貴方が好きでした
「ねぇ?」
「ん?」
「何でそんなに落ち着いているの?」
落ち着いている。
そういわれたら、落ち着いているのかもしれない。
さっきまで涙を流していたはずなのに。
「寂しくないの?」
「寂しくないって言ったら嘘になる」
「だったら!」
芳野の声が震えている。
眼には涙が溜まっているように見える。
逆光で、しっかりと確認をする事は出来ない。
「……」
「ねぇ…」
「亜子…」
「…きだった…」
芳野の言葉を聞きなおす。
上手く聞き取れなかった。
確かに何か言葉を発した。
「今なんて言った?」
芳野に近寄る河野。
一歩ずつ確実に。
「好きだったの! あんたの事が!」
確かに聞こえた。
『好き』という言葉。
聞き間違いじゃない。
「亜子」
「好きで好きでしょうがない! でも…!」
「……」
「消えちゃうなんて… 酷いよ…」
河野の体が、再び透け始める。
もう、限界だ。
存在を維持することは無理だ。
「たとえ、創られた記憶でも! この気持ちは本当だもん! 嘘、偽りもない! 私の本当の気持ち!」
「亜子…」
「どうしてだろう… いつも上手く行かない…」
芳野の頬を伝い、涙が落ちる。
「ダメだね… 私って…」
「聞いてくれ」
「え?」
河野は維持できない存在のまま、芳野に話しかける。
もう長く持たないだろう。
体全体が透けている。




