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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第二十七章 山裾の輝き

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13 君の世界に。



一人だと思っていたのであまりにも響は驚く。


「違う!そこらに捨てたわけじゃないの!!」

「…は?」

「後でちゃんとゴミ箱に捨てるよ!」

「…?」

「そんなだらしなくないから!」

「…ああ、鼻かんだティッシュの話ね。」

そんな事どうでもいいタラゼドはまたデバイスを見るが、響は動揺してしまう。


「なんでいるの?!びっくりしたっ。」

「…ファイたちが向こうで話し終わるの待ってるだけ。」

「だからって、女性が寝てる空間にいないで!」

「目の前で寝たのに?ひざ掛けも掛けておいただろ?」

家の中をタンクトップやキャミでうろついているような妹だらけのタラゼドは気にもしないが、一応謝っておく。ここは家ではないし、変な人がいるような危険があるわけでもない。見守る必要もないだろう。

「ごめん。なら行くわ。」



「…待って!」



立ち上がったが、止まって響を見る。

「…?」


「タラゼドさんもがっかりしてる?」

「………何が?」

「サイコスがなくなってしまったから…。あれこれ手を出してダメにして、呆れた人間だと思わない?」

「…別に、何も…。」

インターン継続も望んだことではないが、最終的に響が選んだことだ。

「役に立たないのに?」

「何で?」

「もし同じ職場で、タラゼドさんが共同研究者だったらがっかりするでしょ?」

「…困ることはあるだろうけど、人間だからしかたないだろ。いろいろあるよ…。」

「…。」



少し考えてから、響は力ない感じながらも、少し気を引き締めてにっこり笑う。


「タラゼドさん、最後に話を聞いてください。」

「……?」


立ち上がったものの、タラゼドはもう一度、響の目の前にある方の椅子に座った。


「…でも私、これでスッキリしました…。」

「でも」って、なんの「でも」だか分からないが話は聞く。

「…?」



「…私、多分タラゼドさんのこと好きでした。」

「………」


数秒遅れて言っていることに気が付く。

「っ?!」


「でも、私にベガスでの未来がなくなったから、なんか最後の思い出話で言えそうです。」

「…。」

既に思い出になっているベガスあーんどタラゼド。


「今まで面倒なことも見て下さって…学生たちにも良くしてくださってありがとうございました…。結局何の謝礼もしていないし…。」

「……」

「感謝しています…。今後ファイもよろしくお願いします。」


最後にペコっと頭を下げる響。



が、タラゼドは思わず響の手をにぎってしまう。

「…!」

「っ!」


「…響さん……」

「…。」


「…俺も…」



「お嬢様ー!」

そこに乱入する、今日の空気ブロークンは山根のおじさん。


「ッ?!」

思わず手を引く二人。


「お客様、ここで宿泊されるという事で、お風呂沸かしましたよー!」

「は、はい!へ?宿泊???」


「先お食事されてもいいですが。」

「もうそんな時間?!」

「夕方近いですね。」

「待って、シンシーたちにも聞かなきゃ。」


そして、すでに話は終わっていた女子3人。

「…ねえ、ファイ。あの男はただの運転手じゃないの?」

「え?アーツにただの運転手なんていないよ。」

ちょっと青筋の立っている響大好きシンシー姉さんである。シンシー、響を自分の義弟と結婚させて、楽しい義実家ライフを送りたいので、こういう男は敵である。





一方、ジェイはファクトと寺の方を回っていた。


「響さん、大丈夫かな。俺だったら響さんの半分以下の才能でも、人生イージーモードなんだけど。何を落ち込んでいるんだろ?やっぱ研究室の事?」

ジェイは響のサイコスの存在自体を知らない。


「それもあるけど、大きい家はいろいろプレッシャーがあるんだよ。」

「あのにーちゃんじゃ、ちんたら生きることもできないのか。ファクトはもう少し危機感持っていいと思うけど?」

「え?いつも緊張して生きてるよ。」

「…そうか?全然そう見えないけど。」



上を見上げると、青々とした木の葉が空を遮る。少し開けたところには、邸宅と同じ美しく流れる瓦屋根。

空から流れるように()かれた黒くシルバーの、マットなのにきらめく土を焼いた瓦屋根が美しい。


「この瓦すごいよね。本物の本葺(ほんぶ)き瓦だよ。」

ファクトが寺の屋根を見るので、ジェイも見上げる。

「本物と偽物とあるの?」

「どれも瓦は瓦だけど、昔からの技法の(いぶし)瓦って言うんだよ。これは寺用。今はだいぶ製造元が少なくなってるから。」


「そんなこと興味あったの?」

「すっごくきれいだから好きなんだ。この中にたくさんの世界を感じるというか…。」

「ふーん。この真っ直ぐなのにカーブしてる流れは好きだな…。」



ジェイはこんな会話をしながら不思議に思う。


昔は他人が話すことなんてどうでもよかった。


正直、アーツに来る前のジェイだったら、自分に彼女どころか、元ギャルと付き合うなんて考えすらなかっただろう。クラスの女子もみんな嫌いで蔑んでいた。女子たちも自分が嫌いだっただろう。それか存在すら感じて貰えないか。

4、50代で結婚できなかったら、結婚なんてそれで終わりだと思っていた。……自分なら30代で終わりか。何のスペックもない。




でも、あまりにたくさんの知らない世界をがあったから。


そこには思わぬ魅力もあったから、今は少しだけ誰かの見ている世界を共有したいと思うようになっていた。



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