中編
6
全ての言葉は噛み千切られて
糞尿に混ざって消えていく
どんなに口にしても
たったひとつの「あい」すら残らない
私の朝は
痛みと痛みと痛みに満ちて
気持ち悪さと醜悪なにおいが立ち込める
朝食を食べた後
義理の父が、注いでくる
咽せ返る獣のにおいと肉団子状の欲望
私から
自由と、その可能性を奪っていく
毎日、毎日、毎日
私は、殺されていく
涙と血にまみれた私に
「このクズが」と吐き捨てる義妹
どくん、どくん、と
聴こえてくる
かすかに残った私の感情
今日も
学校に
いく
7
白さのなかで跳ね続ける命は
いつ人間の黒さを知るだろう
知らず知らず染まっていくのなら
それは幸せと言える
「ねえ、アマツカって家で何してんの?」
家は嫌いだから外で先生と抱き合って
それでも帰る夜の家ではなじられて
朝が来ると手足の自由を奪われる
なんて
言えるわけもないから
「うーん、特に何も」と
気持ち悪い笑顔を作って答える
白く、なりたい——でも
なれるわけがないから
せめて
見えなくなるまで黒くなりたい
それでも、きっと
私という塊は
世界のどこかに存在する
8
昼の光に焼かれたい
浄化されたい、燃え尽きたい
だから
気持ち悪い制服と靴下を脱ぐ
私の密かな昼休み
「とうとう服も着られない豚になったか」
クズモチの言葉は、重くも鋭くもなく
少し、こそばゆい
「ねえ、今日も私、臭いかな」
「吐き気がするほど臭い」
「私が来るの、迷惑?」
クズモチは無言で振り向いて
まっすぐ伸びる刃物のような目をしてくる
「こんなところに来なくなればいいと思ってる」
「それは、まだ無理」
「獣なんて——」
クズモチは、顔を歪めて遠くを見つめる
この、屋上では
手枷も足枷も、首輪すらせずにいられる
だから私は、
自分の色からすら解放されるのだと信じて
服を脱ぐ
風に
脱いだ制服が揺れて——その、リズムで
「獣なんてすぐ殺せる」
と
クズモチは言った
9
生徒たちが、帰りはじめる
焼け爛れたにおいの靴箱のせいにして
私は学校に残り続ける
においが、薄まっていって
この学校のどこも獣のにおいはしないと思い知る
廊下の向こうから
目を光らせた何かがやってくる——ように思うのは
私の恐怖心——でも、半分は
私の欲望
だんだん、私自身のにおいが強くなっていき
その臭さに耐えきれず嘔吐する
女子トイレの、一番奥
綺麗なものだけ流れていって
捨てたいものは残り続ける
涙が、顔をむくませて
その、偽物の命みたいな感触が嫌で
ひとり、暴れる西陽のトイレ
傷がついて、血が流れて
そして生まれた隙間に
今日も焼け焦げた陽が、差し込んでくる
10
抱かれて、貫かれて——でも
そこで終わる未消化な交わり
「先生の全部がほしい」
その言葉は、本当
抱かれて、泣かなければならない私の
歪んでしまった求愛
「これ以上はだめだ」
と、言われて——私は
やっぱり自分は獣だったと思い出す
この手も、足も、口も、声も、何もかも
私は獣に変えられてしまった
叫ぶように——いや、違う
叫びながら、私は先生の名前を呼んで
あいしてる、と連呼する——ただ
あいしてる、と——
裸の私
こんなにどす黒い、私の裸
涙が
先生の体に落ちる——落ち続ける
すくわれることもなく
だから
私たちは濡れていく
抱きしめられた腕のなかで
熱帯雨林の情欲のように