見ているものと同じものだ。

戦地から這い上がって来た、そんな強さ。そんな人たちが見る展望。



自分はそれを送り出す……。


それができるだろうか?

今握りしめることのできる手がある。やめろと言える口もある。


でも………

自分も同じ方向を向いた時…。



「………。」

「ファクト、なんだ?気持ち悪いな。」

「戻って来たら健康診断した方がいいよ。」

「だから何?健康だって!」

「響やチコが見たら泣くよ。」

「…え?そう?」


心配になってムギはニッカを見た。

「…そうだね。もう少し食べなさい!食べて太らないんだったら病院に行かないと。それこそヤバいよ。」

後ろからニッカがムギの肩を掴む。

「これ以上痩せたら強制的に帰宅だからね!」

「…はあ。」



ファクトはテニアの方に行く。

「テニアさん。リンの護衛なんですか?」

「………まあね。」

護衛と言ってもほぼ兵士だ。


「あの子、チコの大事な子なんです。」

「………そうなのか?」

「はい。」

「俺も詳しいことはそこまで聴いていないから。リンがベガスから来たことも知らなかったし。」

「あの子と響っていう人が、チコがベガスに来て初期からの友達みたいで…。」

ムギが何をしているか聞きたいが、テニアも仕事のことは話さないだろう。


「あの、お願いです。」

「………?」

「ムギには人を殺させないでください。」

「………。」

「それから、倒れないように見ていてあげてください…。健康に帰ってこれるように。」

「ん。…分かった。」



星が輝く夜空には…

薄っすらと天の川が流れていた。



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