桜が咲いたら
「俺も好きだ。本当の気持ち」
「隆之」
「偽りの記憶だろうと、過ごしてきた日々は偽りじゃない」
「…うん」
「だから…」
「なに…?」
「待っていてくれ」
河野は芳野に最後の言葉を残す。
ありのままの気持ち。
そして、好きだからこそ。
「必ず会いに戻ってくる」
また会いたい。
「…うん。待ってる」
「さて、もう時間だな」
ゆっくりと消えていく河野。
誰もそれを止める事は出来ない。
あとは、消えるのを待つだけ。
「待って! まだ伝えたい事が沢山っ!」
「じゃあな」
芳野は河野に駆け寄る。
そして、最後に触れる。
ことは出来なかった。
河野が消えると同時に、桜が咲き誇る。
先ほどとは違う。
全ての桜が満開に。
それは、河野との完全な別れを意味していた。
「嫌だよ… ねぇ… 嘘だって。そう言ってよ…」
誰も返事をしない。
屋上にいるのは、芳野一人。
その他には誰もいない。
「隆之…」
桜は綺麗に咲いていた。
それは夢のお話し。
全ては夢物語。
ありはしないお話し。
創られたお話し。
桜が起こした、悲しく切ない恋物語。
忘れたくない人がいる。
でも、いつかは忘れてしまう。
そんな悲しいお話し。
「桜が咲いたら巡り会う」
そしてまた。
一つの恋物語が始まる。
桜が起こす、悲しく切ない恋物語。




