クッ殺さん邪魔なだけの鎧を脱ぎ無防備になる
「なんだって? ハズカシーメって」
「屍狼さん藪から棒にどうしたの?」
「あぁ。素材調達の話をしだたろ?」
「してた」
「あれ、エルフが隠れ住む広大な樹海、ハズカシーメ大森林なのさ」
なるほど。
異世界で足替わりに使う転移魔法。
転移してきたのは、たったの5名。
入口がエルフの里なら説明がつく。
大抵、森の奥深くにあったりする。
「エルフは魔法の扱いに長けているが、徹底的に体力が無い。しかも、完全草食で物音や環境の変化に敏感だ。母上など扉をノックする音に驚いてパニックになり、足をポッキリ骨折するまで逃げ回ったこともある。つまり、臆病なのだ」
「大怪我だろ、臆病でまとめるなよ」
「危険なので、この紐でつないで散歩していた」
「つまり、その散歩の担当が」
「ウケール家の当主、父上だ」
てっきり、奴隷商人だとばかり……
随分スラスラ出てきたと思ったが。
『長耳エルフ合法ロリ万歳』
この白豚貴族に似合いのセリフだ。
「マジデメッチャ・ウケールでゲス」
「若者ぶって失敗したような自己紹介ですね?」
異種族間の子は産まれ持っているはずの長所が薄まる傾向があると、屍狼さんは言っていた。これには長所をフル活用するライフスタイルの『異世界では』という注釈がつくのだと思う。
さしずめ、クッコロさんの場合……
極端なほどの体力不足は母ゆずり。
魔法の不才は父ゆずりなのだろう。
「ところで。半壊したハーフプレートメイル、治したの?」
「そう! この姿を見せるため、急ぎ公園へ向かったのだ」
ぽん! と、左胸のあたりを叩いた。
今は、戦闘後の女騎士っぽい装備品。
動作を妨げて、邪魔するだけの防具。
そんな状態しか目にしたことがない。
これが元の形なのかは、わからない。
朝の東雲公園に来る恰好ではないことだけは確かだった。
「これキナコのシワザなのらにゃあ!」
「しわざって、悪いことしたみたいに」
「裁縫が得意と聞き、繕ってもらった」
「裁縫か? ……これ、板金修理だろ」
朝っぱらにガンガン鉄板を叩いて、歪みや凹みを整える。かなり騒々しい作業をしていたと想像できるが、年寄りばかりのアパートで、皆さん早起きだから苦情は無いだろう。
残念頭で不器用だと言っていたが、バラバラになっていた山田君を繋ぎ合わせて屍狼さんを作ったのも、キナコちゃんなのだ。手先が大胆かつ器用すぎる。あれは照れ隠しなのかもしれない。
「まったくもって見事な腕前だ」
「にゃはは、それほろれも~!」
邪魔するだけの防具、か。
「もう。 ……おっぱい零れたりしないのか」
ちょっぴりガッカリした。
伯爵夫妻は、ここと同じ間取りの空き部屋に滞在することになった。照明を点けたり消したり、蛇口をひねったり、異世界情緒を満喫している様子にひと安心。
広大な森林を有するウケール領から一転、江戸間8畳に家族3人では手狭だが、そこは旅行気分で我慢してもらうしかない。
「わからぬことは、ジンに尋ねるといい」
「助かるでゲス」
「あとは夕食だな、こちらで用意しよう」
「楽しみでしゅ」
ぱ た ん
「これでよし。戻ろうか」
「ん? うん、そうする」
「早速、着替えなくては」
「それ、着替えるのか?」
「そのために修理してもらった。当然、着替える」
「そうなの?」
「女騎士の着替えを手伝う。男の浪漫だからな!」
それは、異世界男性の浪漫だな?
オレのために、キナコちゃんに修理してもらったらしい。
ハーフプレートメイルを脱ぐから、手伝えと言われても。
装着方法よく知らないんだけど。
「背中のベルトから、頼む」
緊張している、紅い瞳が小刻みに震える。
でも……この目玉、お父さんと同じ色だ。
なんとなく、有難味が薄まった気がする。
長い髪を掻き上げると、背中に太い革ベルトがあった。
リング型の金具を通してから、2巻きで固定している。
他、何ヶ所か同じ固定方法。
これを解くのは簡単そうだ。
どんどん外していく。
と?
「おっと!」
「ひゃあ!」
ガチャン! と、音を立てて切り離された。
咄嗟に受け止めて落下を防ぐ。
いやぁ……これは危なかった。
「想像するより重いものなんだな?」
「そ、そうだな。これは騎士の魂だ」
「足の上に落ちたら骨折しかねない」
「あ、重さ。 ……重さのことか?」
「これは、外してはいけないベルトだったのか」
「それは体形に合わせるために使うものだろう」
「このまま持ってるから」
「 こ の ま ま ―― ぁ?」
「あと2つ外せば終わる」
「後ろから抱き着かれたまま続行するのか?!」
「早く脱げよ」
「 ひ ぃ ―― い ぃ い い っ !! 」
ん……なんだ?
「くっ、首筋に、息がかかるのだ!」
「あぁ、それで」
「ひぃゃああ!」
「どうだ?」
「はっはぁ、外れ、ました」
「よしよし、床に置くぞ?」
ゴトリ
これじゃ貧弱なクッコロさんには重装備すぎる。
正規の手順なら、自分で着脱できる作りだろう。
毎回、手伝いが必要とは思えない。
クッコロさんがやってみたかったんだろうなぁ。
さては、女騎士の浪漫だな?
さて、と。
……ん?
「クッコロさん、その恰好。下着はどうしたの?」
「だから。 どうせ鎧を着たら見えないだろう?」
「待て待て、こっち向くな! 見えちゃうから!」