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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第二十七章 山裾の輝き

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19 山裾での再会



ここは蛍惑。


そういう訳で、庭のガゼボで今度はなぜかリーオと対面している響。

シンシーは運転手と子供たちで、山林の遊歩道に行ったそうだ。


ガゼボの外の空間は、様々な緑を見せ、ナツメも部分部分赤くなりながら、青い実をたくさんつけていた。



「…素敵な所ですね。」

「………」

「…響さん?」

「…はい!管理の山根さんは昔は庭師だったんです。それで………あの、お仕事は?」

「千秋楽が済んで休暇です。」


響は庭仕事中の上に普段は誰も来ない場所なので、今日も長Tに、グレーのスエットを履いていた。気が動転して、手を洗うだけでリーオの前に来てしまった。

「あっ!盛るの忘れた!」

「へ?」

突然の響の驚きに、リーオの方も驚く。

「盛る?」

「前はフルメイクで会ったでしょ?途中でメイク崩れがないかファイが見てくれたし!今日は…眉毛も書いてない!」

おでこを手で覆う響に、呆気にとられる。

「急に来るからですよ!」

「ぷっ!大丈夫ですよ!」

リーオが笑い出す。

そして、おでこを覆う響の手をずらしてあげようとして…手を止めた。


触れたいけれど、触るのもおかしい。


「ファクト君やファイさん、ラムダ君は元気ですか?」

「…多分。この前会った日は元気だったけれど。」

「ファクト君、おもしろい子だったからまた会いたかったな。それにうらやましいな。仲がいいんですね。」

「ファクトは誰にでもあんな感じだし…。友人の大切な弟だから。」


「ずっとここにいるんですか?」

「…しばらくは………」

「私も実は………いつかベガスに行こうと思うんです。」

「っ!ベガスに?」

「蛍惑の血ですかね。いつか指導側になりたいと思って。」



「響さん、あの。お見合いという形も断られたんですよね。前は。」

「っ…。」

響は少し目を見開いてしまう。お見合いをまだ引きずっていたのか…。


「………はい。」

「…あの、でも。お付き合いできませんか?」

「………はい?」

「響さん、いいなと思って。」

「…はい?私ですよ?」

「…そうですよ。響さんです。」

「…!」


え?なんで?こんなんでいいの?選ぶ?普通、という顔をしている。


「響さんも私から逃げ回っていたという事は、私が意識しているのを知っていたんですよね?」

「へ?」

とにもかくにも、フラグが立ちそうな男性関係から逃げ回っていただけである。教え子たちと妄想CDチームが心の友なのだ。



そしてさらに驚く。

「響さん…。」

と言ったリーオの顔と声は、今までの安心できるものとは違って、少し色を含んでいた。男のなのに自分より色っぽい。


ひえぇ~~~!!!

これは反則!これは駄目!と思う。さすが役者!やっぱり普通の人とは違うんだ!!


「待って!待って!!」



赤くなる自分を押さえて、少し待ち、冷静に考えてみる響。机の上で自分の両拳を握る。

「っ………」

「………。」

そして、リーオを見てゆっくり言った。

「あの…。申し訳ありません。出来ないです…。」

「…。」

「私、あまりいろいろなことに目を向けられませんし。期待に添える人間じゃないし…。それに…不誠実なことはできません…。」

「………不誠実?」

「…。」


「………好きな人がいるんです。………できたというか。」

さよならはしたけれど、そこは今は言わない方がいいだろうと、そういう事にしておく。


「新しい人?私の知らない人?ベガスの人?」

「…ベガスの人です。」

「………。」

リーオは焼き肉屋当たりの辺から考える。誰がいたっけ?


「…会っていないので、知らないと思いますよ。」

「………。」

記憶を少し巻き戻す。


「背がかなり高い人?」

「…。」

「少しだけ髪の長い…。」

下町ズに長い長髪はいないが、短めのロン毛はけっこういる。でも、そう言われて今、響の中で思い浮かぶのは一人しかいない。かなり高い…というならタラゼドだろう。190超える。

「…多分自分。その人のこと知っていると思いますよ。」

「なんで?!」

「お菓子の袋を渡していたのを見たから…。その人?」

「!」

俯いてしまう。


そんな響をしばらく見て、自分にため息をつく。

「…分かりました。響さん。顔を上げてください。」


そう言うが、響は机に伏せてしまった。


タラゼドにもベガスにもさようならをしたけれど、思い出すだけで顔が火照ってくる。そしてなぜか涙目になってしまう。


タラゼドを思い出したからか、リーオにこんなことを言われたからか。



あの時、タラゼドは『俺も…』と言った。その先は?


山根のおじさんのおバカ!なんで後10秒後に来てくれなかったの?5秒でもいい。

…でも、それでも答えはあれで終わりだ。とにかく自分は旅立つのだ。あそこは人間関係が濃すぎる。



「……ちょっと、しばらくこうさせて下さい…。席を外してもいいですよ。」

顔を上げられない響はジメジメボソボソとリーオに言う。


「………。」


でもリーオはそこで響を見守っていた。




***




サンスウスの町はもう日が暮れていた。



緯度が高いので日が暮れるのは遅いはずだが、山の影で既に暗い。


食事の後、夜7時から狗賓(ぐひん)の学生と打ち合わせに入る。相手の団体は、大学生中心に動いていた。

お互いの紹介や、この町や学校の現状。目標。今、進めている課程。明日担当する部分。


「でもすごいですね。こんな小さな町に20人も小学生がいるんですね。」

驚いているのはニッカ。行ける距離に他の発展している町があると、普通若い世代は引っ越してしまう。新時代になってもこれだけ子供のいる世帯が残っているのは珍しい。ただ、子供たちは早くて中学から、高校からは全寮制の街の学校に行ってしまう。


「微妙にアジアと近い地域でしたし、小さいですが他で見ない天然石の発掘場があるので人が離れなかったんですよ。」

「それにしては貧しい街ですよね。人が離れないほどならもっと豊かになっても…。」

「なんというか、もともと少数民族だった人たちで共通語もできなくて、新時代に入ってしばらくするまで、分からないほどに搾取されていたんです。山も知らずに売って、水も電気も通って、昔ほど生活に困らない程度に発展して…。だから、悪い事には思えなかったんです。」

「なるほど………。」

「多分、今の大学に行き始めている世代から変わっていくと思います。」



この町は存続するのか、それとも消えていくのか。


でも、新しい世代には必ず高校までの教育は行う。

そして、未来の選択は子供たち自身がするのだ。


無理やり民族や地域性を奪うことはしないが、少数民族を尊重すると言って、このグローバル世界で彼らだけに生活の苦労を強いるのことはしない。この連合国の教育条約は、先進地域の人間が民族の個性に干渉するものだと批判されることもある。


でも、配給を待ったり遠くに汲みに行かなければ、水もない生活が果たして幸福だろうか。それが文化を守っていることになるのだろうか。1日生きる生活労働だけに時間を取られ、苦労する文化を守らなくてはいけないのだろうか。隣の地域では先進地域の生活をしているのに。

知識がないと、搾取されていることにも気が付かない場合もある。誰だって安全で綺麗なトイレを使い、水道から水が出て、スイッチ1つで部屋が明るくなる家で生きたい。子供ならなおさらそうだ。


集落にほとんど子供がいなくて、支援団体の若い兄姉世代が帰る度に泣く子供のいる地域もある。


人を殺したり、子供を結婚させたり、女性に手を出したり捨てるのは普通。複数の女性を囲うだけでなく、女性を共有したりする文化もある。


医療が発展していない地域での性交渉や妊娠出産で、悲惨な後遺症を残した未成年や女性への保護団体も多い。体に不自由があれば、若い女性は簡単に捨てられる地域もまだまだあった。後遺症があると産んだ子供が男の子なら取り上げられて捨てられる、子供が亡くなり自分も後遺症を負って捨てられることもある。


地域や昔の文化を守ることだけでは、個々人が尊重される時代は訪れない。


これらの境域団体は前時代から続くものも多く、医療活動が伴う場合、医師たちが主導で動いていることもある。新時代は連合国規模で動き、連合国でない国にも赴いて現地にも保健員や医師、看護師を育て、病院、女性保護施設を作るところまでこぎつけている。


未成熟な文化をそのまま放置することはできないのだ。


それに、知恵と知識があってこそ、愛する民族性を守っていくこともできる。

いずれにしても、そのまま放置すれば力のある支配国家、独裁国家にその地と民族を奪われてしまうだろう。


連合国も試行錯誤だが、それでも教育をしていくことはやめない。




明日の打ち合わせが終わると、ファクトはラムダと資料を見ながらラウンジに向かう。


「ねえファクト。明日楽しみだね。科学の発表、うまくできるかな。」

「うん。大丈夫だよ。それにドッジは任せとけ。」

「え?僕。小学生の頃狙われてばかりで、ボールも取れなくて大嫌いだったんだけど。」

体育にいい思い出のないラムダ。


「誰だって全部いい思い出の人間なんていないよ。俺なんて、先生たちに毎回親を引き合いに出されてたんだ。それで贔屓されるとかじゃなくて、こんなに親が素晴らしいからお前もできるだろ?みたいな。」

「…やっぱファクトも嫌だったの…?傷付いた…?」

憐みで見つめる。


「いや。『できません!』と言えばいいだけだから。ただ、毎回だとめんどくさい。嫌味で言って来る人もいるし。」

「………。」

大人になった今、素晴らしい運動神経より、ファクトのこのあっけらかんとした性格が羨ましいと思うラムダであった。



「ラムダ、何がいい?」

「カフェラテ。」

ラウンジでのコーヒーメーカーでドリンクを淹れようとした時だった。



「え?…ファクト…?」


「?!」

「は?!なんで!」

「え?」


その場で会った全員が固まってしまう。


お互い顔を見合わせて目をぱちくりした。



茶色のストレートの髪をくくったほっそりとした少女。



そう、ムギがいたのである。


「ムギ?!」

「ムギちゃん?!!」



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