待ち人#02
「待ってくれ! あと少し…!」
河野は時計を見る。
時刻は15時45分。
『分かった。4時ぐらいに行く』
芳野に対して返したメール。
いつもであれば待ち合わせ場所に10分前にはいる。
いや、もしかしたらもっと早い時間から待っているかもしれない。
もしかしたら、もう待っていないかもしれない。
「あと10分でいい!」
河野は誰に言うわけでもなく、そう叫ぶ。
次第に体が元に戻る。
もう時間がない。
河野は教室を飛び出す。
そして、待ち合わせの屋上へ向かう。
「はぁはぁ!」
屋上の扉を開け、飛び出す。
そして、姿を探す。
「やっほ」
「はぁはぁ」
芳野は待っていた。
いつもと変わらない様子で。
いつもと同じ笑顔で。
いつもと同じように気さくに。
夕日を背景に、河野を見据える。
「どうしたの? 疲れているみたい」
「いや、大丈夫だ」
芳野はゆっくりと喋る。
いつもと変わらないように。
ただそれは無理をしているようにも見える。
「それで、用件はなんだ?」
「少女」
「……」
河野はもう驚くことはない。
少女の存在を聞いても、何とも思わない。
「今日、桜咲いたね」
「……」
「ニュースを見てびっくりしちゃった」
「そうだな」
「これだけ早く咲くのって珍しいだって」
桜。
少女に言われて、咲くことは知っていた。
ここに来るまでに何度も疎らに咲く花を見てきた。
ピンク色で小さい花。
「隆之とお別れ」
「…少女から聞いたのか?」
「ううん、違うよ」
芳野は直接、少女から聞いたわけではないようだ。
あの少女は、自分から答えを言う娘じゃない。
「分からないほうが不思議だよね」
「どういうことだ?」
「だって、木之本もクラスの皆も、隆之のこと覚えてないんだもん」
「……」
「ひどいよね…」
河野は何もいえない。
相手が自分の事を覚えていない。
それは、存在が消えるから。
相手は悪くない。




