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ZEROミッシングリンクⅣ【4】ZERO MISSING LINK 4  作者: タイニ
第三十三章 出発

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101 あなたがあなたでよかった




「そして、これからもっとたくさんの優秀な人間が生まれてきます。


あなた方は頂点ではありません。


時代はある割合を越えると、それが平均になってくるからです。昔、霊性やサイコスは特殊な者の持つ力で、それが使えれば時に神と崇められたり、天才だともてはやされたりしました。

でも、既に人類の半数以上に大なり小なり霊性認識能力があり、今やIQスコア120は当たり前、130を超える者も普通にいます。


アンタレスは近代の骨頂とされていますが、環境さえ整えば、世界中様々な分野でもっと優秀な人々がたくさん出てるでしょう。


秀才、天才は自分たちだけではありません。いつか、誰もがそうなるのです。


アンタレスだけが特別なのではありません。アジアが寝ているならば、驕って頂点にいるつもりならば、これから後進の国々に追い抜かれていきます。


私には努力しないと出来ないことがたくさんありましたが、SR社には子供の時から一瞬で様々な演算をしてしまうような人もたくさんいました。高校も大学もノーパスで一気に研究所に来たような者もいます。

だけど、その多くが私より非常に温かい人たちでした。そして、自分より他人を必要としていました。自分が全体の一部であることを理解していたからです。それほどの天才でも、自分のできることは部分だと認識していました。」


ファクトの母ミザルはまさに完全な天才型であった。ミザルは温かい性格ではない。正直SR社にも、自分を小バカにしてくるムカつく研究員たちもいたが、ただ彼らはどんなにたくさんの役割を果たしても、自分は()()()()()()()と認識していた。



ファクトはミザルに言われたことがある。

『ファクトがファクトで安心した』と。


息子をSR社に関わらせたくなかったので、ファクトが普通過ぎるのは母にとっても悪いことではなかったが、ファクト自らそう選んだわけではない。本当にSR社の望む基準でも、エリート層の学校で頑張れる基準もなかったのだ。

天才の間にこんな風に生まれてしまって、散々トンビだとか、ジュウシー君と言われて、面目も潰され呆れているだろうと思っていたのに、母から「あなたがあなたでよかった」とたくさん頬にキスをされた。


ファクトの全部が、ファクトにしかないものであったから。




「我々の歴史は、2代目で兄が出来のいい弟をうらやみ憎み、殺人を起点として兄弟が広がりました。弟が優秀だったのか、心が砕けていたという意味で優秀だったのかは分かりませんが、神に認められる何かを持っていました。それはただ、頭の話だけではないことは確かです。ライバルや競争心は必要ですが、いつも自分の心を振り返って下さい。


『愛』は、全てに耐え、全てを忍んで、全てを消化していきます。


醜さや怒りがないのが普通であるべきだという意味ではありません。それをどう、()()していくのか。そこが課題です。『忍ぶ…』の中にあるのは、ただ耐えることだけではありません。

その中でどんな心を経過していくかです…。

時には誰よりも醜くなることもあるでしょう。


私たちは誰もが…

他人ではなく自身で、最終的には神と自身の中で折り合いを探し出し消化して行くのです。


最後に問われるのは自分です。

私も何度もそう言われ、それがずっと分からないでいました。何とか意味をつかめても、奥底で納得できない、そうは思えないまま生きてきました。たった1人で歩む道も人生にはあるでしょう。孤独な時もあるし、誰も代わりにはなれません。


でも、そこにいつもいるのは親なる神です。


そして、大きなことをしている者は小さなことを、小さな者はいつか大きなことを問われます。

昔の賢人の誰もが言っていたことです。」



寝ている者もいたが、やはり頭のいい学校なのか、話はきちんと聞いている。これだけのエリート校なら、信仰関わらず、一度は聖典を読んでいる生徒がほとんどだろう。似たような説教も牧師の誰かから一度は聞いているだろう。

多分、霊性基準も高い。数人から光が見える。



「なので…良い人々に出会って下さい。たくさんの良い親友や、良い先生に出会って下さい。

そういう人が周りにいないと思う人は、生き方や行動を変えてください。


私もそういう人たちに出会っていなかったら、外形でしかない科学や理論の中で、たくさんの人の人生を殺して、たくさんの才能を潰すようなことし、そしてラボの狭間に埋もれた人生になっていたかもしれません。結婚もしなかっただろうし、してもうまくいかなかったでしょう。」

見えないほどの小さなため息を吐く。


「そして、できる限り()()()()()()1つ、自身の中の勝利を得てから次に向かって下さい。


バイト先でリーダーまで行くとかでもいいし…

小さな勝利でもいい。苦手な人に挨拶をできるようになったとかでもいいです。

それが次の場所への土産になるでしょう。


限界が来ている人は逃げても構いません。でも、いつかどこかで、自分の中の『自分への勝利』を得てください。」



それから、少しニューロスの話、アジアとユラスが研究においてどうして協力関係にあるかの話、そのためにどんな道のりを歩んで来たかなどいくつか話してサダルは礼をし壇上を降りた。



拍手の中で退出すると、進行の先生がこれまでのサダルのスピーチのアドレスや、これからの予定などを話していた。




その後、学校側で選ばれた生徒と別室で談話をすることになったが、半分以上の生徒は先の話で萎縮していた。アピールしようとしていたことを、無意味とを言われたような気がしたからだ。愛想笑いもしない、成績や実績で贔屓もしてくれないサダルに、ひどく戸惑っている生徒もいる。逆に、頭脳では勝てると思ったのか、思った人物とは違ったのか興味のないような顔をする者もいる。


でも、質問した生徒にはどんな質問であれ、それが先の講演内容を飲み込んでいない発言であれ、丁寧に返した。ファクトやリゲルたちも後ろの方でそれに同席していた。





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