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桜の季節に君を想う  作者: シズマ
桜の季節に君を想う ~3月5日~
26/29

待ち人#01

「これが本当に、創られているのか?」


 匂いもあるし、色もある。


 それを肌で感じることも出来る。


 それなのに創られている。


 出来すぎだ。


「あ…」


 いつの間にか学校へ来ていた。


 考え事をしていたせいか、それとも。


 待ち合わせには、少し時間がある。


「まぁ、いいか」


 学校の門をくぐり構内へ入る。


 中庭を通り、玄関口から中へ入る。


 見慣れた風景。


 学科別に分けられている教室。


 河野がいつも使う教室。


 明日から使うことの無い教室。


「…」


 寂しい。


 心から何か大切なものが取られるような。


 言葉に表せない喪失感を覚える。


「あれ…?」


 何かが溢れ出す。


 それは頬を伝う。


 口に入ると、しょっぱい。


「何でだ…?」


 自然と溢れ出す涙。


 それが何故だか分からない。


 止めようとしても止まらない。


「悲しいのか…?」


 創られた記憶。


 でも、確かに過ごした記憶がある。


 河野は腕で涙を拭う。


「未練がましいよな」


 今更この現実を拒もうとしている。


 消えたくないと、まだみんなと過ごしたいと。


 この日が来ても、後悔しないと思っていた。


 いつも通り過ごしてそのまま消えていこうと思っていた。


 そう思っていたのに。


「!? …嘘だろ?」


 涙を拭う時に気付く。


 腕が透けている。


 体も透け始めている。


 時間。


 存在維持の限界。


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