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桜の季節に君を想う  作者: シズマ
桜の季節に君を想う ~2月26日~
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芳野亜子#03

「いまだに前の住人の郵便物が届くから、それを防止するためにな」


「それなら私が作ってあげるよ」


 適当な紙切れとペン立てにあるマーカーをとり書き始める。


 見慣れた『河野』という苗字が、平仮名で力強く書かれていた。


「これ外に貼ってくるね」


 パタパタと外へ行き、しばらくして戻ってくる。


 その表情は満足していた。


「それにしても、部屋片付いてるよね」


「無駄な物を置いていないからな」


「確かに、必要最低限って感じだもんね」


「必要ないものを置くと、管理が大変だ」


 芳野は部屋を見回る。


 特に珍しい物はないだろう。


 いや、傍から見たら珍しいのだろう。


 男一人の家にしては片づけが行き届いてる。


 それが珍しい。


 そういった所。


「準備できたぞ」


「分かった」


 返事とは異なり、一切出かけるそぶりを見せない。


 それどころか何かを探しているように見える。


「何を探してるんだ」


「ナニをするものを探してる」


 コートの襟を後ろから掴み、そのまま玄関まで引っ張る


「そんなものねぇし、あっても見える場所には置かないだろ」


「は! つまり見えない場所に…」


「いい加減にしろ」


 玄関の鍵を閉める。


 扉の真ん中には先ほど貼られた、表札と称した紙切れが貼られている。


 今にも風で飛ばされてしまいそうなほど弱々しい。


 目的地は最寄り駅から4駅離れた街。


 商店が多く立ち並ぶ場所。


 街に行けば、ある程度の物は揃うだろう。。


 街まで250円、往復で500円。


 一人暮らしをしている人には、大きな出費だ。


 電車に揺られて、しばらくすると目的地に到着する。

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