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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第二十七章 山裾の輝き

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15 バベッジの帰還

この小説では、メールやメッセージはとくに種類を区別せずに、文字のメッセージということにしてください。



ユラス本土の正道教本部とユラス軍は、突然のチコの父の登場に未だ結論が出ずにいた。


しかも当人は仕事があるとどこかに行ってしまう。


ベガス側もSR社にどう共有すべきか話がつかない。SR社と連合国の遺伝子バンクに登録すれば、おそらく民族や出身が他よりは素早く割り出せるであろう。




チコの母の家。

『カーマイン家』は、時代が時代なら西洋国家ジライフの貴族で高位伯爵にあたる。


中世後期に建国の担い手としてだけでなく、周辺の国との共和を進め大きな功績をあげ、近代は大使館職員や外務官として活躍していた一族である。ただ、ジライフ自体は周辺国家に埋もれるほどのそう大きくはない国だ。


その家督を継いだある一族の次男は三人の娘を授かり、一人だけ遠い祖先の東洋顔を引き継いだ娘が生まれた。それが『レグルス』だ。髪は茶色だったが、奥二重で優しい顔の非常に頭がよい女性で、大学卒業と同時に神学校も卒業。

同じく優秀な母、二人の姉と共に、オキオル共和国で外交官である父の仕事を手伝っていた。


オキオル共和国はユラス西寄りの国。西洋とも大陸北とも言えず、ユラスとヴェネレの間の何とも言えない位置にある不安定な国であった。ただし、様々な隣国と国際条約に守られ中立国家として、戦闘不可侵地帯とされていた。



ある日、北東を経路にそこに侵攻してきたギュグニーの一派によって、全てが変わる。

和平を進めるジライフのセイガ大陸における拠点を沈めるためだった。


守衛は一気に制され、その場でどんどん射殺される。若い命だけでも逃したいと願った職員たちの希望で、隠し扉の納屋や地下に詰め込まれた者たちも見付かった。敵は最後は建物ごと壊すと、隙間という隙間をくまなく探され、全員を広場に集め、遂に三姉妹も外に出された。


抵抗のできない女性は捉えられたが、長女は「辱めを受けるくらいなら!」と逆らってその場で射殺されるた。


「姉さん!」

誰かの返り血を浴びても動じない、強いレグルスの瞳が一瞬悲しみと怒りに燃えた。



次女が絶対に生き残るんだというように暗に示し、抵抗をさせない。その後、レグルスは姉である次女と数人の女性、その子供たち2人と共にオキオルから消えてしまった。


この時点で、カーマイン一家は父母長女が3人死亡。

遺体の見付からない次女三女は、おそらくギュグニーか北メンカルに拉致されたのだろうと言われた。




この事件は当時一部の世界では非常に大きなニュースとなり、ギュグニーは大きな批判にさらされる。


でもギュグニーは痛くもかゆくもなかった。元々常識など持ち合わせていないのだ。ギュグニー内があまりに統治されておらず、連邦国と名乗り数個の権力がひしめき合い、国際問題が起これば国内他勢力のせいにしていたからである。情報も行き通らないので批判もよくできないが、自国の良いニュースさえ流せない。全てが混乱で、本当の情報などどうでもよかったのだ。

外側の国際勢力は、どこに国境(くにざかい)があるのかないのかも分からずギュグニーをうまく糾弾することができなかった。


どの派も同じ複数勢力から武器も仕入れていたため、武器で特定することも難しい。既に世界ではギュグニーは実質一国という認識があったが、正式には4国連邦とされているため、取れる対応が限られる。




「だが、霊視では既に答えは出ているんだな。」


サミットから戻って来ていたサダルは総師長カストルや、その他の霊能者に聞く。

「ええ。間違いなく。今のところ同じ結果が出ています。」


「だったら、これはチコにとっては追い風になるのか?」

「ユラスでの位置、という意味では。」

「波乱にもなるがな…。」


「………。」

サダルは心の中でため息をついた。

テニア(かれ)の祖父の兄がギュグニーの一国の基礎を作りましたからね。」


一勢力は濃いバベッジやナオスの血を引いている。テニアの叔父が彼の父を殺害し、その妻と息子も奪ってバベッジの長となる。しかし、強奪した妻の実家勢力の返り討ちにあい、ギュグニーに希望を見出して兄の長男シーを我が子として連れて行き亡命という名でギュグニーに入った。


「サダル氏の一族を殺害した勢力とも血統的に関わっているかもしれません。彼の家はギュグニーに取り込まれませんでしたが、何かしらの形で今後霊線が繋がる可能性もあります。」


チコの親族の誰かしらは、ギュグニーの横暴に関わっているかもしれないという事だ。

「…耐えられますか?」

妻の家系がサダル一族の虐殺に関わっている。

「…私の生まれる前の話だからな。それを言ったら、誰もがみな殺人犯の子孫だ。私たちの一族もギュグニーに入ってしまったものたちがいる。想定の範囲だ。」

多かれ少なかれ、誰もが虐殺者の子孫なのだ。それにユラスは同民族が分裂した戦争もしている。


「………そうだな。そして、過去を追えば誰もが天を愛した者の子孫でもある。」

カストルがゆっくり言った。





「それにしてもなぜファクトが?」

「霊視なのかサイコスなのか。何か引き寄せやすい体質ですね。それに色が見えるそうです。今回もチコのサイコスと同じ光がずっと見えていたからそこに向かっただけだと。」

「………。」

記憶にないので送られていた資料を確認する。

「そこは載せていません。とりあえず内輪だけで。」


「でも、ボーティス本人の霊性は非常にきれいですよ。妻以外に関わった女性もなく、戦場などで人は殺していますが、霊光が綺麗なんですよ。あまり見ないタイプです。」


「あの性格は何とも言えないがな……。」

ワズンが思い出して呆れて笑う。

「……どういう性格なんだ?面会した時はしっかりした壮年だっただろ。」

「猫を被っていましたね。あのファクトと馬が合うんですよ。あんな性格です。チコも、向こうのメンバーも引いていました。まあ軽いです。」

「…。」


「それに、『これまでウチの娘を大っっっ切にしてくれてありがとうと言っていました。バージンロードを歩きたかった。花嫁写真が見たい』と。」

「………………」

全員、居た堪れない気持ちになる。結婚写真なんてニュース映像しかない。あとは、クスリとも笑顔のない義務の業務用のような写真だ。あんな針の筵みたいなバージンロード何のダンジョンか。自分の娘が歩くくらいなら、前日に逃亡させる。


「チコはそれでも、父親がいい人なのでうれしそうでしたが。」

チコのあの性格にも感謝するしかない。



「しかし、シェダルの父ではないのか…。」

みな、27、8年ほど前に何があったのかを考える。カーマイン家は篤実な新教からの正道教家系だ。


「首相とシャプレーには報告しよう。いずれ分かることだ。どちらにせよ、ユラス情勢に関わる。」

そしてカストルはその場を締めた。




「おそらく確定だ。『ボーティス・ジオライト』の正式名は、

『ボーティス・ジオライト・バベッジ』。


失われたと言われた、バベッジ族族長の次男だ。


遺伝子調査の結果を待とう。」




***




「おい!ファクト。お前なんで響さんちに泊まってんだ!」


学校から帰って来たファクトはみんなに責められ、キファにはまだねちねち言われている。


「日帰りのつもりが泊まってけって言うから。それに響さんのおじい様の別荘だよ。」

「お前が変なメール送るから、みんな2人で泊っているのかと思うだろ??」

「勝手にラムダのメール見るからだよ。」


「先生いつ帰ってくるの?」

「さあ、区切りがいいからしばらく静養や旅行とかするってさ。勉強詰めだったし。てかさ、今課題やってんだからあっち行ってよ。」

「あ?勉強なんてすんな。ジェイとタラゼドも行ったんだろ?俺に全て吐け。」

キファに頬を叩かれる。

「リーブラも行くからジェイも行くよ。タラゼドは運転手。」


「俺を運転手にしろ。クソか?」

「キファ運転慣れてないじゃん。」

「じゃあ誘え。」

「そういうこと言うから避けられるんだよ。」


そこでファクトは、あることに気が付く。

自分もDPサイコスを感じない。もしかしてあれは響と連動して起こる力だったのか。響の橋渡しが必要なのか。似た夢は見るが、あの心理層とは感覚が違う気がする。同じ時に力を発現させたシャプレーはどうなのだろうか。


「……キファ。もう響さんはあきらめなよ。」

「…………もうあきらめてる。」

不貞腐れして布団にもぐる。置いて行かれた時点で、自分は蚊帳の外だ。

「じゃあ忘れなよ。」

「………。」


「響さん、男が周りでウロウロするからけっこういろいろ言われてんだよ。」

「お前も男だろ。だいたいイータやソア、ファイやリーブラも周りも男ばかりなのにあいつらは言われないだろ。」

それは、友達が身内や下町ズ、気のいい西アジアの子たちだからだ。響は、様々な人間に関わっているし、ハッキリ女性として好かれている。


「………あーあ。俺は一助にもなれないんだな…。」

キファも悪いわけではないが、イオニア、リーオ、タラゼド、ウワサでは大病院の先生………と打倒しなければならない層が強烈で厚すぎる。それに、奴らを倒したからと好かれるわけでもない。自分以外、だいたい響の年上。今の弟位置を固守すれば唯一になれなくても嫌われることはないが、ファクトやラムダと同じ弟位置とか情けなすぎる。




キファはため息をついた。



きれいな長い、漆黒の髪。

ベッドに広がるそのきれいな人が、もう昏迷状態から起きないのではと、ハラハラしたあの日。


あんなに運動神経の悪い人が存在するのだと驚いた毎日。ぱっと見、めっちゃ運動できそうなのに。


下手くそで、リズム感もなくて、全然踊れていないけれど、また一緒にダンスをしたい。

両手を繋いで合わせをした時、「できた!」と叫んだ瞬間が本当に楽しかった。


あのまま抱きしめたかった。



「忘れたい………」

「…。」

「忘れたいのに………」

「…。」

集中できないファクト。


「もう研究室もないし、会える機会もなくなってしまった…。」

「そこ俺のベッドなんだけど。」

何故かここが溜まり場になるので、よく違うところで寝ている。

「…。」

「…なんか飲む?」

「………いい…。勉強しろ。」


仰向けになって顔を隠してしまった兄さんを、ファクトは仕方なく見守った。




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