1 何もない
この小説は『ZEROミッシングリンクⅢ』の続きになります。
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初めまして、そして、いつもありがとうございます!
Ⅳがスタートします。いつもの如く、文章の不足は大きな心でよろしくお願いいたします(´;ω;`)
「…………。」
夜の高速の入り口。
周りが雑然とする中、おじさんとチコの間にその騒音は入らなかった。
同じ目。
深い青緑に鮮やかな紫。
同じ煌めき…。
近くに来たアセンブルスにも見えたのか、驚いている。
「………あなたは?」
ゆっくり尋ねるチコ。
「えっと………」
「もしかして、……伯父とか大叔父とか?…」
「え?そうなの?」
聞いたのにおじさんも聞いてくる。
自分にも親戚がいたの?弟以外に………。そう思って思わず紫の目の二人は近くに来たワズンを見る。
「え?ファクトに聞いて!」
ワズンも知るわけがない。ファクトに振る。
向こうの車両から走ってきたファクトは4人の視線を一斉に浴びる。
「…え?俺に聞くの?おじさんに聞いて…。」
またその注目がおじさんに行くが、タイムアウトだ。
「チコ様、控えてください。東アジアが来ます。」
カウスが現場確認に来た東アジア軍に挨拶をする。
「チコ総長。お久しぶりです。加勢は要りませんでしたね。」
「………。ああ、お久しぶりです。もう総長ではありませんが。」
「議長夫人?」
「……この場でそれはイヤだな…。」
ベガスのいつもの東アジア軍ではない。
人が集まってくるので、おじさんはコンタクトを目に戻す。
「あ!いて!イタ!目が!」
こんなところで洗いもしない手で入れるから埃が入ったようである。ハードだから水ちょうだいと、ペッドボトルの水を用意してもらい洗い流している。ニューロスを足蹴りするような人なのに、埃は痛いのか。
みんなおじさんを信じられない顔で見ているが、ファクトはそれどころではなかった。
こっちの現場は銃撃の跡が後方車よりすごかったからだ。銃弾は一発で殺傷だけでなく体をダメにしてしまう能力がある。もし、誰かに当たっていたら…。当たらなかった方が奇跡なんじゃというほどの跡があった。流れ弾がファクトたちの方に行かなかっただけでも感謝である。実際は当たっているものもあるがあれこれ貫通しなかっただけだが。
「……。」
「…おいファクト、大丈夫か?」
「……………」
「どうした?」
ワズンが呼びかける。
「………こっち怪我人はいない?…。」
「腕で受けたから大丈夫だ。」
そう言うワズンを驚いて不安気に見上げる。
「大丈夫だ。俺の両腕は義体だ。」
「……」
ファクトはそれを聞いてなんとも言えない顔になってしまう。
「他の人は?」
「お前が気にすることじゃない。重傷者はいない。」
「……一般人は………」
「大丈夫だ。誰かが上手く他のICに誘導している。」
「………?」
シリウスか?でも、襲撃は襲撃だ。
情けないことにヘナヘナと座り込んでしまった。腰が抜けたとはこれの事を言うのか。もし、もし危険な場所に当たっていたら………
「おい、鳩?」
「……」
「もしかして現場は初めて見るのか?」
戦闘の現場は初めてではないが、南海広場の次の現場はチコが肢体をなくした時だ。
ワズンがチコとカウスに事情を話し、一旦ファクトとおじさんは援護に来たユラスの車の中で待つことになった。
チコは名残惜しそうにおじさんを見るが、ファクトには話し掛けなかった。
支えてもらい立ち上がり、車に向かう。広い車内で毛布を貰って座った。
「鳩、死にそうな顔してんな。さっき生き残ったんだから今死ぬなよ。」
「……」
「…。」
「おじさん。俺、危ないから行くなって言われたのにユラスに行ったんだ。……どうしても光の発現元が知りたかったから………」
「俺もまさか、初東アジアで軍に囲まれた上に襲撃を受け、さらに連行されるとは思ってもなかったな…。珍事過ぎる。」
大変なことなのに大変そうでもなく言うおじさん。砂糖と塩を間違えた!くらいの言いようだ。
「………俺の責任です。」
ファクトは膝を抱き寄せて毛布に顔をうずめた。声までは出ないが涙が出て来た。
意識不明になった時のチコを思い出す。
そして、市の高速道路をぶっ壊してしまった。
「…鳩。…えっとファイト。大丈夫だ。」
「………っ」
話したら泣き声も出そうで「ファクトです」と訂正できなかった。
おじさんは頭を撫でて、少しの間背中をさすってくれた。
一方、初めてユラス軍VSニューロスの後処理をする、東アジア陸軍第35部隊は現場に驚愕していた。アンタレスのサイテックス部隊も来ている。
「何だよこれ?この数を素手でいったのか?」
ニューロスの停止確認、爆発物処理、写真や動画を取ったり、現場を見ながら驚いている。強化スーツなどは着ているが、ユラス側に搭乗型ロボや大型武器はない。
「頭おかしいだろ?あいつら。」
「まあ、ヒューマンセーブがあるからな。こいつら手は加えてあるがベースは『北斗』だ。」
基本的に高性能であればある程、強い反面、戦闘においては弱点もある。
それがヒューマンセーブである。
SR社(シェル・ローズ社)の作ったシリコンが基盤となっているニューロスは、基本、人を殺せないのだ。
基本というのは、不慮の事故はあるからである。正規機体は防衛以外で攻撃もしない。現場判断力、頭がいいニューロスの場合、間接的にも人を殺すことに関与することを避ける場合がある。場合があると言うのは、多数を攻撃する人間を「脅威」と判断する場合もあるからだ。
ただし、シリウスを除いて。シリウスは独自の判断をする。
『シリウスチップ』。そしてその前進『北斗』にはそれらが顕著に表れる。
SR社のニューロスメカニックを越えるものは未だない。なので、どの会社も動きが滑らかな機体はだいたいSR社のシリコンを採用している。他社はまだ『北斗』製品も多いし、SR社でも北斗はまだ現役である。なお、『北斗』の技術も世界的にはシリウスに並ぶツートップである。
つまり、どんなに高性能でもすることが限られてくる。
その為ユラス軍は、簡易プログラムで動くロボットや簡易ニューロスを先にぶっ叩いたのだ。とくに思考人型以外のロボは、機関銃でもミサイルでも何でもぶっぱなつ場合がある。そういう機体を先に破壊。
その後、高性能ニューロスを相手にする。普通、高性能ニューロスが、人間や攻撃できる味方の機体を守ったりするが、今回想像以上にユラス軍という相手が悪かった。機関銃系を放っている敵に接近するとかおかしい。
「…という事ではないだろうか?」
「そうなんですかね?」
東アジア兵が後処理をしながら、同僚と推理している。
「いや、だってさ。ランチャーやロケットも搭載しているかもしれないメカに誰が接近戦をしようと思う?敵もそこまで頭が回らなかったんだろうな。まさかこれだけニューロスを投入して負けるとか。」
正確に言うとレーザー、機関銃やミサイルの弾道は、心に揺れがあり突発性のある人間よりも、メカの方が動きが予測しやすい。機敏であるが計画的で動きが滑らか過ぎるからだ。普通の人には致命傷な性能でも今回のユラスメンバーにとっては、敵を避けやすく攻撃もしやすかったのである。
「でも、だからって接近戦はしませんよね?セラミックとか特殊合金とかですよ。相手。こっちの体が砕けます。」
「武器があるだろ?」
「それにしても…。」
「…………」
東アジア軍、困る。
「お前ら!遊んでないでこっちを手伝え!」
2人は呼ばれた方に掛けて行った。
実は、これだけ強かった理由は、ベガス駐屯メンバーのトップクラスに加え、なぜか強いおじさんがいたこと以外にもう1つ理由がある。
それは今回2台の車に乗っていた、他5人のメンバーがアーツも知らない人員たち、
ユラス軍の第42部隊がいたからであった。
彼らもアセンブルス並みに強かった。ニューロス相手には強力な武器は使うが、素手でも十分強いメンバーがメカニックアーマーを付けて来ていたのだ。一部サイボーグ化した者もいる。たかがファクトを迎えに行くだけだが、シェダル襲撃の件を繰り返すわけにはいかないのと、ある事情で同行していた。
だいぶ時間が経ってから、チコたちがファクトの乗っている車両に来た。
「…あの…、ファクトは?」
「寝てる。」
「…。」
「緊張してたんじゃないか?泣いてたし。」
「…泣いてた?ファクトが?」
「ファクトの好きそうなものがいっぱいあって感激したのかな?」
カウスも驚く。
「…反省してたんだろ?」
おじさんがバカでも見るような顔で答えるのに、カウスはさらに驚く。
「え?ファクトも反省するんですか?」
「……怪我人がいないか気にしてたぞ。」
「………」
みんな何とも言えない顔でファクトの方を見た。
現場にはSR社も来ていた。対メカニック部隊サイテックスから事情を聴きながら作業を進めている。
「交通局からいつ解除できますかって来てますけどー?」
「薬莢を回収までするとまだかかるな。」
少し先にも別のICインターがあるのでそんなに問題はなく、夜明けまでは待つつもりだ。現場は騒然としながらも、東アジアが現場総監督を置き、一気に作業を進めていった。
***
次の日の朝、響はタラゼドに電話をした。
「あの、朝早くからごめんなさい。」
『ん?いいけど。』
「今日はお休みですか?」
『あ、土曜だっけ?今日は仕事………ないかな。お兄様の事?』
「あ、はいそうです………。大丈夫でしたか?大勢で歩いて行くのが見えたので。」
蛍惑はアジアの中でも非常に孝文化の強い地域だ。いろいろあれど、お兄様がきちんとどこかに泊まれたか気になるし、逆にみんなに迷惑を掛けなかったかも気になる。
『大丈夫だよ。ゼオナスさんところでみんな飲んでた。……ごめん。メール入れておけばよかったな。』
「……いいです。それだけ分かれば十分です…。ありがとうございます。」
『響さんも無理しないでね。』
「……………はい。」
『…響さん?』
「………はい?」
『何でもない。いろいろ考えすぎないでね。』
「…分かりました…。」
電話を切って無糖のカプチーノを淹れ、椅子に座る。
研究室もどうしてこんなふうに閉めることになってしまったんだろう。
生徒たちが栽培に直に関わりたいと言ったこともきっかけだった。
自分もインターンとサイコスと研究室を支えきれなくなったので、もう潮時だと思ったのだ。
なんて無責任なんだろう。なんて力不足なんだろう。それを自分の研究室でさせてあげられなかった。
パチン鳴らしたくてと指を弾いてみるが、やはり響の指は音が鳴らない。
不器用な自分。
親指と人差し指を合わせ少し集中しながらじっと見る。
自分がファクトをサイコスに巻き込んでしまったのだろうか。危険な世界に……
「……」
誰にも会いたくないのに、誰かに会いたい。話したくないのに誰かと話したい。
また電話をしたら、タラゼドさんは困るだろうか。
「………」
「………?」
熱いコーヒーをすすりながら少し考えこんでいた響は、いつもと違う感覚に気が付く。
あれ?あれ?
何だろう。このスケスケ感は。何もない感じ。
指から心理層が現れない。