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桜の季節に君を想う  作者: シズマ
桜の季節に君を想う ~3月5日~
27/29

待ち人#02

「待ってくれ! あと少し…!」


 河野は時計を見る。


 時刻は15時45分。


『分かった。4時ぐらいに行く』


 芳野に対して返したメール。


 いつもであれば待ち合わせ場所に10分前にはいる。


 いや、もしかしたらもっと早い時間から待っているかもしれない。


 もしかしたら、もう待っていないかもしれない。


「あと10分でいい!」


 河野は誰に言うわけでもなく、そう叫ぶ。


 次第に体が元に戻る。


 もう時間がない。


 河野は教室を飛び出す。


 そして、待ち合わせの屋上へ向かう。


「はぁはぁ!」


 屋上の扉を開け、飛び出す。


 そして、姿を探す。


「やっほ」


「はぁはぁ」


 芳野は待っていた。


 いつもと変わらない様子で。


 いつもと同じ笑顔で。


 いつもと同じように気さくに。


 夕日を背景に、河野を見据える。


「どうしたの? 疲れているみたい」


「いや、大丈夫だ」


 芳野はゆっくりと喋る。


 いつもと変わらないように。


 ただそれは無理をしているようにも見える。


「それで、用件はなんだ?」


「少女」


「……」


 河野はもう驚くことはない。


 少女の存在を聞いても、何とも思わない。


「今日、桜咲いたね」


「……」

「ニュースを見てびっくりしちゃった」


「そうだな」


「これだけ早く咲くのって珍しいだって」


 桜。


 少女に言われて、咲くことは知っていた。


 ここに来るまでに何度も疎らに咲く花を見てきた。


 ピンク色で小さい花。


「隆之とお別れ」


「…少女から聞いたのか?」


「ううん、違うよ」


 芳野は直接、少女から聞いたわけではないようだ。


 あの少女は、自分から答えを言う娘じゃない。


「分からないほうが不思議だよね」


「どういうことだ?」


「だって、木之本もクラスの皆も、隆之のこと覚えてないんだもん」


「……」


「ひどいよね…」


 河野は何もいえない。


 相手が自分の事を覚えていない。


 それは、存在が消えるから。


 相手は悪くない。


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