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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第二十六章 探していた胸の内

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10 愛はどこに繋がるの?

※性に関する表現や用語が出て来ます。

苦手な方は***印まで飛んでください。



「ぎゃー!なんなの!これ!!!!」


既婚者たちの輪の中で飛び上がって驚いているのは、新婚リーブラ。


既に初夜は済ましてしまったのだが、知っている男女関係の知識のように「感じる」という事もなく、これでいいのかと大人な女性に恥を忍んで相談に行ったのだ。忙しすぎる筆頭牧師のデネブでは少し気が引けるので、周りにいる正道教の既婚お姉さんたちに聞く。


そこでいろんな話をした挙句、渡されたのがこの『本』。


子持ちや既婚者ばかりが集まった空間で、開いてびっくり。宗教における結婚の教理、精神、心的な意義だけでなく、家庭霊性学、医学のページから、男女の感性や心理の違い、ちょっと刺激の強すぎる図解まで入って、なんというか、性感帯から体位までどこがどうなって、どうすべきか細かく入っている。


「ちょ、ちょ、ちょッ…!!!」

ちなみに、表紙に『既婚者用』と書いてある。

「えー!!これって!!」

既婚者イータまで真っ赤だ。


「ほー。すごいね。」

フムフム、と納得した顔で見ているのはソアである。強い。


それを笑って解説するジョア妹のメレナ。

「まあ、宗教ってそう言う事だから。」

「はいー??!」

驚きを隠せない皆様。


「夫婦間でしょ?夫婦で最高のものがあるから離れられないんじゃない。」

「え、え、え…

戸惑うイータ。

「イータさんって思ったよりウブなんだね。」

「正道教の本でしょ??これじゃあ性職者って言われても仕方ないんじゃ…。」

リーブラも恥ずかしがっている。

「だってそうでしょ?本来聖職者が正しい性を知っていなければならないんだよ。生命の源泉だもの。

堕落したからそれが地に堕ちてしまっただけ。だから、世界中これまで性事情がめちゃくちゃだったんでしょ。」

「善と悪って今のこの世では紙一重だから、賢い人ほど真理の渦中にいるから境が分からなくなって惑わされるんだよ。その一点は自制と天敬かただの我欲かってことなんだけどね。」


「もちろん、これが許されるのは夫婦間だけだよ。むしろ夫婦でこそ!本来の霊性は一本しかないんだから。」


「だからってこれは…!」

「ねえ?何々?」

まだ見ていない後ろの子が話し掛ける。

「ヤダー!見ないでー!!!」


「そう言うことって、浮気やセックスレスになって離婚や家庭内別居の原因になるから、けっこう相談に来る人が多いんだよ。」

後ろから西アジアの奥様が口を出す。

「ユラス教にも似たような本はある。」

ユラスママの一言に閉口してしまうリーブラとイータ。


「体質や体調以外に、女性が絶頂を感じたことがないっていうのも、将来のセックスレスに繋がるし。

あと、男女の年齢での身体変化の違いね。若い奥さんがいいってばかり思っている男性も多いけど、女性が性行為に馴染んできた頃に、男性の方が体力がなくなっていたりするからね。個人差も大きいけど40代前後にかけて徐々に逆転していくから。」

「女性は感じる体が作られるまでに10年以上かかったりすることもあるから、気持ちよさや絶頂が分からないとその間に性に冷めてしまったり。」

「…そうなの?」

「それで年の男は必死に性欲剤を求めるのか…。」

「あんま若い奥さんもらうと、介護がどうのこうの心配の前に、性生活で合わなくなって男の方が焦るから。」

「よっぽど何かの信念や情で結ばれていたりしないと、歳の差婚は男が後で捨てられたりもするよね。欲求不満で女性が耐えられなくなって。」

「えぇ…。男性でなくて女性の方が?」

「…」

絶句のイータにリーブラ。


「だから、体も。でももっと情で結ばれていないといけないんだよ。まあ、どちらの関係も、初めからあるわけじゃなくてお互いで作っていくもんなんだけど。未来を共有している夫婦関係なら、体からの情でも問題ないんだよ。むしろそうあうるべき。」


「…5年、10年、20年で情の部分を育ててこなかった夫婦は後々壊れやすいよね。昔は生活の為に死ぬまで我慢してたけど。」

「個人差もあって男女共にデリケートな話だし、お互いが満足する終着点があれば、それでいい事ではあるけれど…どちらかがすごく諦めたたり、我慢しているのはよくないよね。」

「ユラスではどちらかに合わせてホルモン治療したりもするよ。」


「……」

隠すように胸に抱いてしまった本をもう一度チラッと見る。元ギャルリーブラの知っている知識の10倍以上濃い。

「あー!やっぱりだめー!!」

「ちょっと、見せて見せて!」

閉じてしまうと、おもしろがってみんなが寄って来る。


「私はこんな本、紹介されていないんだけど。」

ソアもイータも言う。

「まあ、2人は大丈夫と思ったんでしょ?イータはタウさんと満足してる?」

「…」

真っ赤になって頷く。

「きゃー!!かわいいー!イータかわいい!」

ユラスママに抱きしめられる。

「うらやましいー!ウチは最近ねえ…。」

うらやましいのか。いいのかそれで。

ソアとイータは似ているようで、ソアベイド夫婦の方はソアが全てにおいてリード型である。


「満足してなきゃダメなの?!」

焦るリーブラ。

「体って意味で?」

「分からないけれど、そんなものなのかなって…しか思えなくて…。ジェイにも言ってない。」


「初夜なんてそんなもんだよ。相手も初めてなんだし、これから一緒に努力して行けばいいんだから。


初夜は内心的には神性と霊の結びつきを作るものだから、お互い思い合って二人の心がちゃんと家庭を作っていくことや天を向いていれば大丈夫だよ。むしろこの本の後半は初夜にはいらない。」

初心者には過激な性生活が書いてある。

「そうそう。努力やプレッシャーでお互い疲弊してもダメだし。何年もかけて心の信頼関係を築く方が重要だよ。」


「お見合いだと体から作っていく場合もあるけど、思いやりがあって、体のことも探り合って行かないとだめだし、でもいつか霊性が一致すると、本当にいいし、心身が安定するから!」

「そこに霊性も関わるの?」


「そりゃそうだよ。その世界を知ったら、持っている世界観が全部変わるよ。生命の源泉や次元が動くよ。世界は人間に合わせるから!」

よく分からないリーブラ。

「…。」

「大丈夫。初めはそんなくらいでいいよ。」



神学者でもあるメレナは何もかも詳しい。

「初めは全て神に捧げるのが信仰だよ。初めのご飯や果物は神仏に捧げるでしょ?新築を建てる時も最初に地鎮祭や上棟式とかするし。家庭を築くときも一緒。最初は一滴残らず天に捧げるの。


自分の快感とかは絶対じゃない。

それで神からスタートする。人間の愛は相対的だけど、神は永遠を約束してくれるから。」


「ユラス教も一緒だよ。」

と、ユラスママと笑っていいる。

新築はともかくご飯と一緒にされてしまうとは。


「そうそう。勝手にどうこうされるわけでないでしょ?」

「それはない。」

ジェイは淡泊だが、根は優しい。淡泊だからか無理強いしない、それで満足なだけかもしれないが。



今までのアーツ試用期間の禁欲生活から、突然色濃い世界に来てしまったリーブラ。

敢えて目を伏せてきたのに人体の位置や匂いによる医学的状態だけでなく、性感帯の押し方とかまで細かく書いてあるうえに、お姉さま方が強すぎて目を上げられない。


「やー、ウチ最近全然だから、ちょっとこういう刺激がほしいわ。」

「私も別になくてよかったんだけど、こういうの見ちゃうと興奮するね。あの人もう4か月帰ってこないんだけど。」

「旦那いない時に見るのやめなよ。」

これが危険の始まりか。


「私んとこは、まず夫が帰ってこないから。ずっと遠征だもん。」

「うちはドラマや映画みたいに感じたことなんてないわ。なんか最中でも冷静になっちゃう。でも夫好きだからいいけど。」

「自分は…なんかもう子育てと加齢で疲れた…。」

みんなが口々に話している。

大房の方が下世話な世界に生きてきたつもりで、誰よりもウブだった下町ズ女子2名であった。




その日は帰宅後も、ジェイの顔を真っすぐ見られなかったリーブラ。


恥ずかしすぎて今度は逆に、濃くなくていいやと満足してしまう。

なんだか照れくさくてあの本を共有するのは、もっとずっと後であった。




***




シリウスは、倉鍵のSR社本社ビル屋上の一番上で風を浴びていた。


『戻って来た…。彼が。』


「シリウス…?」

シャプレーが屋上に出てくる。


「どうした?」

「あの人が戻って来たのに、彼女はまだ解放されないみたい。」

「彼女?」


「また遠くに行ってしまったから?でもそんなに遠くないのよ。」


「二人とも大切な人なのに……。あの子には言っておかないと。あの人を殺さないでって……」

「誰のことだ?」


シリウスの目に涙があふれ、それが風で横に流れていく。

シャプレーはシリウスの会話の主体主が変わり、固定されていないことに気が付く。


「ベガスが先に見つけてしまった……。」

「…?」

「ファクトね。あの子がいつも先手を取ってしまう。だからあの子がほしかったのに。」

「ファクトは仕方ない。ミザルが嫌がっている以上、ここには呼べない。」


「私はここにいるのに………。」

シリウスは両手を握り、泣き崩れるようになる。


何かの気か、霊性か、意識か、力か…たくさん集まり過ぎているのか?



感傷的になるシリウスを呼ぶ。

「シリウス。戻ろう。」

「ファクトを呼んで!」

今までにない感情の表し方をする。

「………。」

「あの子なら『私』がここにいることが分かるわ!」

「………」

「お願い!ファクトを呼んで!」


「あの子に伝えたいの。もう誰も怨んでいない。全てが風化して…砂のようになってしまったから…。私にはできないから…!」


「………あなたは誰なんだ?誰が入っている?」

「………私?」




「私は誰でもない…………」



「私は私…。ただの私………」




そう言うと、シリウスは意識がなくなったようになり、登っていた場所からエンパイアドレスをはためかせて落ちる。人間の女性ほどの重さのシリウスをシャプレーはきれいに受け止めた。


「…………」

誰だ?どこで入った?


その後SR社は、データを隅々まで調べ、研究に関わる全ての霊能者を集めたが、その影はどこにもなかった。




***




「よっしゃ!終わった!」


ファクトがいくら勉強嫌いだからと言って、日々遊んでいるわけではない。正確には日々遊んではいるが、勉強もしている。


「タラゼド!待って!約束の課題終わったから!俺も行く!!」


遂にしびれを切らしたファイ、そしてリーブラによって蛍惑に行こうという事になったのだ。確認する限り、よく出掛けているムギの元に行ったようでもないらしい。一人旅にしても携帯を持たない、電源を入れないなんて危なすぎる。行って探せるところなんて、取り敢えず蛍惑くらいしかない。


ファクトの外出は、今まで放置した課題を仕上げることで許可された。ここ数日3時間ほどしか寝ていないが、タラゼドの運転で行くので、後は車内で現地到着まで寝ていればいいのだ。タラゼドもさすがに女子2人の中で男1人は困る。男はこの2人とはいえ、新婚女性を男性の車に乗せて旅するはどうかという事で、ジェイも同行することになった。久々の休暇である。


「キファとか連れて行く?」

「ファクト、バカなの?」

「蛍惑旅行じゃん!」

「あのねえ。いるか確認に行くんだよ。」

現地ではシンシーが案内してくれる。


「途中私が運転しようか?」

実はリーブラも免許を取っている。

「いい。恐ろしすぎる。」


「俺も免許取った!」

「正成人になるまで運転できんだろ。」

ファクトも取ったが、東アジアでは高校在籍中は路上で乗れない。


「眠くなったら代わるから、何時でも言ってね!」

リーブラが念を押しておく。


「………。」

「ちょっと、元気だしなよ!多分実家だってば!」

ファイは完全に沈み込んでいた。




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