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強行犯特別捜査班 2  作者: 村雨海香
1/7

イジメ捜査 1

 ここには、女性刑事ばかりの部署がある。警視庁ーー署刑事課強行犯特別捜査係、安積班だ。警察組織は男性社会と言われるほど、男性が多いが、ここは全員が女性の刑事だ。強行犯係と言うと、殺人、窃盗、強盗といった凶悪犯の捜査だが、この安積班は他に捜査している事がある。


 秋風が吹く頃、安積班は捜査が終わり一息ついていた。

「ハンチョウ、お疲れ様です。」

 声をかけたのは、結城ケイト巡査部長だ。名前は男性の名前だが、列記とした女性刑事だ。その身長と顔は他の女性から見ても、惚れるほど美しい。

「今回の事件は本当大変でしたよ。」

「でもまたハルさんが山勘を発揮してくれて、捜査しやすかったです。」

 話をしているのは、竹内ハルト巡査部長と槙野ヒロキ巡査長だ。二人も男性と思わせる名前だが、正真正銘女性だ。竹内は、ぽっちゃりしていて動きが鈍くとても刑事とは思われない事が多いが、頭の回転の早さ、山勘の的中率はおそらくーー署一と言っても過言ではない。槙野はとてもしなやかな身体つきで、警視庁のポスターにも起用されている。その美貌に勝てる者はいないだろう。

「ハンチョウ、今回の捜査でこんなに感謝状来ましたよ。」

「やっぱり、ハンチョウ凄いです。今回はハルさんもかっこよかったですよ。」

 感謝状を手に持って入ってきたのは、永尾ナツホ巡査部長と中野イツキ巡査だ。永尾は元鑑識出身。班内一の男勝りの性格だ。班内で二番目に怖いと言われている。中野はこれまた、名前は男性だが女性刑事だ。まだ若く班内ではとても好かれている。そのかわいい見た目は誰もを虜にしてしまう。

 さっきから皆に「ハンチョウ」と呼ばれている人物は、安積ミツキ警部補だ。身長は高く、スタイルもいい。おまけに笑った顔はまるで聖母を思わせるほどだった。署内で一番怖いと恐れられているが、味方につけるとこれほど頼りになる者はいない、と言われている。しかし、彼女はある問題を抱えている。それは、刑事だが疲れるとすぐに熱を出し倒れてしまうのだ。また、捜査が立て込むとちゃんと食べなくなり、一気に痩せてしまうのだ。おそらくまた熱を出すだろう。

「ハンチョウ、今日は大丈夫ですか。」

 声をかけた結城は、安積の額に手を当てた。

「うーん、ちょっと怠いかも。」

「確かに、ちょっと熱いです。捜査中に気を張りすぎです、もっと力を抜いて捜査してください。」

「分かったから、そろそろ手を退けてよ。いつまで触ってるの。」

 結城は安積を同じ女性の憧れでもあるが、同性愛でもある。鈍感な安積は、それに気づいていなかった。しかし結城は夫と子供持ちだ。その逆に安積は旦那と別れ今ではばついちとなった。別れた原因は安積の仕事だった。殺人の捜査をしたと思ったら、潜入捜査をしてといった多忙の日々を過ごしていた事により、心がすれ違い別れてしまったのだ。今では一人娘の涼子と月に何度か会っている。

「今日は家に帰ってゆっくり休んで下さい。」

 村雨にそう言われ、その日は当直の槙野以外皆定時で上がった。


 次の日、朝から電話があった。それは強行犯特別捜査の電話だった。

「はい、強行犯特別捜査班。」

「学生が転落死していたそうだ。現場に急行してくれないか。現場に遺書が残っていたそうだ。」

 その電話は課長永沼元警部からだった。この電話にかかってきたと言う事は、いじめ捜査と言うことだ。ここは、強行犯係と別にいじめ捜査班の名前も持っているのだ。ここに集まった刑事は学生の頃いじめにあっていたのだ。

「わかりました。現場に急行します。皆、渋谷二丁目のビルから学生が転落死したそうよ。遺書も見つかっている。現場に急行するわ。」

『はい。』

 皆は部屋を出て行き、最後に安積が出て行くのが、いつもの流れだ。


 現場に臨場すると、すでに地域課が周りを囲っていた。安積達は腕に「捜査」と書かれた腕章をはめ、白い手袋をし現場に向かった。keepoutと書かれたテープを潜ると、血を流した少女がいた。

「鑑識さん、触ってもいいですか。」

「写真は撮りました。どうぞ。」

 安積達は少女の側に落ちていた鞄を取り中を見た。そこには財布とお弁当が入っていて、彼女の身につけているリュックには、教科書が入っていた。財布を開けると学生証明書が入っていた。名前は並木イチカ、学校はーー高等学校二年生だ。

「死亡推定時刻は。」

「午前六時から午前八時位かと。監察医に頼んで胃の内容物を調べればもっと詳しくわかると思います。」

「お願いします。それから遺書はどちらに。」

「すでに押収済みです。遺体を運び出しますので、もうよろしいですか。」

「ええありがとう。」

 安積は遺書を鞄にしまい、皆を見た。

「ケイト、ナカ二人はこのーー高校に行って彼女の事聞いてきて。ハルとヒロでこの周辺の聞き込み、ナツホは彼女の家に行ってちょうだい。」

 返事をすると、すぐに、行動に入った。

 竹内はビルを見上げていた。

「どうしたの、ヒロ。何か気になるの。」

「はい、学校登校前にこんなビル寄るのかなって、さすがに受付の人が留めると思うんです。」

 確かに、この時間に学生がビルに入って行くのは気になる。安積もそう思っていた。ビルの中に何かあるのだろうか。

「ハル、ヒロ、周辺捜査と一緒にビルの中に学生に関する事務所があるか調べてちょうだい。」

「わかりました。」

「鑑識さん、屋上の靴あとは一つでしたか。」

「今調べていますが、一番上の痕跡はローファーの跡一つでした。靴あとのが散乱しているのが少し気になりますね。」

「ありがとうございます。」

 安積は礼を言うと、永尾と一緒に署に戻り報告書の制作に取り掛かった。


 結城と中野は被害者の並木イチカの高校へ来ていた。事務室で校長先生を呼んでもらった。そもそのまま二人は、校長室に招かれた。

「ーー署の結城です。」

「中野です。」

「刑事さんが来たということは、うちの生徒に何かあったのですか。」

「実は、お宅の生徒の並木イチカさんが今朝遺体で発見されました。近くに遺書が落ちていたので、自殺と思われます。」

 校長は何も言わず部屋を出て行き、生徒資料を持ってきた。そこには並木イチカの作文と個人情報があった。

「個人情報が必要でしょう。並木さんの住所です。」

 並木イチカの住所は、目黒区だった。中野は永尾に住所を送り、彼女の写真を竹内槙野に転送した。結城は下校時、生徒に話を聞いていいか相談をした。許可が出たため、時間を聞きそれまで署に戻り安積の手伝いをする事にした。


 その裏で、竹内槙野は聞き込みをしていた。その時間に通りかかった人は皆会社や学校に行ってしまっているので、並木イチカを目撃したことがあるか聞いている。しかし誰も朝から並木イチカが、このビルに出入りしているのを見ていなかった。竹内と槙野はビルの受付に中野から送られた写真を見せた。

「ええ、見たことありますよ。月に二三回ほど見ますね。私、アルバイト社員なので朝担当することは少ないのですが、担当の時に見たことはありません。夕方によく見かけました。」

「今朝の事件は知らないのですね。」

「はい。今日の入りが九時だったので、出社して知ったというかんじです。」

「彼女がこのビルの何処に行っているか御存じですか。」

「いえ、私達初めてのお方の案内なので、通いの方はよく分からないです。」

「わかりました。ありがとうございます。」

 受付の人にお礼を言うと、竹内は階段の方を見ていた。槙野はノートを鞄にしまうと尋ねた。

「どうかしましたか。」

「屋上に行って見よう何かわかるかもしれない。」

 竹内と槙野は屋上に来た。渋谷の町がよく見える気持ちのいい場所だ。二人は手袋と靴カバーをして歩いた。

「最期に彼女の目に映った景色はどんな景色だったのかな。」

 槙野が一人呟いた言葉は自分の心に酷く沈んだ。


 中野から連絡が来てすぐ永尾は強行犯係を飛び出して行った。彼女の家のインターフォンを鳴らすと、泣きながら一人の女性が出てきた。よく見るとその顔には痣があった。

「ーー署の永尾と申します。少しお時間よろしいですか。」

「今朝の・・・イチカの事ですよね。」

「辛いでしょうがイチカさんについてお話していただけますか。」

 女性は永尾を中に入れた。辺りを見回すといたるところが、修理されていた。お酒のゴミが山になり臭いまでしていた。

「お名前よろしいですか。」

「はい。私は並木ルカと申します。」

 永尾は並木イチカについて尋ねた。

「実はイチカは学校でいじめを受けていました。私は何度も学校に相談しました。でも解決しませんでした。担任の先生に尋ねると『イジメなんかありません。何かの間違いでしょう。』と言われたのです。」

 永尾はメモを取りながら思った。もしかすると、これは生徒だけではなく先生も関わっているのではないか。

「後、もう一つ。この家具の損傷はどうされたのですか。」

 並木ルカは血相を変えて言った。

「私が悪いのです。夫を満足に出来なかったから、ちゃんとしていれば夫が怒る事はないんです。」

 並木ルカは永尾の身体を揺さぶり訴えて来た。その時玄関が開く音がした。お酒の匂いが強くなった。

「お前誰だ。」

「ーー署の永尾です。」

「何の用だ。」

「イチカさんの事で話を伺っていました。それに、あなたにも話を・・・。」

 話をしているのに永尾を押しのけ、並木ルカの前に行き平手打ちをした。

「またお前は勝手な事をして、人を入れるときは電話しろって言っているだろ。」

 永尾は男の手を取り手錠をかけた。

「あなたを、暴行及び公務執行妨害の容疑で逮捕します。」

 その男は大人しくなり、永尾は安積に連絡を入れ応援を要請した。


 安積は報告書を書きながら、並木イチカの書いた遺書を見ていた。

『私は、学校のいじめに耐え切れません。私が死んでも哀しむ人はいません。私が死んでも世界は変わらないので、この世から消えます。 最期は大好きなダンスを踊ってこれを結びとします。お父さん、お母さん先に行ってしまってごめんなさい。』

 それは男性が書いたような字だった。世の中には、男性のような字を書く女性もいれば、女性のような字を書く男性もいる。安積は鑑識係に頼み一冊ノートを借りた。

「かなりボロボロです。読めるところはありますが、酷いものです。」

 安積がノートを開けるとその字は一目瞭然だった。

「鑑識さん、この字筆跡鑑定してもらえませんか。」

「わかりました。安積さん、並木イチカさんの遺体に複数殴られた跡があったんです。しかも歯には糸屑もはさまっていました。」

 自殺する前に猿ぐつわを噛むだろうか。

「それから、監察医からは胃が空っぽで過去に何度も殴られていたと伝えられました。死因は後部挫傷で身体を強くうち、首の骨が折れた事が原因でしょう。」

 安積は礼を言って鑑識係を後にした。

 安積が部屋に戻ると結城と中野が戻っていた。

「で、どうだったの。」

「学校は授業中なので話しは聞けませんでした。一つだけ手がかりが、並木イチカさんの作文です見て下さい。」

 安積は作文を受けとった。中には思わぬ事が書かれていた。

『私はイジメに耐え切れません。先生も私を見てくれない。父も話を聞いてくれない。話すと「お前が悪い」と返してきます。』

 あまりに衝撃な文だった。最後の一行には、

『いつ殺されてもおかしくない。』

と、書かれていた。安積は作文から目が離せなくなり、過去の出来事が思いだされていた。その時、永尾から電話がかかってきた。安積は現実に戻る事ができた。

「どうしたの、ナツホ。」

「並木イチカさんの父親を、妻のルカさんを殴った事による暴行と公務執行妨害で緊急逮捕しました。応援をお願いします。」

 わかったと返すと、中野を並木家に行くよう指示をした。結城は一緒に報告書の制作に取り掛かった。


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