たいせつな友達
「たいせつな友達」
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空に輝く太陽は、いつまでも僕らに微笑んでくれたらいいのにな。
雲はもわもわしていて、どんな形でもないのかもしれない、と僕は少し思った。
「透くん、空は綺麗ね。」
梓が合わせるようにそう言った。
「すいきんちかもくどってんかい。」
「楽しそうに、どうしたの?」
僕は傍に落ちていた木の枝を拾い上げてペンを握るように持つと、宙に徐に円を描いた。
「太陽から近い星の順番。」
「水星が一番近いね。」
秋の蝶々がその辺を通っていった。
僕らがいる草原は家のガレージの奥の道を抜けた所にある。その道を抜けると杉の木が連なり草原の空間が広がっている。森がその先にあって、人はあまりいない。家自体が町の離れなのだ。
「地球じゃないんだねって思って。天動説だ。僕は人類が発達していなかった地動説の考え方が好きだったよ。」
「宇宙は色んな星の影響で周回しているもんね。ね、それより、透くん午後から仕事だけど、こうしていていいの?まだ10時過ぎだけど…」
「僕は本当は1人でいたかった訳だけど、なんで梓はいつもいるんだろう。僕が1人になりたい時にいつも君はいる。だから考えたい事が半分位しか進んでいない。梓はヘンだ。僕はもう30分で支度を始めないといけないよ。」
「そうかも、でも、透くんと私は似ているの。」
「うん僕は、梓は僕に着いてきてる訳じゃないのを知っている。」
「うん、考え事をしたい時と場所がなんだか重なるんだもんね。だから私も私の考えたい事の三分の一も考えられていないもの。ふふ。」
「だからヘンだと思う。場所を変えればいいのに、君は結局僕の話に付き合って自分の時間を潰している、どうしてだろうか。」
栗色の髪にカールがかかった長髪を梓は持っていた。透き通る白い肌は夏頃の日焼けとは無縁だったと思わせられる。彼女とはただの友達で、もう三年以上の付き合いになる。彼女はサラッとした口調で返した。
「あぁ、同じだった、今日は何を考えてるんだろうって。透くんの考えている事は、生産性がなくて限定品みたいだから、話そうかなって、共有しようかな、って。君の、誰の為に言っているかわからない考え事は、私を安心させるんだ。」
「世の中忙しないからね。だから僕は1人で考えようとするんだ。でも、言われてみれば誰かの為に考えてるのかもしれないな。不思議だ。」
僕は手に持った枝をまた地面に置いて、杉の木の傍で咲く誰かが植えたであろうブーゲンビリアの花に揚羽蝶が留まるのを見た。それから15分位、風にあたりながら梓とパンはご飯より手間がかかるけれど主食なのだ、という不思議さについて話した。
それも一段落すると、僕は改めて違和感を覚える。
「でも違うな。僕は僕の為にこういう事を考えてるのだと思う。梓はもっと違う事をした方がいいんじゃないか?きっとこんな話に付き合うより沢山の発見があると思うよ。」
「そうかな、その日その時の偶然に生きていくのが方針なの。私は、偶然に救われるんだから。」
「なんだか神妙だなぁ。」
梓の笑う顔がなんだか僕は不思議だった。彼女なりのセオリーがあるらしいのだ。
僕はふと家に戻る前にでもこれは言おうと思って口を開いた。
「こんな自分の考えを誰かに付き合って貰えるのは幸運だとおもう。君がいて良かった。」
そうして僕は方向をガレージの方へ向けた。
梓はもう少しここに留まるみたいだ。揚羽蝶と梓を残して仕事へと向かうのは、少し想像をかきたてる。きっと蝶々は彼女をおちょくろうとするだろう。梓は顔の周りに飛ぶ蝶々の風でくしゃみをするかもしれない。それがちょっと面白いかもしれないと思えた。
梓は自分の立ち位置を動かさず、僕の方を見て微笑んだ。
「ありがとう。」
と彼女は言った。はて、と、何故お礼を言われたのだろうか。そう思ったけれど、サンキューユアウェルカムの流れなのだな、と思ってそこは納得する事にした。
「またね。」
そうして僕は草原を後にした。彼女もお昼には戻ってくるらしい。そうでなきゃヘンだ。
僕はこの後の仕事の流れを思い返したりして、空やパンの思い出に蓋を閉じた。
久し振りに書いてみました。今後も書けるといいなぁと思います。短編小説だと思いますが。