待ち人#01
「これが本当に、創られているのか?」
匂いもあるし、色もある。
それを肌で感じることも出来る。
それなのに創られている。
出来すぎだ。
「あ…」
いつの間にか学校へ来ていた。
考え事をしていたせいか、それとも。
待ち合わせには、少し時間がある。
「まぁ、いいか」
学校の門をくぐり構内へ入る。
中庭を通り、玄関口から中へ入る。
見慣れた風景。
学科別に分けられている教室。
河野がいつも使う教室。
明日から使うことの無い教室。
「…」
寂しい。
心から何か大切なものが取られるような。
言葉に表せない喪失感を覚える。
「あれ…?」
何かが溢れ出す。
それは頬を伝う。
口に入ると、しょっぱい。
「何でだ…?」
自然と溢れ出す涙。
それが何故だか分からない。
止めようとしても止まらない。
「悲しいのか…?」
創られた記憶。
でも、確かに過ごした記憶がある。
河野は腕で涙を拭う。
「未練がましいよな」
今更この現実を拒もうとしている。
消えたくないと、まだみんなと過ごしたいと。
この日が来ても、後悔しないと思っていた。
いつも通り過ごしてそのまま消えていこうと思っていた。
そう思っていたのに。
「!? …嘘だろ?」
涙を拭う時に気付く。
腕が透けている。
体も透け始めている。
時間。
存在維持の限界。




