芳野亜子#02
「準備できたの?」
「いや、まだ出来てない」
部屋の奥を覗き込みながら質問をされる。
その質問に対し、即時に答える。
別に考える事もない。
今の現状をそのまま伝えるだけ。
「普通はさ、出掛ける時間までに準備ってしない?」
「一般的には、そうするだろうな」
「あんたは、一般じゃないのか」
そんなやり取りをする。
別におかしい事はない。
これが普通なのだから。
普通だからこそ、相手も責めたりしない。
「今から準備する」
「早くしてよね」
家の中に招く。
流石に外で待つのは辛いだろうし、こちらとしても辛い。
「久しぶりに家に上がったかも」
「そうだっけか?」
「大体、2ヶ月ぶりかな?」
「そんなになるのか」
会話をしながら、準備を進める。
一緒に出掛ける、と言ってもショッピングに付き合うだけ。
本格的に、何処かに出掛けるという訳ではない。
「あ…」
「どうしたの?」
「いや、表札ほしいなって思い出した」
「一人暮らしで必要?」
一人暮らしだから必要だとか、必要じゃないとかの話ではない。
大学に入学してから、一人暮らしを始めた。
前から一人暮らしをしてみたいと思っていて、一人暮らしに良い幻想を抱いていた。
親の束縛から解放されると聞けば、口うるさく言われることもなくよく思えるかもしれない。
しかし実際は楽しいことばかりでもない。
一人という自由と引き換えに、全てを自分でこなさなければいけない。
一人暮らしを始めると、親の有り難味が良くわかる。




