99 学校巡回
金曜の夜。ソアの家に集まった既婚女子組。
ベイドはじめとする夫陣営は全員追い出されて、ゼオナスの家で遊んでいる。明日は全アジアの祝日のため久々の完全休暇である。
「で、どう?!サルガスはやさしい?豹変してない?」
「……してないです…。やさしいです。」
「おーーーー!!!」
爽やかな拍手が起こる。
なんだか居た堪れなくて、ロディアは白ワインをグビッと飲んでしまう。
イータ、ソア、リーブラ。そして独り身のファイも来てターボ君を構ってあげている。
「どんな感じ?」
「……なんか皆さんといる時より良く笑うし、よく喋るのでちょっと不安かな………」
「え?なんで?そこ、普通喜ぶところじゃない?自分だけ特別みたいな。」
「私にだけ無理に気を遣っているのかな……と。」
赤くなりながらも、すまなそうに言う。
「えー!浮かれてんだよ。新婚じゃん!浮かれさせてあげてよ!!」
死にそうなマンボウを見てきたリーブラとしてはそこのところ、譲れない。
「そうそう!ウチら元々同居で全然新婚気分じゃなかったし。ロディアさんは楽しみなよ!」
イータも同意する。
「ジェイなんて全然おもしろくないよ?私といても仏頂面だよ?よく分からない理論かますし。」
「そんなこと言って、ジェイだって心の中は嬉しいよ~。」
ソアはよしよしする。
「でも毎日忙しいから、アーツの皆さんといる時と同じくらいリラックスしてほしいし…。いいって言うのに何かと食事も作ってくれるし。」
サルガスはアーツでは愛想ゼロである。リーブラにすら。
「へ?サルガスどんだけはしゃいでるの??!」
「え?」
「寮では、りんご1つ剥いてれなかったのに!!」
怒るリーブラ。人に剥いてもらう果物がおいしいのである。
「ファクトをおびき寄せる時だけポテト作ってたよね。」
そういう時だけ調理をしていたサルガスである。冷凍だが。
「ねえ?初めてのロディアさんに無理させてないよね?」
ツッコんでくるソア。
「そうですね、同居は初めてだけど料理だけじゃなくて私より掃除とかもするし……」
「そうじゃなくて、夜!あ、まさか朝も??」
「………っ!?」
そんな恥ずかしい事言えるわけがない。
「無理なことさせられてない?イヤなことがあったらはっきり言えばいいからね!!あいつ変な趣味ないよね??」
「え?え?えっ?」
「やめろって!」
バフっとぬいぐるみクッションを投げられ、ソアはイータに止められる。
「うぐ!」
「下町ズにネタをあげる必要もないし、アホ面晒すのも嫌でしょ!だから敢えてあれこれ外では言わないんだよ。まあ、家で甘えさせてあげてよ。」
「………。」
イータに言われ、ロディアはどこに目線をやったらいいのか分からなくて、空になったグラスを眺める。
「そんなの今だけだよ~!」
ふふんと、横から口を出してみんなに叱られるファイ。
「アンタはほんっとに!!」
「今だけだから、今、存分楽しんだらってこと~!」
ターボ君は既に歩き出し、柵も引き出し戸棚開閉防止器具も全部外してぶっ壊していた。
「まっ、なんにしてもうまくいってそうでよかった!」
サルガスが幸せそうで、それだけでうれしいリーブラである。
***
アンタレスの有名高校の聴講室で、大きな拍手が起こる。
「ありがとうございました!」
礼をして教室を後にしたファクトは、高校生のニッカやソラ、大学生リゲルやラムダ他数名と、やったね!と手を鳴らし合った。まだ室内からは拍手が聴こえる。
この前のサダルの提案を、サラサや高校の先生に相談したファクトたちは、『都市再建、途上地域開発支援、アンタレス高校大学生の役割』の題で、既に都内の有名校数校に出向いていた。
ベガス開発、途上地域開発活動に慣れているニッカやその知り合いたちとも協力し、これまでの動画や画像と共にプレゼンをする。
まずベガスならベガス自体が掲げる、全体のビジョンから今いる位置を把握。中、小目標の確認と見直し。他地域や他国ならその状況にも合わせるが、連合国が目指している社会への理解はしてもらうことを前提としている。
その国や地域の人と話し合いながら、道筋を立て現地国の開発チームや自治体、学生と共に共同して開発を進める。対象の反応、成果の実体験。反省会、フォローアップの重要性など話していく。
河漢移民のためにベガスで既に小中高学校が30校近く新設されたが、まだ数は足りていない。そこに、アンタレス都内の高校、大学生が一部授業を担当していることも説明。女子学校からは保育園、幼稚園にも丸々入っている。
授業の単位としてくる子もいれば、インターンとしてお給料を渡している場合もある。
このプレゼン授業は、ベガス構築と途上地域開発は別々にしているが、また来てほしい、両方聞きたい、他のクラスや学年でもしてほしいという反響が非常に多かった。
そう、意外にもアンタレスの頭のいい学校は、ファクトの予想と違って非常に反応がよかったのだ。
ユラスの総番長サダルメリクの前で、皆さんを落としに落して申し訳ないくらいである。反省しろとファクトはラムダに叱られていた。
時々「試験もあるのに、なんでこんな授業に付き合わないといけないんだ?」みたいなクラスや学校もあったし、し~んとして授業を始めにくいクラスもあった。
そういう時、真面目な学校の場合は、まずユラス人の特徴を備えた…薄い髪色、薄褐色肌のファンタジーに出て来そうなニッカや、ストリートファイトできそうな女性ファイターソラなどが出て行けば、だいたい押し黙る。特に男子。
バリバリ進学校は男子の比率が多く、女子に弱かった。女子の割合の多い学校はレサトを同行させる。掴みはそれでOK。めっちゃ黄色とハートであふれていたが、奴はファクトのクソ仲間である。学校でクソをしても恥ずかしくないらしい。ファクトでも少し恥ずかしいのに。
ファクトはめんどくさいので、エリートたちにつつかれたくない心星名は隠していた。
シーンとしているクラスも、だいたい途中から真剣に耳を傾け、最後は先のように盛大な拍手で終わることが多かった。今ひとつの学校もあるが、個人的に後で感想を言いに来る生徒もいてみんなやる気になる。
とくに、現地学生と共同でする授業の紹介の評判はよく、すぐに参加したいという反応も多い。
ちなみに数校、ヤンキーな学校も回ってみたが、始めは女子が出るだけで口笛や歓声が出て、授業が始まると冷やかしが飛び、他事をしたり寝てしまう生徒も多かった。
でも、撮影許可範囲の開発現場の状況を見せると、一気に目の色が変わる。
何せ軍人や自分たちよりヤバそうな人たちが現場を回しているし、武術訓練場面など出てくる。
これはおかしい。一部教官、ユラス軍人の顔は隠してあるが、なぜ地域開発に接近格闘術がいるのか。
ちなみに、VEGAから提供される他大陸の資料は、え?戦場?みたいな写真もあった。
こんなこともあった。
「なんで武術の訓練とかそんな事までしてるんすか?」
という質問がヤンキー君から来るので、
「自己鍛錬と自己防衛のためです。時々危ない人もいるので。」
と答えると、お前らが?笑えると茶化され、敢えて話に乗ったファクト。
「おかげで僕の方がみんなより強いです!」
と煽ると教室はファイティングモードに。ゴッツイ先生も乗ってきて、なぜか腕相撲大会になり、ファクトとリゲル、ソラ、南海の学生2人で1クラスに完勝したこともあった。
そして、そのヤンキー校から数人。ベガス学校の行事がある度に手伝いに来るようになった生徒もいる。
ただ行っただけで盛り上がったのは、ファクトが通っていた蟹目第三高等学校だ。
幼馴染のユリ、ヒナやタキ、リウたちもいる。かつて、はしごしていた各部活のメンバーが罵声を飛ばす。
「おーーーーーーー!!!!!!!」
「ファクトだーーーーーー!!!!」
「裏切り者ーーーー!!!!!!!」
「背が伸びてんなーーーー!!!バスケ部来いって言っただろ!!!!」
の歓声で同級生とハイタッチしながら教室に。
「蟹目に戻って来い!!!!」
「かわいい彼女がいると聞いたが?!!」
「ばか!アホ!サッカー部に来い!!!」
「裏切り者です!」
とファクトは教壇にピースして立ち、ブーイングを食らってもピースしていたら、先生に巻いたノートでバシッ!と叩かれる。1年生の時からファクトを知っている社会科の先生だ。
「さっさと始めろ!」
この時は、ベガス教育開発のプレゼン。たくさんの拍手が飛び交う。この後、数人が藤湾大学への進学希望をしたらしい。
「ファクトーーー!!リゲルー!!」
「ソラちゃーん!!覚えてる?!藤湾大で会った!」
「あ!えーと、ヒナにユリ?!」
「おひさー!元気だった?!!」
教員室でお茶をいただいてお話をして帰ろうとすると、同級生に囲まれどうにか抜け出したファクトにヒナやユリたちも寄って来た。
ニコッと笑って、ファクトに手を振るユリにファクトも手を振る。
リウはキョロキョロ周りを見渡した。
「ファクト、あの子は?ほら!背の低い子!長い茶色の髪を2つに縛った…」
「あの子…?ああ、ムギは中学生だし今ベガスにいないよ。親戚のいる国にいる。」
「…そうなんだ…。」
まさか藤湾大見学以来、まだムギが気になっていたとは。
ムギは暫くユラスでそのまま養生することになっていた。学校も現地に通う……はずだったのに、なんとまた南メンカルのガーナイト付近に行ってしまったらしい。オリガンからチコが大激怒で連絡してきた。ワズンがものすごいお叱りを受けていたが、ワズンは来てしまったムギを現地で受け入れただけである。
ムギは、もういい加減に水道どうにかならないの?!と言いに来て、南で亜熱帯の水道設備を整えてくれる業者を探しに行っていた。
強すぎる…。
残念ながら普通高校生リウは、ムギの後すら追いかけることができないだろう…。
軍事国家ユラストップの軍人たちすら、すり抜けるのだから。




