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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第二十七章 山裾の輝き

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20 あの場所にあったもの

※人骨の話など出て来ますので、苦手な方はご注意ください。



『ZEROミッシングリンクⅠ 始まりの音』のプロローグを一部変更しています。


また、カクヨムにてⅠが完結しました。そのため、これからⅡを修正しながら移行していきます。カクヨムさんは読者がい誤字正誤性を直しながら、今後もマイペースで移行していきますのでよろしくお願いします。



「へ?ファクト?ラムダ??」


「え?ムギ?なんで?」

「待って!」


急にムギが乗り出して、小声で止める。

「待って!私、ここでは『リン』!リンなの!」

「は?」

「『リン・ハー』!」

一応小声で答える。

「え?変装ごっこ?」

「違う!とにかく『リン』なの!」

「…。」

「分かった!リンちゃん!」

「うげっ」

ファクトがチャン付けで呼ぶと、出会った頃のようにイヤそ~な顔をする。


一応、アジアラインの昔からの同志には本名を知られてもいいが、念を入れるムギ。


「リンちゃんか…。かわいい名前だね!」

ラムダが楽しそうだ。そして気が付く。

「…リンちゃんをこんなに近くで見たの久々だけど…。痩せたね。それに背、僕と変わらないね…。」

心配と残念が入り乱れるラムダである。下手したらムギの方が高く見える。



そこに少し離れた所から、じっと眺める一人の男。メガネをしてストールで口まで覆っている。

「………。」


「あ。」

その男を見てファクトは信じられない顔をする。

「…お父…さん?」

「は?」

なんだそれは?という顔のムギ。


「…やっぱ分かるのか…」

「そんな!分かるに決まっています!お父様!!!!」

え?え?という感じのムギとラムダは二人を交互に見る。


「おじさん!」

「よう鳩!やっぱお前だったか。」


そう、チコの父こと、テニア・キーリバルであった。


「ずっと、お前の声がしているから、まさかとは思っていたが。」

「そうですか?俺は全然気が付かなかったです。」

多分、サイコスか霊性で読み取っていたものだろう。ファクトは今回、明日の授業のことで気持ちがいっぱいでムギやテニアのことは分からなかった。


そこに戸惑ったムギが入ってくる。

「あの…お二人はどいう言う関係ですか?お父さんって…。」

「いろいろあって父です!」

「は?」

「アンタレスの義息子だな。」

「はあ???」

ラムダもムギもさらに???になる。


『娘のことは言ったらダメなんだろ?』

小さい声でテニアが聞く。

『そうですね。まだ解禁前です。』

『俺も、仕事中だからあんま深入りできんかも。』

傭兵をしていたと聞いたので、依頼で護衛とかだろうか。ファクトはグッドサインで返す。


内緒話までして、めっちゃ仲良しだ。


「リン…?そちらは?」

そこに、北方系モンゴロイドの青年が入って来た。骨格がしっかりして目も細いが、今時の顔立ちの整った顔の男性だった。


「あ、あの。東アジアの知り合いです…。」

ムギが戸惑いながら言い、男性はテニアにも尋ねた。

「テニアさんとは?」

「あ、私も観光で偶然知り合った子だったんだけど。なんか気が合って、すぐ仲良くなって。」

テニアが少しだけ仕事モードで答える。


そんな偶然ある?しかもこんな辺境の地ででみんな出会う?と一同思う。


「…そうなのか?学生さんたち?何か合宿とか?」

「僕たちは、教育実習です。ここの小学校に。」

ラムダが答えると、ムギが気が付く。まさかここでの教育実習なら…



「兄さん…。」

同じくラウンジに飲み物を淹れに来たニッカとソラであった。

「…ニッカ?」

今度はその青年、アリオトが驚き、周りも「えええ???」という感じだ。ムギはアーツか藤湾の企画にしても、教育実習ならニッカも来るのではと感じたのだ。ニッカはアジアラインでも教育活動をしているからだ。そしてやはり会ってしまう。


「え?え?ム…」

そこで、ムギが素早くソラを抱きしめる。

「ソラ!!!!」

そして、小声で言う。

『リン!ここでは「リン」でお願いします!ニッカも!』

「あ、はい。リン…?」

圧倒されるソラ。でも、ソラはそれどころじゃない事に気が付いてしまう。あまりにムギの腰に肉がない。


「…あの。お兄さんって?」

ラムダが不思議がる。

「あ、私はニッカの兄のアリオト。ザイタオス・アリオトと申します。」

「ええええ?????」


そう、ややこしいことに、リンと呼ばれるムギはファクトたち藤湾学生と会う。

ムギの護衛テニアは、義息子ファクトに出会う。

そしてニッカは自分の兄、アリオトと出会ってしまった。


みんなアジアラインやベガス、ユラスに縁があり、そこで動いているのでなくはない事ではあるが、そうは言っても大陸は広い。こんなこともあるのだな、と感心してしまう。





アリオトの部屋で少し話をすることになり、リゲルも呼んだ。3人部屋だがこれだけいるとかなり狭い。


ムギはファクトたちに、教育や生活、自治運営を話し合うアジアライン共同体の同志だとアリオトたちを説明する。たまたまサンスウスが故郷のメンバーがいて、ミーティングがここだったらしい。ファクトたちは東アジアの近所の友人同士だと答えた。テニアだけは少し離れた壁際で立っていた。


「ファクト、おじさんはいいの?」

ラムダが立っているおじさんに申し訳なく思う。

「おじさんは仕事だから。」

「アジアラインを移動しているからね。護衛をお願いしているんだ。」

アリオトが言った。アジアラインが不安定なのは知られているし、軍人や警官だらけのベガスで慣れてしまって護衛という言葉に疑問を持たない学生一同。山側に入ったら一気に情勢が不安定になるのだ。


「リン。ソイドが中学留年になるって心配してたよ。」

「うぅ…。でも、こっちでも通信教育してる…。」

「ウヌクもチビッ子が逃げたとか言ってた。勝ち逃げしたって。」

「はあ???」

ちょっとムカつく。

「何でいちいちリンを煽ることを言うんだ…。」

リゲルがファクトに呆れる。


「でも、まさか、ニッカのお兄さんに会うとはね。」

「こっちもびっくりだよ。」

ただ、一同思う。二人は全然似ていない。

アリオトは完全な北方系アジア人。ニッカは肌が薄褐色でどちらかと言えばユラス人ナオス族といった感じだ。サダルやカーフのように、突然の人種変異みたいな感じだろうか?でも何だろう、そういうのを越えて似ていないのだ。なんというか違う。


「ニッカは混血なの?」

ここで生粋の高校生ソラが聞いてしまった。片親が違うとか貰い子とか、複雑な事情もあるだろうからみんな黙っていたのに。

「…。」

一瞬答えないが、ニッカは静かに言った。


「私は孤児で、施設からザイタオス家のお爺様に引き取ってもらったんです。」

「…あ…。ごめんなさい…。」

さすがにソラが聞いてよかったのかと申し訳ない顔をする。

「大丈夫。ユラスやアジアラインにはそういう子が多いんです。それに私、とっても幸せだったから。」

ニッカがそう微笑むと、アリオトも笑った。


「祖父と父が地元では集落の長を務めていて、他の家よりは人もお金も余裕もあったから、これまで4人預かって結婚や大学まで送り出したんだ。3人は男の子だったので、母と祖母の希望で条件に合う子がいれば今度は女の子にしようと。」

「条件?」

「私たちの故郷は先進地域じゃないからね。場合によっては住まいも移動もするから。健康な子しか連れて行けないし、朝は日の上る前から早く起きて家の手伝いもしないといけない。多少厳しい環境でもいいかという事で…。

でも、最近故郷も情勢が揺れて来たので、一度安全な場所にニッカを送ってあげたんだ。」

「へー。すごいなあ。」

ソラにとっては新しい世界だった。

見知らぬ子を預かる。そして、生活は北西アジア寄りの文化だがユラスの考えも根付いていて、どんな環境でも、誰の子であっても子供たちに教育を提供するという精神がここにも生きていた。



ニッカは、昔を懐かしむように首から下げていたペンダントを取り出した。そして美しい植物の掘られたロケットの隙間から見える、象牙色の石を眺める。


「それは?」

「生まれた国から最後に持って来た軽石です。」

必死で状況を越えたためあまり覚えていないが、気が付いたら手に掴んでいた石だ。ひびが入っていて砕けたので小さい欠片を入れた。

「なんか捨てられなくて。」

もう、二度と踏み入れることのできない場所。父や母のいた地。

ザイタオス家に入ってから、牛や羊を捌くことがよくあり、動物の骨なのではと思うようにもなっていた。



しかし、そこに反応したのは談話からは離れていたテニアだった。

驚いた様子でそのペンダントを見る。


「それは……」

「はい?」

「…ちょっとそれを見てもいいか?」

「あ、はい…。」

ペンダントを外して、テニアに渡すと、植物柄の隙間から見える石を電灯に透かして確認している。


みんながなんだ?と反応する。近くにいてもペンダントの中身まではよく見えなかったのに、テニアはその石に非常に困惑していた。


「…君は…。君はどこ………」

たくさんの人に気が付いて言葉を止める。そして少し考える。

「あの、大切なものだと思うが少し石を触ってみていいか?」

「え?…」

ニッカは不安そうに兄アリオトを見た。

「テニアさんは大丈夫だ。ニッカの好きにしろ。」

「…ええ。ならどうぞ。」


ニッカがペンダントを一度受け取り、開けて石を取り出す。そして、テニアが広げた大きな手の上にその石を置いた。



その瞬間。


ファクトにはその手から光が広がるのが見えた。白い光の後に現れる、紫と鮮やかなピンク。


そしてそれが収まると見える、石の色なのか。今度は石から白い光が見える。

「?!」



「………トレミー?」

小さな声でテニアがつぶやく。


テニアはそれをすかしたり角度を変えてじっと見ている。



トントンッ。


そこで、ノックの音がした。

「いいか?…リン、アリオト。」

見たことのない若い男性が入って来て、みんなに礼をした。

「ミーティングの時間だぞ。」

「あ、悪い。時間だ。」


これから仕事があるらしく、テニアは丁重にニッカにその石を返した。



「みんな、もう部屋に戻ろう。」

「ねえ、リンちゃん。私が勉強一緒にやってあげるよ。」

ソラは言うが、お互い時間はあまりないし笑ってごまかす。

ファクトも去ろうとするムギをじっと見る。

「……何?気持ち悪い。」

「俺が教えようか。数学とか。」

「いいです!」

「………あのさ。」

「何?」

「ちゃんと飯食え。」

「…。」

ムギは少し目を見開く。でも、ファクトにベーをしてお手洗いに行ってしまった。


「じゃあ皆さん、また。ニッカも帰るまで気を付けて過ごせよ。明日がんばれ。」

「うん。兄さんも。」

軽くハグをして妹を見送った。



アリオトたちの面々はこの部屋で続けて打ち合わせをする。テニアは霊性の生体反応が見えるので部屋の中でも護衛はできるが、一度アリオトを廊下に連れ出した。

「どうしました?」

「アリオト君の妹さんは…どこから来たんだ?」

突然の質問に驚き、声を細めるように下を向いた。

「それは………」

「アリオト君は先のペンダントの石…知っていたのか?」

「ええ、持っているという事は。欠片が入るケースがほしいと聞いたので、ロケットを買ったのは私です。石に触ったことはないけれど。」



テニアは戸惑いながらも話す。

「あれは人骨だ。」


「…………。


っ?!」

少し考えて、驚きで目を上げテニアを見る。


テニアは落ち着いた顔をしていた。

「もしかして…妹さんは…。」

と言いかけて止める。

「アリオト!」

他の部屋の仲間たちも出て来たからだ。


「あ、気にしないでほしい。多分私も、家族がそこにいるから情報を知りたかったんだ。」

「…!」

柔らかい物腰のためかテニアに対しては不安にはならなかったが、アリオトはニッカの持っている石が人骨と聞いて、なんとも言えない思いになった。


夜の暗闇の中で、故郷を出る時に拾ったものだという事しか聞いていない。



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